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    ペッパー

    @pepper_aiueo

    デジタルって何???知らない話ですね

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    ペッパー

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    これは完成させる気のない小説です 平凡×爽やか+一匹狼
    アンチ王道転校生を健気に好いている爽やかくんと一匹狼くんとそれを見守る平凡くんの話だったような気がする

    「ねぇ、ここの問題ってどうやって解くの? 問一の応用? でもそれだとなんか変な数字になるんだよなー」
    「えっと、ここは多分……」
    「ここ、これで合ってるか?」
    「多分合ってるんじゃない? 俺も答え一緒だし」
     
     現在数学の時間。しかし、急遽職員会議が入ったらしく、この時間は全クラス自習となった。
     自習とは言え課題が出るわけで、俺たちはグループを組んでプリントと戦っていた。
     
     他の人たちも似たように四人グループを作り、机をくっつけてプリントをみんなで協力して解いている。
     当然の如く俺たち三人もグループを作って問題に立ち向かっていた。……視界の隅にある空席を無視して。
     
     
     
     
     
     俺たちのクラスに転校生が来たのは突然のことであった。
     その転校生は、この学園において人気のある生徒会役員や風紀委員を魅了した。現在俺の目の前に座る二人の男子も彼のことを好いている。
     
     生徒会役員や風紀委員には授業免除という特権が与えられていて、転校生にもそれを特別に適応させ、彼らは転校生を連れ回しているのだ。
     そうなると、授業免除が効かない俺たち一般生徒である三人はあぶれてしまう。
     
     そんなハブられた俺たちは、現在黙々とプリントにペンを走らせていた。
     
     
    「はー! やっと終わったぁー!」
     
     ぐでーんと机に突っ伏し、やり遂げたように声を上げたのは爽やかなイケメン男子である勾田(まがた)だ。
     生徒たちからの人気も高く、人当たりも良い。実際俺も何度か彼に助けられている。
     
    「プリントとかマジでだりーな」
     
     そう言いながら背もたれに体重をぐっと預けたのは、オレンジ髪が特徴的なイケメン男子である草薙(くさなぎ)。一見不良らしい見た目をしていて、近寄りがたい雰囲気がある。
     
     そんなイケメン二人に囲まれている俺は、どこからどう見ても平凡……いや、ガリ勉には見えるかもしれない。とにかく、至って普通の顔立ちをした至って普通の男子だ。名前は鏡園(かがみその)である。随分と大層な名字だ。良いところのお坊ちゃんかのような名字をしているが、残念ながら俺は普通に普通の生活をしていた一般人、すなわち庶民である。親戚にはそれなりの金持ちもいたが、俺には関係ない。
     ちなみに普通の生活をしていた、と過去形なのは、現在は良い暮らしをしているからである。
     良い暮らし、と言ってもこの学園に通う生徒ならば全員同じ暮らしであろう。すなわち、寮生活である。この学園は、山に囲まれているため市井に降りるのも難しく、全寮制の形をとっている。なにしろ山の麓まで降りるのに片道二時間かかるのだ。普通に毎日この距離を登下校するのはキツイだろう。全寮制であることも納得だ。
     それ故、この学園には莫大な運営費がかかる。そんなわけでこの学園には金を持ったお坊ちゃんたちが集まって来るのだ。
     ところで、俺は先ほど自分のことを庶民と言ったが、何故この学園に通えているのかと問われれば、俺が学力特待生だからと答えるほかない。学費や生活費などの必要経費は全て学園から支給され、俺はそのお金をやりくりしてこの学園で生活している。なんやかんやでそのお金も多額なため、余った分はコツコツと貯金中だ。
     
     さて、話は変わるがこの学園は男子校であり、同性愛が一般的である。まぁ幼少期からこの学園に閉じ込められればしょうがないだろう。
     美形を慕うまるで女子のような親衛隊という組織もあるし、学園のヒエラルキーのトップは顔がとりわけ良い生徒会だ。いや普通生徒会ってもっと地味な感じでは? 役員全員の顔と名前を全校生徒が知ってるって普通の学校じゃまずあり得ないし。とか思っていても仕方ない。郷に入っては郷に従え、長いものには巻かれろというやつだ。
     とにかくだ、そんな美形至上主義の学園において、平凡顔の特待生というのはまぁ面白くない。俺も俺で後ろ盾などがあるわけではないので、基本他人の顔色を伺いながら生活していた。
     
     そんなときに転校生が来たのだが。
     まぁこの転校生がすごいのだ。まず清潔さを度外視したモジャモジャ髪に、漫画のようなぐるぐる眼鏡。この時点で親衛隊はブチギレそうになっていたのだが、その上学園の人気者である生徒会や、それに匹敵するほどの支持率を誇っている風紀委員会、はてには現在俺の前に座っているような親衛隊持ちの一般生徒まで。手広く幅広く様々な美形をコレクションしまくり、生徒会と風紀委員会は常に自身の周りに侍らせ、一般生徒は日替わりで楽しむ。どうやらこの二人は今日非番らしい。
     
     そんな二人がどうして俺と一緒に課題をしているのかと言えば簡単なことで、俺がその転校生に何故か親友認定されてるからである。まぁ要するにアレだ、監視だ。
     と思っていたのだが、案外この二人の温度感は俺にとってはちょうど良く、どうせ友達もいないぼっち学園生活を過ごすぐらいなら、と二人の思惑を知っていながらも、僭越ながら普通に友達をやらせてもらっている。
     
    「にしてもすごいね、鏡園くん。特待生さすがだなー。課題あっという間に終わったし、残り時間何する?」
    「教室出るのもダメだしな」
    「教室出て良かったらどこ行くの?」
    「……そりゃ真っ先に玲於奈(れおな)のとこ行くけど」
    「行ったらダメだもんなー」
     
     ぐでんと机の上に突っ伏したままの勾田が笑いながらそう言い、それから何かに気づいたように顔を上げた。


    「玲於奈からだ」
    「は?」
    「いやキレるの早〜」
     
     いそいそとスマホを取り出した勾田が、画面を見て呟いた。そしてキレキレの反応速度でキレかかっている草薙を宥めつつ、勾田は通知を開く。
     
     ちなみに授業中のスマホは禁止だが、先生はいないしそんなことは知ったこっちゃない。俺はスマホ見てる暇があるなら勉強しないと特待生の座を引き摺り下ろされるかもしれないが、二人は別にそうでもないのだ。勝手にすれば良いと思うし、俺は勾田のこういう注意されないところで堂々とルールを破るスタイルはゆるい感じがしてそこそこ気に入っている。ここも温度感がちょうど良いと思うポイントだろう。
     
     あ、玲於奈というのはあの美形キラーの転校生の名前である。
     
     
    「今日の放課後、生徒会室来ないかって」
    「は? お前だけか?」
    「んなわけないじゃん、俺だけだったら多分俺だけって言ってるよ」
    「それもそうか」
     
     納得したように草薙は姿勢を正し、勾田が机の上に放ったスマホの画面を覗き込んだ。
     スマホには相変わらずトーク画面が開かれており、なんというか、とても事務的な連絡ばかり取っていることが伺える。
     
    「みんな友達、ねぇ……」
    「そういう部分が良いわけだけど」
    「なんというか、」
     
    「「報われないな〜……」」
     
     せっかく好きな人に遊びに誘われたというのに、雰囲気は暗い。それもそのはず、玲於奈は「みんな友達」を大事にしているのだから。
     そのせいで告白は非常にしづらいくせして、競争率は異様に高い。
     毎日毎日生徒会と風紀は一緒という時点でアプローチのチャンスは少ないのに、一般生徒はさらに会う機会に恵まれない。可哀想なことである。
     しかもやっと一緒にいれても二人きりにはなれず、絶対誰かしらが一緒にいる。地獄すぎる。
     そんな転校生に何故か俺は親友扱いされてるし、意味がマジで分からない。そのせいで制裁が俺にまで向いてきたことがある。一応勾田と草薙が庇ってくれたけど。
     二人曰く、「すんごい癪だけど、お前が傷つくと玲於奈が悲しむから」とのことらしい。有難い。でも元を辿れば玲於奈のせいだわこれ。
     
    「ところで二人は今日の放課後空いてる? 俺は部活ないから空いてるけど」
    「俺はまぁ」
    「草薙は帰宅部だからなー。鏡園くんは?」
    「どうせ行かなきゃでしょ」
    「まぁそうだよな〜」
     
     俺が諦めたように言えば、勾田は苦笑いで返す。
     そう、俺は正直あんまり玲於奈のことを好いてない。
     一度玲於奈との約束をバックれたこともあったのだが、キレるしわめくし泣くしうるせぇしガキみたいだしなんだコイツめんどくせぇ……やべ、口悪すぎた。とにかく、とてもとてもめんどくさいことになってしまったので結局誘われたときは一緒に着いていくようにしている。ちなみにバックれた時、俺が惨状を聞いて現場へと駆けつけると、玲於奈を必死に抑えていた勾田と草薙が既に可哀想なぐらいボロボロになってた。風紀? マジで使えないから頼れません。
     この事件以降、親衛隊からも同情されるようになり、会うたびに「お勤めご苦労様です」と労われるようになった。俺は出所した犯罪者ですか???
     
     とにかく親衛隊がドン引きして玲於奈への制裁をやめるレベルの惨状でも、勾田と草薙は未だ玲於奈のことを好いていて、ぶっちゃけ頭おかしいんじゃないかと思ってる。
     だが、二人は玲於奈へ抱いている感情以外はいたって普通の感性持ちなので、俺が玲於奈に悪感情を抱いていることも察しているし、その上でどうしようもないことも分かっているから励ましてくれる。まぁ優しいっちゃ優しい。
     生徒会とか風紀とか俺を見るたびネチネチ嫌味言ってくるからな。その度に玲於奈が「友達にそんなこと言うなよ!」とか言ってるけど、だったら友達が嫌ってるって分かってんだから俺と会わせないでさしあげろよ。あっちもあっちで可哀想だろ、無理矢理自分の嫌いな奴と会わなきゃいけないの。
     
    「そういや玲於奈最後に帰ってきたのいつ?」
     
     話を切り替えるように、勾田が草薙の方を見るが、草薙はため息を吐いた。草薙と玲於奈は寮のルームメイトなのだが、その反応を見る限りなかなか帰ってきていないのだろう。夜遊び万歳。
     
    「三日……、いや四日か? しかもマジで荷物取りに帰ってきたぐらいだし」
    「寮の同室っていうのもあんまりステータスにならないよな〜」
    「生徒会とかの連中には『寮の同室で一緒にいる時間が長いのだから、学校ぐらいは俺たちと一緒でもいいじゃないか』って言われたけど、夜とか俺普通に寝てるんだわ。俺バリバリ朝型なんだわ。夜十一時にはぐっすりなんだが」
    「健康的じゃん」
     
     うるさいと勉強などできないし、現在教室内はプリントを終わらせた生徒たちでそこまで静かというわけでもないが、二人の会話は少し心地良くて、ほどよく集中して勉強できる。二人は二人で俺に会話を振ってこないし、転校生も今はいない。とても良い環境だ。まぁ放課後の約束がなければの話だが。
     
    「これ終わったらお昼か〜。お昼ご飯どうする?」
    「教室で良いだろ。どうせ玲於奈は食堂にいるだろうけど、テーブルがパンパンだなんだ言われて追い出されるオチまで見えてるからな」
    「俺もその方が助かる」
    「じゃあ誰が購買まで買い出し行くかじゃんけんしない?」
    「お、良いな」
    「俺グー出すわ」
    「心理戦仕掛けないで」
     
     さいしょはグー、と三人で揃えたときの俺の声が少し弾んでいて、今俺は楽しいのだと感じた。




     
    「? 何で八尋(やひろ)たちがここにいるんだ?」
     
     平凡生徒筆頭である俺、鏡園八尋は、放課後の生徒会室の前で、そうのたまう玲於奈を相手にキレそうになった。
     
    「どうして……って。玲於奈が呼んだんでしょ?」
     
     俺が不機嫌になったことに気づいたのか、勾田が俺の肩を軽く掴みながら聞き返した。俺と玲於奈の間に入ってくれたのもありがたい。
     草薙も俺の傍に一歩近づく。こいつら、何かあった瞬間俺を抑える気満々だ。
     
     ちなみに他の生徒会やら風紀の人たちは、かなり敵対心むき出しでこちらを睨んできている。あの人たち俺のこと嫌いだし分からんくもない。
     
    「俺が呼んだのは……」
     
     言いかけて、玲於奈はスマホを取り出して画面を覗いた。
     
    「あ」
    「「「あ?」」」
     
     思わず三人全員で聞き返した。勾田と草薙が柔らかい感じで「あ」って発音したのに対し、俺だけ輩みたいな「ぁ?」みたいなニュアンスで返しちゃったことはご容赦いただきたい。なんか取り巻きたちからの非難の目が一斉に集中したような気もするけど、きっと気のせいだろう。気にしたら負けだ。無論気にするはず無いのだが。
     
    「ごめん! 呼び間違えてた!」
     
     ふーーん、なんですか、つまり誤爆ってことですか。俺たちはそれでいそいそ生徒会室に来たというのに。呆れてしまって、ため息が出そうだ。
     
    「そ、そうなんだ〜」
     
     ショックを受けているだろうに、勾田は少し引き攣った笑顔でそう返す。健気なことだ。
     この三人の中でまともにコミュニケーションが取れるのが勾田しかいないので、矢面に立ちがちな分玲於奈との関わりも多いが、こういうものの対処も勾田の役割なのでつくづく可哀想ではある。
     
    「そういうわけで行くぞ、玲於奈」
    「あっ、別の奴誘っ……!」
    「お前が二つ食べれば良いだろ」
     
     なるほど、会話から読み取る限り、また生徒会特権でも使って食堂の数量限定スイーツを取っといもらうか何かしたのだろう。しかし、本当は一人だけ誘ったつもりだったのに、間違えて勾田に連絡してしまった。で、三人は人数オーバーだから置いていく、とおおよそこんなところだろうか。
     食堂のスイーツ取り置きは前にもやってたことがあったので、何となく想像はついた。
     
     まぁそんなことは問題ではなく、今解決しなければならないのはこちらの方だ。
     
     
    「「……」」
     
    「……そんなことある? え、そんなことある?」
     
     混乱したように勾田が呟くと、それに同調するように草薙も頷いた。俺も一緒に頷く。いやだって普通無いだろ。スイーツ足りなくても誘うぐらいはするだろ。足りないけど来る? ぐらいは普通言うだろ。誤爆とはいえ誘ったのはあっちなんだから、アフターフォローぐらいしっかりしろよ。
     
     草薙が力なく傍にあった生徒会室の扉にもたれかかった。
     その瞬間、ガタンッという音と共に草薙が後ろに倒れ込む。
     
     
    「あっっぶな!」
     
     間一髪のところでなんとか草薙の手を掴み、そのまま引っ張り上げ、草薙は短く礼を言い、立ち直した。
     
     
    「うわ、何これ」
     
     なかなか聞かないドン引きしたような声の勾田につられ、反射で俺と草薙もそろって声のした方へ目を向けた。
     
     デスクの上には所狭しと書類が乱雑に置かれ、埃を被っている。なんならデスクの上でだけでは足りないようで、床にも書類が積み上げられていた。よく使っているであろうローテーブルとソファだけがピカピカで、背景とのギャップに目眩がしてくる。
     
    「あれ、ここって生徒会室、だよなー?」
    「そうだった、と思うんだが」
     
     俺が一歩退いて扉の上にぶら下げられたプレートを見れば、そこにはしっかりと「生徒会室」と書いてある。
     そもそも、なんで生徒会室の中に俺たちは入れてしまっているのだろう?
     
     本来、生徒会室はオートロックで、生徒会役員の持つカードキーのみでしか開けられないはずだ。
     それが今は、カードキーを翳してすらいないのに勝手に開いたのだ。
     訳が分からないとばかりに首を傾げた二人は室内へと足を踏み入れ、書類には触れないように見て回っている。
     俺は一旦扉を閉め、また開けた。
     ドアノブを捻り、また扉を開ける。
     
    「……普通に開くな」
     
     はたして、扉は普通に開いた。俺が招かれざる客であるにも関わらず。
     とりあえずガチャガチャとドアノブを動かしてみる。
     
    「……これ、多分鍵バカになってんな。やば」
     
     生徒会の人たちは気づいているのだろうか。
     あまり考えたくはないが、積み上げられた書類の量から考えて、ワンチャン仕事をサボっているせいで生徒会室の鍵の修理すら申請してないとかないよな???
     
     ない……いや、うん、分かっているんだ。生徒会の奴らが仕事なんてしてないことも。それに気づいている親衛隊が惰性で生徒会を推していることも。
     大体、あんなずっと玲於奈と一緒にいて、仕事なんてできるはずがないんだ。
     
     俺は諦めつつ、ドアノブを捻ってまた扉を開ける。
     二人は窓際の生徒会長というプレートが置いてあるデスクの前で立っていた。
     窓から入る光が二人を照らしていて、綺麗に見える。
     いや、綺麗なのは元からだ。なんせ二人ともとんでもないレベルのイケメンなのだから。
     
     そんな二人は身を寄せあって一枚のプリントを見ていた。
     何故か二人の顔は青くなっているような気がする。
     
     二人は顔を上げ、扉の前に立っていた俺と目を合わせた。
     
    「どうしよう、鏡園くん」
    「ん?」
     
    「新歓の書類、まだ全然手が付けられてない……!」



    「……いやまぁそりゃやってないだろうよ、どう見てもサボってんじゃん。生徒会」
    「そうじゃなくて! 玲於奈が……」
    「玲於奈ぁ?」
     
     俺が聞き返せば、勝手に会長のデスクに腰掛けた草薙が肘をついて打ち明けた。
     
    「あいつ、新歓楽しみにしてんだよ」
    「あ〜〜……」
     
     なるほど、だからこの二人は焦っているのか。
     そういえば、本来ならこの時期は新歓のお知らせが来てもおかしくないはずなのに、まだ来ていない。
     それもそうか。生徒会という学園の中枢がこれだし、委員会に参加する他の委員長たちも今や玲於奈に骨抜き状態だ。かろうじて生徒会の書類がここに届いているあたり、顧問のホスト教師は仕事をしていないわけでも無さそうだが、あのホスト教師も転校生のこと好きだしな。
     みんなこんな行事のことなど忘れていることだろう。
     俺にとっては新歓なんて無理矢理体動かしてひたすら走り続けるとかいうだるいものという印象なのだが、学園の人気者と一緒にいれる権利的なものがもらえるので、そういや去年わりと盛り上がってたなと思い出す。
     正直俺的には無くなりそうで万々歳という気持ちなのだが、当然目の前にいる二人は違うわけで。
     
    「これ、どうなるんだろう……」
    「フツーに無くなるんじゃね、でも玲於奈も気にしてなさそうじゃん。それいつ聞いたの?」
    「……転校初日の昼休み」
    「それ絶対玲於奈も忘れてんだろ」
     
     玲於奈が生徒会に声を掛ければ、生徒会だって新歓の準備を嫌でも進めるに違いない。でも進んでないってことは、玲於奈は新歓のことを口に出したこともないのだろう。まぁ俺も知らないことだったし、当然っちゃ当然なんだけど。
     
    「ほら、生徒会室なんて本当なら俺たち入っちゃいけないんだし、さっさと帰ろ」
    「……うん」
     
     後ろ髪を引かれるような顔をして、二人は一回ちらりと生徒会室を見渡してからまたこちらへと目を戻した。
     俺はそれを確認して、生徒会室の扉を開ける。
     
    「っだ!?」
    「うわ!?」
     
     内開きの扉を開けた瞬間、何かが俺の方へと飛び込んできた。
     それと俺の頭がぶつかり、俺は後ろへと倒れ込む。
     
     反射で後ろの二人は飛び退いたようで、恐る恐るこちらに手を伸ばしてきた。
     
    「……大丈夫か?」
    「いたた……。うん、大丈夫そう」
    「あの、大丈夫?」
    「うん? うん。……あれ、君たちは?」
     
     俺の上に乗っていた何かが退いてくれたので、俺は草薙の手を借りて立ち上がった。
     
     その何か、というのは紛れもなく人である。この学園の例に漏れず、ちゃんとイケメンだ。
     どこかで見たような気がする。えーっと、どこで見たんだっけ。と思い出そうとして、彼の腕に着いた腕章が目に入った。
     
    「風紀委員……」
     
     風紀、と黒地に白い文字で書かれたその文字を目で追いながら口に出し、そしてやっと思い出した。そうだ、この人風紀の副委員長さんだ。同じクラスだけど全然話したことはない。風紀の人も授業免除が効くから、あまり教室にいるところを見たことないんだよな。
     
    「あぁ、勾田くんと草薙くんと鏡園くんか。久しぶり」
     
     どうやら勾田の手を借りて立ち上がったらしい副委員長さんが、顔を上げて少し恥ずかしそうに笑った。
     しかし、その笑顔はすぐに消え、今度は疑問符が浮かび上がる。
     
    「にしても、どうして三人はこんなところに?」
     
     不思議そうな顔をした副委員長さんに、俺たちはさっきあったことを手短にまとめて話すことになった。



    「なるほど?君たちも散々な目に遭ってるねぇ」

    カラリと笑った彼は、俺たちの話をそう切り捨てる。冷たい。
    そういや、風紀委員で玲於奈に堕ちていないのは彼だけだったか。多分、学園の生徒のやるべき仕事のほとんどが彼に集中していることだろう。
    それを考えれば、玲於奈のことを好いている目の前の二人のことが気に食わないのも無理はない。

    二人はそれを察しているようで、下手に口を挟もうとしない。

    「なぁ、今年って新歓どうなんの?」

    二人が気になっているであろうことを仕方なく俺が代わりに聞けば、彼はため息をついた。

    「まぁ無いだろうね。そもそも、俺だって風紀の仕事だけで手一杯だし、風紀の仕事すら終わってないんだよ。どこぞの物語のキャラクターでもないんだから、たった一人で委員会の仕事を捌き切るなんて無理。生徒会室の鍵が壊れてることだって今知ったんだよ」
    「そういや何でここに来たの?」
    「風紀に今日までの書類が来てなかったから仕方なく取りに来たんだよ。上からの仕事は一旦生徒会を通さなきゃいけないって意味わかんないよね。超無駄」

    言いながら書類の山をひっくり返し、これでもないあれでもないと独り言を呟いている。
    その様子を見て、勾田は我慢し切れないように彼の隣へと並んだ。

    「俺も手伝うよ。時間かかりそうだしねー」
    「まぁ用事もなくなって暇だしな」

    釣られるように草薙も隣に並ぶと、副委員長は目を丸くした。
    さすがにこの状況で俺だけ手伝わないというわけにもいかないので、二人に続くように並ぶ。

    「えっ!?君たちあいつのことが好きなんじゃないの!?」
    「そりゃまぁ好きだけど…」
    「だからってここで手伝わないのは、ちょっと人としてどうかっていうレベルの問題だろ」
    「…うん、確かに。それもそうだ」

    副委員長は改めて考え直し、そう頷いた。きっとここ最近ろくでもない扱いか受けていなかったのだろう。俺は密かに同情する。
    俺も副委員長に何の書類かだけ聞いて、周りの書類を漁り始めた。
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