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    おえおえ

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    おえおえ

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    あまーーーい墓水
    昔話風。書いてる人が楽しいだけのお話です

    桜色男が桜に拐かされた。端正な顔立ちに、幾許か貧相で骨の浮き出る部分あれど逞しく背丈も十分と二枚目役者がごとき容姿である。
    人ども初めは空言かと相手しなかったが、旅人よりあまた噂広まればもっぱらその男の物語したそうな。音に聞く美男が白い肌に淡い紅のかほりの爪で手招く様子はなんとも艶かしいのだと聞く。しかし、旅人、村の者、男、女、一目もがなと思へど、誘拐せしめんと漂う妖気に晒されてはならぬとこれを恐れるのみであった。
    無論、旅人の伝える処へ訪れ、烟る霞の花々の散るに眩暈したうら若き女たちも居たが、さればこそ帰り来ず、噂はまことであると人はいっそう恐れた。
    やがて、その桜、何人も立ち入ってはならぬ禁域と化した。


    ─────鬼太郎といふ隻眼の大男、この禁を破れば、村人はあやなしと口を揃えて言ったそうだ。


    鬼太郎は字のごとく、鬼のような、何かの怪異であって、人ではない。容貌こそ人に近いが、それきりだ。鬼太郎は桜の男を噂の広まる昔から知っていた。男の名は水木という。水木は鬼太郎を育てた人間だった。彼は空しくなった後鬼太郎によってこの山に、件の桜のあるこの山に埋められた。
    桜の下には水木がいる。
    「おじさん、おもしろいことになりましたね」
    鬼太郎はさほど喜びはせず、しかしつまらなくはないといった調子で言った。その口元は歪んでいる。
    あるべき時期をすぎたけれど満開の、その桜を見上げる男───水木は旅人の言い伝えと同じく、鬼太郎へも淡紅色をちらつかせて桜の下へ招いた。
    「よっぽどその桜に気に入られたんですね、桜はじきに満たされるでしょう」
    鬼太郎はその手を取り、水木を己が耳元へ引き寄せ囁く。
    「ねえ、精気が足りないなら僕が満たしてあげましょうか。そうすればおじさんは新たに、昔の体を手に入れられる」
    もはや怪異でしかない水木の体が微かに震えた。
    「桜に囚われるなんて癪じゃないですか、せっかくなら僕の方が断然いいでしょう、ネ、おじさん」
    水木は精力を吸うだけの怪異故にもとより鬼太郎を押し返すような力は無い。触れて鬼太郎に妖力が効かなかった時点で水木は抵抗する手段を失っていた。水木は鬼太郎に捕まったまま、虚ろな瞳を僅かに揺らして紅潮する。
    「イイ、ですよね」
    鬼太郎は水木の抵抗のないことを返答とした。
    小枝のように軽い水木の体を持ち上げ、腰を引き寄せ、深く接吻する。水木は苦しむよりも、朦朧とした表情をして鬼太郎に縋り付く。解放されれば、息を荒くしながらむせ込んで、花弁を吐いた。
    男の桃色の唇から、はらりはらりと舞い落ちる。目元は朝露のようにきらめきを湛え、今にも溢れそうだ。
    「おいしいでしょう、幽霊族は特別ですからね」
    鬼太郎はくつくつと笑いながら、今度は喉へ舌を潜り込ませるように接吻した。
    水木は人の言葉を話すつくりの体では無かったので、空咳のようにただむせて、涙を流し、頬を紅に染めて、背後の桜をざわめかせるだけだった。鬼太郎は濡羽色の髪を優しく梳いてやった。
    「どんな女が来ましたか、綺麗でしたか、可愛らしかったでしょうね」
    水木を幹まで追いやり、両手を重ねて、押さえつけるように接吻する。
    「でも、所詮人間です。いとしく思うことあっても、あまりに脆い。僕は同衾することもできない」
    鬼太郎は水木の爪先を緩く撫でる。水木の口角から接吻の時に飲まされていた鬼太郎の血が垂れていた。その白い肌に鮮烈な赤が映えている。
    「ねえ、おじさん。随分と綺麗な花ですね」
    水木はその赤を嚥下した。
    桜は途端に花弁を散らす。鈍色の空は今や花筏が映っているようだ。
    「幽霊を育て人を外れ、幽霊を喰らい死を外れる。貴方はそういう存在なんですよ」
    水木は手を伸ばし、鬼太郎の頬に触れ、そのまま浅くて甘い接吻をした。
    「腹は膨れましたか」
    背後で桜が呻いている。呼応するように水木の髪色は白く、瞳は薄紅色に変化した。
    「鬼太郎」
    「帰ろう、僕らのすみかへ」
    桜は最早全てを水木に奪われていた。瞬間、枝も幹も、その桜の何もかもが花弁となって宙を舞う。
    「向かいましょう、二世をかけて────」
    あまたの花弁が2人を覆ったので、その言葉の最後を知るのはこの山の中でも水木のみだった。それから数日の間、森では水木が埋まっていた場所に咲いていたあの美しい桜の花が舞っていたという。


    さて、次にこの山の周りで広まった噂はとある大男についての噂だった。
    とある宿屋はこう言う。
    大男とともに桜色の髪の男が泊まっていったのだと。
    その宿から少し離れた呉服屋はこう言った。
    大男が桜色の髪の女の服を買っていったのだと。
    おもしろいことに、男も女もミズキと名乗ったらしい。そういったわけで、村の者たちは桜の男に続き噂話に困ることはなかったとな。

    おしまい。
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    Replies from the creator

    おえおえ

    DOODLE誤字脱字確認してないただの思いつき……毎度毎度ごめん墓ミ
    ねずみ男とか辺りのキャラクターの口調が掴めていないので変かもしれない
    おじさんが箱になった。
    僕の目の前で白い箱がみっともなく怯えている。初めのうちは、おじさんは箱の中ですし詰めになっているのかと思ったがそうではないらしい。おじさんはこの、白くて面白みのない、ただの箱になったのだ。見た目は箱でも、やはり、強く睨みつければどこか怯え、微かに震えているようだし、小遣いを強請ればこちらに意識を向けてくる、そんな気がするのだ。
    「おじさん、箱になって何か面白いことでもあるんですか?」
    箱はこちらを向いたままで、応答しない。触ってみたら何かわかるだろうかと、その箱を持ち上げる。思っていたよりは軽くて、見た目よりは重かった。少し傾けると、母のお腹にいた時のような、心地よい漣が聞こえてきた。その次はカラカラ、カラカラと、おじさんの革靴にツヤがあった頃の懐かしい足音が聞こえてくる。それがなんだかおもちゃ箱のようで、面白くて、色んな角度にしてみたり、床に置いたり、タンスの上に置いたり、日向に置いたり、日陰に置いたり。デパートを連れ回すように家中で遊んだ。
    1977

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