百聞は一味にしかず 二月に入ると影山家では甘い匂いが漂い始める。夕飯を食べ終えて、キッチンに立つ律の背中を見ながら、茂夫はもうこの時期になったんだなぁと思った。
律が菓子作りを始めたのは中学二年の頃からである。しかもその時期は二月一日から十四日までの二週間きっかり。その間は毎日甘い匂いが漂い、夕飯と次の日の朝食のデザートがついてくる。
中学二年で初めて作ったお菓子はチョコレートクッキーだった。
中学三年はチョコレートブラウニー。高校一年になると家にオーブンが導入されてガトーショコラを作った。ちなみにその年のクリスマスも律がケーキを焼いたのだった。
そして今年、高校二年になった律が作るお菓子はガナッシュだった。今までは市販の板チョコを使っていたが、今年からは通販で業務用のチョコレートを買ったらしい。年々豪華になっていく菓子は、それに比例して味も質も良くなっている。
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