運命礼讃 2眼を突き刺すような眩しさと、湿り気を帯びた重たい暑さ。頭の中にまで響き渡るような大きさで叫ぶ蝉たちの愛を求める声。そんな真夏の日の中で、水木さんは静かに息をなくした。
「また、会いましょうね」
締め切った薄暗い部屋の布団に横たわる水木。
部屋の温度は夏であるはずなのに肌寒い程の冷気に満ちている。
命が体に満たされていたときの水木さんは、ぱつりとしたハリが肌にあって、僕よりずうっと熱い体だったのに、すっかりと青褪めた体温になってしまって。
「僕と、おんなじくらいになっちゃいましたね」
胸の真ん中に耳を押し当てたって、あの地響きのような肉の収縮する音も、忙しない心臓の鼓動もちっとも聞こえやしない。
「約束、しててもこんなにも寂しいものなんですね」
赤い約束の糸で結ばれていた左手をゆるりと撫でながら、感傷に浸る。涙は、出なかった。
「ありがとうございます。ふたりきりにしてくれて」
「別に構わんよ」
「水木さんのお葬式、いつにしましょうか」
「もう、いいのか?」
「ええ。悲しんでばかりじゃ、水木さんに怒られてしまいますからね」
「そうか、そうか」
「そうじゃのう。鬼太郎の言う通りじゃ。明日、良くしてくれた者たちを呼んで、見送ってやろう」
「わかりました」
「そうと決まれば早速準備じゃ!やることが一杯じゃぞ。先ずは誰を呼ぶかじゃ。さて、どうするかのお。子泣きに砂かけ、釣瓶火に」
「あ、ねずみ男は呼んだら来ますかね?」
「どうじゃろうな。しかし、あやつも水木とは浅からぬ縁があるしのお、呼ぶだけ呼んでおいてやるか」
「カワウソ、河童に小豆洗い」
「呼びつけるのも一苦労じゃのう」
「そうですねえ。それにしても、見事に妖怪ばかりだ。人間で呼んだほうが良い方とかいますかね?」
「うーん。親戚付き合いもなし、ご近所も人が居なくなったし、水木の勤めていた会社もとっくになくなっておるし。文を交わしていた人間もおらなんだ。思いつく人間はおらんの」
「全部、僕たちに使っていてくれたんですね」
「そうさなあ。本当に情の深い男じゃったな」
「ふむ、こんな所かの」
「弔い方はどうしましょうか」
「人間は火葬が主流だそうじゃ」
「では、そうしましょうか。お骨は半分はお母さん、半分はお祖母さんとおんなじ所に入れましょう」
「うむ。式場はこの家でいいかのお」
「妖怪たちばかりのお葬式ですし、その方がいいかもしれませんね」
「お葬式が終わったあと、この家はどうしましょうか」