運命礼讃 改訂「みずきさんは、つがいをつくらないんですか?」
胡座をかきながらぷかぷかと煙を喫む水木の股の間にすっぽりとおさまった鬼太郎は膝を抱え、少しばかり陰鬱な気持ちをもってまんまるとした片目で水木を見上げ、そう問いかけた。
「つがい、って嫁さんのことか?そりゃあ、ずいぶんと今更だなあ。こんな男、誰だって相手にしやしないさ」
長い間使われてきたからか、少しばかりガタつく丸い卓袱台に置いた灰皿に短くなった煙草をぎゅむりと押しつけながら、喉の奥でくつくつと笑い、歌うように水木は言葉を選んでいく。
「きたろう。かわいい鬼太郎や。俺だけでは物足りないか?」
水木は鬼太郎の小さい体を囲うように抱え込み、身体全体をゆうらゆうらとゆすりはじめた。それは、ぐずる赤子であった鬼太郎をあやすときのあまやかさを伴っていた。
「いいえ。そんなことはないです。ぼく、みずきさんがいい。みずきさんだけがいい。でも」
水木がいてそれでもまだ物足りぬなど、そんな事があるはずがない。なんてことを言うんだこの人は。そう鬼太郎は思った。そうではないのだ。しかし、率直に言ってもいいのだろうか。鬼太郎は言葉を探しあぐねて、口の中で意味を持たない音たちをもごもごと転がした。
「でも?」
そんな鬼太郎を水木はやわらかい声で促した。鬼太郎は水木の顔を見れないが、きっとやわっこくてあまい、きれいな眼で一心に自分を見つめてくれているのだろうなと思った。
「うんめいの、うんめいのつがいというのがあると。そう、とうさんにききました」
やっと出せた言葉はそんな簡単なものであった。