手向け海に隣接した町リップルタウンにて、一人の住民が何かに気付いて動きを止める。それに呼応するように他の住民たちもコソコソと動き出したり、そそくさと家の中に入っていった。
住民の視線の先には、この世界に似つかわしくない風貌をした背の高い人物がいた。潮風がふわりと流れ、赤いマントを靡かせる。それに反応して目元を引き攣らせ、彼は実に嫌そうなため息と共に小言を吐いた。
「…潮の匂い…ハァ…ここは嫌いだ。さっさと用事を済ませるか」
赤い髭に銀色に輝く身体。右手には赤い布の巻かれた槍を持っている。その立ち姿は世辞にも良い姿勢とは言えないものだ。
髭を軽く撫で、その人物───ヤリドヴィッヒは住民の様子を気にかけるでもなく歩を進めた。
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