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    chandora_0204

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    chandora_0204

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    捏造甚だしいです(今回は大分)
    という訳でお辛いぐだモル後編です喰らいやがれ

    「……………は?」
    言われたその言葉の意味が分からなかった。
    いやもちろん意味は分かる。
    分からないのは何故それを今になって言うのかという事。
    「すまん。何というか……あーー……。もう一度言って貰って良いか?」
    言い間違いという名の、万が一の可能性を先んじて潰しておく。
    いや、この女王サマに限ってそんな事は無いと分かってはいるが、先ほど言われた言葉はそれほどの衝撃だった。
    それほどまでに、意味が分からなかった。
    何故、そんなものに今更こだわるのかが分からなかった。

    「良いでしょう。ならもう一度。」
    二人だけの空間。
    されど、二人を隔てる距離は物理的にも、精神的にも遠く、離れている。
    一定の信頼、信用はあるものの親愛は無い。
    二人を繋ぐのはマスターとサーヴァントとの他にも名前だけとは言え、婚約者としての関係。
    —————————だが。

    「私と貴方の婚約者としての関係、それを破棄する事を言い渡します。ベリル・ガット。」

    それも今、断ち切られた。

    目の前の女、モルガンに言われた男————ベリル・ガットは、それを呆然と聞いていた。
    とは言え、彼の中にショックや悲しみは無い。
    あるのはただただ、純粋な衝撃と疑問だった。

    「あ、あーー?そ、それはまぁ、言葉だけの関係性だったし、構わねぇがよ……。」
    特に異を唱える事も無く受け入れるベリル。とは言え、その表情には疑問で染まっていた。
    「ただし、貴方の身に降りかかる危険を考え、表面上はそのままに。妖精國の者に伝えもしません。ただの私と貴方の認識の問題です。」
    「お、おう?」
    そして自分の身を案じるモルガンにますます疑問を深める。
    人間種そのものに対して、何か施策をするつもりだったから自分を婚約者としての関係性から外した、とベリルは予想していたが、それが外れていた事を察する。
    つまり先ほどの宣告は、一番最初にベリルが予想した、と同時にありえないと瞬時に切り捨てた物が正解だったという可能性が高いのだが。
    (…いや、やっぱありえねぇだろ。)
    あのモルガンが。
    この妖精國を維持する事以外には何も興味がなさそうなつまらない女が。

    体裁を気にするような真似をするなどと。
    体裁を気にしたくなる程に、大切な物が出来たなどと。

    じゃあ、それ以外に何がある、とベリルは思案するが、合理的な理由が何一つとして見つけられないのもまた、事実。
    そもそもこの提案自体が合理的でない。
    わざわざ言わなくても分かり切っている事を、あえて口にする辺り合理的で無い。
    (……それにまぁ…。)
    気になるモノが無い訳でも無い。
    明確で無い、されど確かな変化がモルガンには存在していた。
    「まぁ分かった。認識の問題だな。これまで通り、俺の妖精國での安全と身分が保証されてるってなら、一向に構わねぇ。」
    「えぇこれまで通りです。」
    ともかく、疑問を一旦棚上げして、最低限確認したい事だけを聞く。
    案の定、満足のいく答えが返って来た事に笑ったベリルはそのまま踵を返す。
    「おーけー。他に用が無いんなら俺は失礼するぜ。」
    そう言って、出口の方へ向かう。
    去っていくベリルの背中を無言で見送るモルガン。
    そこで話は終わりだった。
    「あー。ただ、一つだけ良いか?」
    「なんでしょう。」
    終わる筈だったが、どうしても堪え切れなかった興味が、ベリルの中から顔を出す。
    些細な、それでも明確な変化を、口にする。


    「その綺麗な宝石、一体どこで手に入れたモンだ?随分と—————。」


    大事にしてるようじゃねぇか。という言葉は、最後まで口にならなかった。
    否、出来なかった。
    瞬間、モルガンから発せられたのは全身を突き刺すような無言の殺気と絶大な魔力。
    それら全てを向けられたベリルは即座に口を閉じ、言うべき言葉を瞬時に編み上げる。
    「おぉっとこれは失礼!女性の趣味にあれこれ口に出すのはマナー違反だよな!婚約者として大変失礼な真似をした!忘れてくれ。もう二度・・と口にしないと約束する。」
    「—————よろしい。」


    空気が破裂するかと錯覚する程の圧力が消える。
    無意識に固まっていた手足が自由に動かせる。
    「それじゃあ女王様、俺はこの辺で。」
    そう言い残し、早足でその場を去るベリル。
    そうして、玉座の間から抜け出し、しばらく足を進めた所で、深く、深く息を吐く。
    「あぁぁ~~~~~死ぬかと思った……。」
    知らず知らずのうちに、自分の背中が汗で濡れている事に気づく。
    なんなら手汗も凄い。
    「いやほんとに死ぬかと思った……。地雷どころか核弾頭が埋まってたとはな……。」
    少々迂闊だった。
    とは言えまぁ得るものもあった。
    「マジで、あの女王サマが体裁を気にする程の相手が居るって事かよ……。なんだよそれどこの勇者…いや阿呆だ。」
    もう一度ため息。
    ようやく落ち着いて来た頃にとんだ爆弾が放り込まれてしまった事に、内心嘆息する。


    「つい昨日、カドックの所のお姫様がカルデアスを凍らせて、カルデアの連中が虚数海域に逃げ込んだってのにまた面倒ごとかよ……。」


    その相手を探りたい所だが、モルガン相手にそれをやるのは危険すぎる。
    妖精國に居る可能性が高いが、探っているのがバレた段階で殺されかねない。
    「さぁて、どうすっかなぁ…。」
    そう言いながら、ベリルは王城を後にした。



    「………。」
    誰もいなくなった玉座の間。
    自分だけの、否、本当に二人きりの空間。
    それを確認するとモルガンは胸に飾っていた宝石を取ると、静かに見つめる。
    その宝石を見つめるだけで、私は——————。

    「良いや。まだだ。」

    まだ、駄目だ。
    玉座の調整が終わっていない。
    彼を助け出す準備が、整っていない。

    あの私・・・から伝えられた、『藤丸立香』の情報。
    その最後、彼の身体の状態とモース毒の浸食状況。
    それら全てを一瞬で治癒させるのには、モルガン程の天才で以てしても時間がかかる。
    『棺』は持っていないので、これまでの私と同じ手段は使えない。
    時間停止の真似事の魔術は出来るが、維持させ続ける事が出来ない。

    だから彼女はあの私は『藤丸立香』を宝石に変え、毒の浸食と衰弱を止めた。

    伝えられた情報に残っていた、トネリコ時代の私の発言を思い出したらしい。
    なぜそのような発言をしたのか、そもそもトネリコ時代の私が召喚されるとかちょっと何言ってるか分からないがそれは置いといて。
    ここで、問題が発生する。
    宝石に変えると言っても、変え方によっては浸食や衰弱は止められない。
    今回の目的を果たすためには、『藤丸立香』を根本的なまでに宝石に変える必要がある。
    五感や意識などはもちろん、体組織一片に至るまで全て。
    だが、それをやった瞬間、彼の魔術回路も止まる。


    それは、彼の契約した全サーヴァントの契約破棄を意味する。
    その時点でカルデアの敗北は確定、汎人類史は消滅する。


    それでも、あの私は敢行した。
    世界などどうでも良い。
    数多の英霊に憎まれても構わないと言わんばかりに。

    ただ、藤丸立香を救うために。

    ———————契約破棄されるサーヴァントには、自分が含まれているのを承知の上で。

    そして、最後にあの魔術を行使した。
    宝石になった藤丸立香を守るために。
    藤丸立香の身体を直すために。
    藤丸立香を宝石から元に戻すために。


    それは————————レイシフト。
    妖精國の未来にある特異点で使ったからこそ可能だった、妖精國の女王として君臨した私へのレイシフト。


    奇しくも、汎人類史の私が使った最後の魔術。
    最も、本家を見たからか精度は段違いだったようだが。

    そうして、私の手元に青く輝く宝石が。
    私の頭の中には、事の経緯と————カルデアでの私の記憶。
    異聞帯の私には与えられ無かった、『春の記憶』。


    「…藤丸立香。」

    その名を呟く。
    それだけで、どうしようも無く胸が震える。
    切ない痛みが胸に染み渡る。
    あの日捨てた筈の感情が、顔を出す。


    宝石を額に押し当てる。
    その冷たさは、伝えられた温度とは比べ物にならなくて。
    その硬さは、教えらえた硬さとはきっと違う筈で。

    見つめても、訴えても、感じても。
    『藤丸立香』の情報を、その宝石から感じ取れはしなかった。

    「…会いたい。」

    耐え切れずに想いが零れる。
    注がれた想いはからっぽだった筈の器でも、足りなくて。
    満たされてるのに切ない。
    零れてしまってるのにまだ足りない。
    際限なく、底抜けに貴方を求めてしまう。

    「…知りたい。」

    敵の筈の汎人類史。カルデア。
    そこでのうのうと過ごしている裏切り者の自分。
    幸せそうな自分。
    自然に笑えている自分。
    何がそこまで私を変えたのでしょう。
    何故そこの私はそんなにも幸せそうなのでしょう。
    なんで私は————恋する少女の様な顔で、貴方を見つめてるの。

    「…触れたい。」

    貴方の身体に。
    貴方の優しさに。
    貴方の笑顔に。
    何も、知らないから。
    何も、感じられないから。

    「……。」

    宝石を抱きしめる。
    だけど、手の平より一回りも二回りも小さいそれを抱きしめても、結局自分自身を抱きしめているのと何も変わらなくて。
    ほのかに伝わるのはぬるい温かさ。
    だけどそれも、所詮は私自身の熱でしか無くて。
    伝えられた温かさは、微塵も感じられなかった。
    自慰の延長にしか過ぎない行動をしている自分があまりに滑稽で、哀れで自嘲する。

    でも、やっぱり、辛くて寂しくて。

    知っているのに知らない。
    知らないのに知っている。

    貴方の事を。
    あの日々の事を。
    私の、ここは居ない私じゃない私の、張り裂けそうな想いを。

    「……貴方は。」

    ここに、居てくれるのでしょうか。
    それとも、怒るでしょうか、憎むでしょうか。
    貴方の努力を踏みにじった醜い魔女を。
    嘆きから、命を断ってしまうのでしょうか。



    「……それでも。」

    それでも、私は貴方を助ける。
    所詮、与えられたモノだけど。
    「貴方を、愛しているから。」

    今の私の想いはニセモノにすぎないけど。

    あの私の想いは、本物だったから。

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