Cafe VadLip。六人の男性が営んでいるこの喫茶店では、月に一回テーマを考えて普段とは違うイベントが店内で行われる。
「いらっしゃいませ! 何名さまですか?」
今日はどうやらそのイベントの日のようで、普段おしゃれな店内は中華一色に変わっていた。今回のテーマは中華のようだ。店員たちの服装もチャイナ服になっている。色合いが普段より派手で華やかだ。
「本日のメニューはこちらになります!」
いつも元気いっぱいな大里帆波がテーブルにメニュー表を置く。見るとメニューも中華一色だ。中華街も真っ青なメニューの種類にほぼ一人でキッチンを切り盛りしている雛乃秀が心配になる。
「メニューが決まりましたらお呼びください!」
水を置いて去っていく大里の背中を見送っていると、入れ違いで反郷粋が出てきた。笑顔を浮かべているが相変わらず胡散臭い。カラーグラスをかけているせいか拍車がかかっている。注文票を片手に歩いていく彼は呼ばれた席に着くと、客の質問に答えながら注文を書き始めた。それを眺めていると、どこからともなく黄色い歓声が聞こえてきた。何事かと目を向けると、オーナーの春宮永臣が肉まん片手に歩いている。キッチンから出てきた柊迫侃がその姿を目にして顔を歪めた。
「何してるの、臣さん」
「あ? なんか知らねーけど客がくれたからもらった」
「え、カツアゲ?」
「ちげーよ!!」
「お客様に貢がせるのやめてもらえませんかねぇ」
「おい、口調が反郷になってるぞ。ってそーじゃなくて、肉まんがうまいって言われたから雛乃の飯はうまいよなって返したらくれたんだよ!」
「やっぱり貢がせてんじゃん」
「どこがだよ!!」
「はいはい、そこまでにしてくださいよ〜」
反郷が戻っていき、春宮と柊迫の肩がビクッと跳ねる。ニコニコと微笑む反郷の笑顔を見て柊迫は何も言わず配膳に向かい、春宮はムスッとしながら肉まんに齧り付いた。
「ひーさん、くれたものを受け取るなとは言いませんが食べるのは裏に入ってからにしてください。あとは喧嘩も裏でお願いしますね」
「わーったよ」
「はーちゃん、ごめん。ヘルプお願い〜」
「どうかしたんですか?」
ひょっこりと顔を覗かせたのは伊佐良和だ。普段はホールで接客をしているが、今日はキッチンの手伝いをしていたらしい。
「しゅーちゃんが火傷しちゃって。大丈夫って言うんだけど手当てだけはさせてってお願いしてるところ」
「了解です。しゅーさんの大丈夫はあてにならないですからね。かずさんは手当てをお願いします。ひーさんは俺が抜けた分ホールをお願いします」
「わかった」
「ありがと〜」
それぞれが仕事に戻って行く。その姿をぼんやりと眺めていると、キッチンの奥に雛乃の姿が見えた。反郷と何かを話して頭を下げている。反郷はそんな雛乃に手を振っていた。きっと謝る雛乃に気にするなと言っているのだろう。雛乃が頭を上げると伊佐が横に並び、その腰を抱き寄せた。短い上着から覗く細い腰の細さに目が釘付けになった。