雰囲気で読んでほしいキッスの日「魔族も眠るのか」
グリュックは驚いた。
マハトが目を閉じて横になっている。
ここはグリュック邸の書庫。グリュックはたまには読み物でも、と珍しく書庫に来たところだった。
部屋いっぱいに設られた、天井まで届くような本棚たち。そのわずかに見える床にマハトは横たわっていた。
何故こんなところでだとか、君には部屋をあてがっているはずだろう、だとか思うところはいろいろあったが、もの珍しさが勝った。
十年は見たことがない姿だ。
グリュックはまじまじとその姿を観察する。
まるで、出来のいい人形のようだった。
腹の上で手を組んだまま微動だにしない。
不意に腹の底が冷える。
だが、よくよく観察すると、腹の上に置かれた手のひらが僅かに上下していた。
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