贈り物「おや、今日は髪おろしとるんじゃの」
兄に指摘され、コノハナは反射的に頭に手をやった。
彼女は普段、かんざしを好んでさしている。
なのに今日に限ってかんざしをさしていなかった。
「あァーー……どっかに失くしちまってよぅ」
「ほうか。おろしてても可愛ええよ」
「そうかァ。あたしはイマイチ、締まらねェけどな」
鎖骨あたりまである金色を、鬱陶しそうに払いのけつつコノハナは嘆息する。
「代用品とか無いもんかねェ」
「かんざしの代用品て何じゃろうな。割り箸?」
「それだ。割り箸くれよぅ」
「待ちなさい冗談じゃよ、女の子が頭に割り箸さすもんじゃない。手作りロボットじゃないんだから」
「ペットボトルロボだろうが人間の頭部だろうが変わらねェよ」
させれば何でもいいと言うコノハナ。
対してミフネはこだわり、譲らない。
「あっ。そうじゃ」
と、ミフネが急に自室に引っ込んだ。
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さほど気にせず煙草に火をつけると、ちょうどミフネが戻ってきた。
にこにこして何か差し出すミフネ。
その手には、化粧箱に収まった一本かんざし。
「どーしたァこれ」
「ハナちゃんにあげようと思ってのう。ちょっと前に買っといたんじゃ」
箱から取り出し、まじまじ見てみる。
煙管の形をしたかんざしだった。
ミフネが普段喫煙するときに使うデザインと、よく似ている。
「……」
「ハナちゃん?どうした、気に入らんか?」
「いや。めちゃくちゃ気に入った、サンキュ」
コノハナは淡々と礼を述べた。
早速髪をまとめつつ、コノハナは考える。
ミフネは知っているのだろうか、男が女にかんざしを贈る意味を。
一般教養としてなら知っていそうだが。
「おお!愛いのう。さすがわしの妹じゃ」
「……おう」
柔らかく笑んで誉めそやしてくれる兄に、コノハナは控えめに笑うのだった。