「おい」
「ふにゃあ」
「おいて」
ミフネとハイジの兄弟が、珍しく肩を並べて酒を嗜んでいた。
「なんやねん、何かあったんか」
「教えん……どうせ兄さん真面目に聞かんじゃろ」
疲れていた。
社会というのはどこも戦争のようなものだ。
誰もかれもが妬みあい、裏切りあう。
良かれと思ってやった事だろうが、どれだけ耐え忍んでいようが、何かひとつでも間違えれば途端に潰されてしまう。
それが世の常である。
散々だ、嫌気がさしきった。
「ああ、もう、嫌じゃホンット。死にたい、……ーーーー」
最上級の泣き言を吐いた途端、ハイジにコップ一杯分の冷水をぶっかけられた。
兄の、あまりに突然の暴挙。
呆然とするミフネに、ハイジは言った。
「その言葉は、言ったらあかん」
普段の飄々とした態度は露と消えた、淡々とした口調だった。
怒っている。
「死にたいっちゅうんは、大抵の場合ただの甘えや。死にたいて言えば誰かが構ってくれる思っとるアホほどよう言う。気を引くのに一番都合良い言葉やからな」
「甘え……」
「思うだけなら勝手にしたらええけど、軽率にその言葉は使たらあかん。ホンマに死にとうなったらオレに言え。懇切丁寧に殺したる」
軽率に「死」に甘えるな、と。
カラーコンタクトで鮮やかに彩られているハイジの目が、いやに暗く見えた。