事前に手紙を書いてリトの村に到着する日をリーバルに伝えていた、そのような日に限っていつもより遅い時間にリンクはリトの村に到着した。リンクはいつも連絡無しに村へ足を運ぶ。今回はリーバルに手紙を書いたことがなかったから一度書いてみようと思って、近況と村に行く日を書いて出した。いつもなら昼過ぎには村に着くが、今日は日が沈みかけている夕方になってしまった。
こういうときに遅れるだなんて、リーバルは怒っているだろう――リンクは村の中央にそびえる高い石柱を見つめて深いため息をついた。
リトの村の前にある馬宿に馬を預けて、リンクは急いで村へと続く吊り橋を渡っていった。途中で村の周辺を巡回しているリトの戦士と途中にある池の側ですれ違った。
「あ、リンクさん、久しぶり!」
声をかけられてリンクは軽い会釈をする。何度もリトの村に訪れているから、村の周りにいる彼とは顔なじみのようなものだ。
「今日はいつもより遅い到着ですね」
「はい、来るまでにいろいろありまして……遅くなりました」
申し訳なさそうに言うリンクにリトの戦士は「そうですか」と返した。
「リーバルは村にいますよ。きっと待ちくたびれているだろうなあ」
付き合い始めた直後から二人の関係は村中に知れ渡っていて、リンクがリトの村に来るのはリーバルに会うためだと皆分かっている。そのためリンクが村に入ると誰かしらがリーバルの居場所を教えてくるようになった。
「早く会いに行ってやってくださいよ」
その言葉にリンクは頷く。別れ際に会釈をして、リンクは急ぎ足で吊り橋を渡って行った。
最後の橋を渡りきって、村の敷地に入る。村の入り口にある女神像の前でリーバルが不機嫌そうに眉をしかめて、腕組みして立っていた。
「遅い」
リーバルはリンクをにらんで、いつもより鋭い口調で言う。ものすごく苛立っていることがひしひしと感じられる。
「ごめん、いろいろあって遅くなった。詳細は後で話すよ」
リンクはにらみつけているリーバルの瞳を見つめる。目を合わせても睨まれる。相当怒っているなとリンクはリーバルを見て思う。事前に訪ねることを伝えていたから、リーバルは待っていてくれただろう。こんなに遅くなってしまったら不機嫌にもなる。ちゃんと遅参した理由を話せばリーバルは分かってくれるだろう。リンクはリーバルを見つめて、少しでも不機嫌が治るようにと優しく微笑んだ。しかしリーバルはぷいっと横を向いて視線を外してリンクを見てくれなかった。
「暗くなる、早く家に行こう」
リーバルはリンクと顔を合わせないまま、一人で村の中に続く木製の回廊を早足で歩き出した。リンクは「本当にごめん」と言ってリーバルの後ろについて歩き出した。
「リンクさん来てくれたじゃん」
リーバルの家へと続く階段を上っていると途中でリーバルの友人とすれ違った。リーバルより少し年上の友人の前でリーバルは立ち止まり、リンクも側で止まって会釈をした。
「リーバルの奴、リンクさんが来なくてずっとそわそわして落ち着きがなかったんですよ」
友人は笑顔でリンクを見て、リーバルを揶揄うように明るい声で言った。
「そんなことないからね!」
リーバルはいつもより大きな声で叱りつけて、そのまま歩き出してしまった。
「相当不機嫌だな……リンクさん、大変だけど頑張れよ」
「はい、頑張ります……」
心配されて申し訳なくてリンクはリーバルの友人に頭を下げた。そして一人歩き出して先に進んで行ったリーバルを追って歩き出した。
リーバルは先に自宅に戻っていて、リンクは「お邪魔するよ」と軽く頭を下げてから家に入った。
「で、今日はどうして遅れたんだい?」
「城下町を出てから、マリッタ交易所に荷物を届けて欲しいと行商人に頼まれて届けた。そのまま北上してタバンタ雪原から経由して村に行こうとしたけど……タバンタ村のあたりで猛吹雪になってしまった。村で吹雪が治まるまで待っていたら遅くなったんだ」
リンクは誠意を込めてリーバルの目をじっと見て遅れた理由を話した。しかしリーバルは「ああそう」と不機嫌そうに言って目を逸らしてしまった。
「遅れて本当にごめん。心配した?」
「心配なんてするわけないだろう」
ふーっと深いため息をついてリーバルは何も言わなくなった。
その後は必要最低限の会話をしながらリーバルが作ってくれた夕食を二人で食べた。リンクはどうにかしてリーバルの機嫌を直そうと、近況などを話しかけたが無視された。
夜寝るときもリーバルは何も言わずに服を脱いで三つ編みをほどいて、天井から吊り下がっているハンモックに入ってしまった。
相当不機嫌だ、リンクはリーバルの様子を見て俯いた。きっと自分の到着を心待ちにしていたのだろう。それなのに遅れてしまい不機嫌になった……分からなくもないけれど度が過ぎるよな、とリンクはハンモックに入ってブランケットを被ってしまったリーバルの姿を見て思った。
明日になれば少し機嫌もよくなってくれるかもしれない。そのときにちゃんと謝れば許してくれるだろう。せっかくリーバルに会いに来たのに、このまま会話することも触れることも出来ないのは寂しい。
部屋の明かりを落としてシャツとズボンだけになって、リンクは床に敷かれたラグの上に横になった。部屋に置いてあるクッションを枕にして、部屋の隅に置かれていたブランケットを被る。きっとリーバルが用意してくれていたものだろう。待っていてくれたのに申し訳ない。明日はしっかり謝って絶対にリーバルと仲直りする。リーバルに会いに来たのに一人で寝るのは今晩だけにしたい。
「おやすみ、リーバル」
きっとリーバルは聞いてない。けれどもお休みはちゃんと言いたかった。