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    空気な草

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    空気な草

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    【脹虎】
    転生ネタ。いちゃいちゃとかはありません。
    ※原作に登場しないキャラが少し喋ります。※
    ※色々ご都合なので何でも許せる方向け。※

    最初の愛は私達から かつて呪霊と人間の混血として産まれた男がいた。九人の弟の兄として産まれた男がいた。友のような存在であった女性に『人として生きろ』と言われた男がいた。そしてその言葉通り、多くの闘いを経験した後、愛する末弟と残りの人生を過ごし数十年後に肉体の限界を迎えて死んだ男がいた。
    「いい天気だ、弟達よ!しっかり楽しみつつ、悠仁を見つけるぞ!」
    「「「「「「「「おー!」」」」」」」」
     そんな波乱万丈な人生を駆け抜けた男は今、八人の弟達と共に動物園にいる。何処かで生きているであろう末弟を見つけ出すために。

     脹相は十歳の誕生日を迎えた日にかつての記憶、俗に言う前世の記憶を取り戻した。丁度ケーキに灯った蝋燭の火を吹き消す瞬間だった。『フーッ!』と勢いよく全ての蝋燭の火を吹き消すつもりが、数十年分の記憶、特に色んな意味で愛する末弟悠仁との記憶が蘇ったことにより『ゆうじー!!』と今世の両親からしたら全く身に覚えのない人名を叫びながらの吹き消しとなった。火だけではなく十本の蝋燭本体とケーキの上に飾られていた苺が全て吹き飛んだ。勿論全て残すことなく脹相は食べた。食べ物を粗末にしてはいけないと今世では両親に、前世では悠仁に言われたからである。
     脹相は弟が関わると思考回路に異常が現れるが基本はとても賢い男だった。なので自分が前世の記憶を思い出したことを知られてはいけないと瞬時に悟った。十歳の息子は実はピー歳で弟と毎日いちゃこらしていたおじいちゃんです。なんて決して言ってはいけないと瞬時に理解したので『ゆうじとは気合をいれるための魔法の言葉』だと誤魔化した。両親は一応信じてくれた。
     その日の夜、脹相は自室で現在の状況を整理した。
    『俺がこうして産まれたということは弟達もきっと……!壊相、血塗、膿爛、青瘀、噉相、散相、骨相、焼相……そして悠仁』
     大切で大好きな弟達、今の脹相には彼等の生死を確認する術はない。
    「生きているさ、必ず。待っていろ弟達よ、全員見つけてみせる!九相図兄弟!ファイヤァァァァァ!!」

    コンコン

    『脹相?ご近所迷惑になるから夜に大声は駄目よ、あと夜ふかしもね。早く寝なさい』
    『すまないお母さん黙りますおやすみなさい』
    『はい、おやすみなさい(なんか口調がやけに大人びたような……?)』
     もぞもぞとベッドに入る。弟達のことを考えると興奮して眠れない……なんてことはなく、十歳の幼い身体はあっという間に夢の世界へと旅立ったのだった。
    (必ず……見つけて皆で共に生きるんだ……すやぁ……)
     脹相、産まれて十年目に生涯かけて叶えると決めた目標が決まった。そして次の日から脹相の弟を求める闘いが始まったのだ。

     ある時は隣町の幼稚園、ある時は遠足先の遊園地、ある時は旅行先の旅館にて。時折予想外の出会いを経験しつつ、なんとか弟達を見つける事ができた。脹相自身、偶々記憶を思い出しただけなので弟達は自分のことを覚えていないかもしれないと不安にかられた事もあったがそれは杞憂に終わる。弟達は皆、己の境遇を、長男のことを覚えていた。
     十年という決して短くはない時は消費したが、脹相は目標をほぼ叶えたのだ。そう『ほぼ』である。
    「悠仁だけ見つからない」
     末弟だけ未だ出会えずにいた。まだこの世に産まれていないのだろうか、いやそんなことはないと脹相は断言する。根拠は長男の勘だ。そしてそんな長男に全幅の信頼を寄せる八人の弟達も兄が言うのなら末弟は何処かにいるはずだと一緒になって探してくれた。十人兄弟全員揃って共に生きる、それは九相図兄弟全員の悲願となったのだ。

     そんなわけで脹相達は今とある街にある有名な動物園に訪れている。もしかしたら飼育員として働いているかもしれない。もしかしたら客として動物に餌をあげているかもしれない。様々なパターンをシュミレートして手分けして広い敷地内を捜索している。
     脹相が担当したのは猛獣エリアだ。悠仁はパワフルだからきっと力強そうな生き物が好きだろうと予想してのことだ。しかし何処にも愛しい姿はない。スタッフ来客一人一人の顔をじっと見てこいつは違うあいつも違うとため息を吐く姿は中々の不審者である。トレードマークの頭の二つ結びもあって視線のあった人の感じる恐怖は倍増だ。気づいていないのは本人だけである。
    「悠仁……皆にお前を紹介したいんだ……」
     壊相、血塗はかつてのこともあり悠仁のことを認識はしている。他の弟達は悠仁に会ったことすらないのだ。初めて会う末弟に弟達はどんな反応を返すだろう。悠仁は何と言うだろう。……それはいつの話になるだろう。諦めるつもりは毛頭ないがほんの少しだけ疲れてきたと感じた時それを見つけた。

    『何故わかったのですか?』と質問されたら脹相はこう答える。『ビビッときました』と。混血でない今の身では起こりうる筈がないのに。身体中が震えたのだ。場所は猛獣エリアでも人気の場所。来客が『可愛い〜』や『小さい!』と賑わう場所。まだ未発達なので大人の動物たちとは隔離されるべき動物のいる場所。
     
     そう、赤ちゃんコーナーだ。

    「ゆうぅぅぅぅぅぅぅじぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃみぃぃぃつけとぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
     産まれたばかりの小さな虎の赤ちゃん。それが今現在の悠仁の姿だった。
    「お客様!赤ちゃんがびっくりしますのでお静かに!ちょ、離れない!この人ガラスにビッタリくっついて離れない!誰か!誰か警備員呼んでー!」
     懸命に脹相をコーナーから引き離そうしながら応援を呼ぶスタッフがいるがその必要はない。広い敷地内の端にまで脹相の声は届いていたのでこの三分後には警備員五人掛かりで脹相は連行されていった。

       ※※※

    「まずは無事悠仁を見つけたことを祝おう!乾杯だ!」
    「その代償に兄さんは半年間出禁になったけどね」
     今彼等がいるのは脹相の自宅だ。動物園での感動的な再会は今から二日前の出来事である。あの後スタッフルームに連行されても暴れ続ける脹相を抑えつつ園内を騒がせたことを必死に謝り頭を下げ、どうにか警察沙汰にはならずにすんだのだが当たり前のことだがペナルティーはあった。壊相が先に述べた通り、脹相は半年間の動物園出禁と通告された。
    『それがどうした!俺を妨げる壁など粉砕してくれる!』
    『兄さん暫く黙ってて!本当に!黙ってて!血塗!兄さんの口塞いで!』
    『兄者〜流石にやりすぎだぁ……』
    『ふがふごごごむが!!ももがー!(俺はお兄ちゃんだぞ!悠仁ー!)』
    『兄さん!いい加減にしないと殴るよ!?』
     確認の言葉の筈だったが次の瞬間には脹相のアタマには巨大なたんこぶが錬成されており、自分達の兄って末っ子絡むとこんな感じになるのか……と他の弟達は呆然とするしかなかったらしい。
     巨大なたんこぶは今現在も脹相の頭に健在である。二つ結びに巨大なたんこぶ、頭上の騒がしい男はそんなことは気にもとめずに乾杯したドリンクを一気飲みした。
    「悠仁の居場所は見つけた、あとはどうやればいいのかを考えねばな……」
     どうやればとはどういうことか、それを問いかける者はいなかった。何故ならばそれよりも注目を集めるものがあったからだ。それは部屋に備え付けられているテレビから聞こえたとある言葉だった。

    『◯◯動物園で産まれた赤ちゃん虎をご紹介します!とっても可愛いですね〜♡珍しい赤毛の虎ということで今話題の子です!』

     〇〇動物園とは先日脹相達が悠仁と出会った動物園のことであり、そこにいた赤毛の赤ちゃん虎とは悠仁のことである。全員の目が一気にテレビに集中した。
    『本当に可愛くて、とてもお利口なんですよ!まるでこちらの言うことがわかっているかのような行動をするんです!』
     飼育員に抱きかかえられている悠仁は大人しくしている。大人しすぎるくらいではないだろうか、と疑ってしまうのは虎が悠仁だとわかっているからだろうか。
    『実はですね、今日はテレビを御覧の皆様にお知らせがあるんです。あとでホームページにも掲載しますが、この度この赤ちゃん虎の名前を公募で決めることになりました!』
    「な!?」
    『応募方法は葉書になります!可愛い名前を考えてこの子につけてあげてくださいね〜♪ほら虎くんも!』
    『……がぅがう……』
     悠仁の一鳴きで中継が終わり、場面はスタジオに戻る。
    『いやぁ〜可愛い虎くんでしたね!私も応募しようかな!』
    『△さんならどんな名前をつけてあげますか?』
    『ん〜……ローズキャンディくんとか?□さんはどうですか?』
    「!?」
    『僕ならね……ごんたろうまるとかどうかな!』
    「!?」
    『え〜私ならメロメロスマッシュくんの方がー……』

    ブツンッ!

    「兄さん、落ち着いて、深呼吸しようか。あれは、あくまで、例えばの、話だからね?」
     リモコンで強制的に画面を消した壊相が途切れ途切れに言葉を紡いだ。そうしないとすぐ横でぶるぶると震える男に言葉が届かないと悟ったからだ。
    「すまん……壊相、ありがとう……テレビを叩き割るところだった……」
    「偶々だよ?偶々、そう偶々、テレビに映っていたキャスター陣が皆さんお揃いで独特のネーミングセンスを持っていただけだから……もっとまともな名前が選ばれるに決まってるよ……」
     オブラートに包んだ発言で『独特の』、それはつまり言い方を変えると『ダサい』ということだった。悠仁の今世の名前が『ローズキャンディ』でも『ごんたろうまる』でも『メロメロスマッシュ』でも、九相図兄弟の誰も素直に呼びたくはないくらいにはダサ……いや、独特である。
    「兄者達……!これ見て!」
     深呼吸を何度も繰り返している脹相達に今度は血塗がスマホを片手に近づいてきた。見せてきたのはとあるSNSの画面。多くの人が同じ話題について述べていた。

    『虎の名前ダッサ(笑)』
    『俺、赤い毛なみだしレッドタイガー三郎にでもして応募しよ』
    『まともな名前つけてあげて〜あんなに可愛いのに!』
    『虎の名前なんてどうでもよくね?まぁ変な名前付けたほうが覚えてもらえるから良いかもね』

    ミシミシミシィッ!

    「兄さん、それ血塗のスマホ」
    「はっ!すまん血塗!あとで新しいの買うから許してくれ!」
    「気にしなくていいぞぉ……気持ちは俺も一緒だから……!」
     液晶にヒビが入ってしまったスマホをポケットに仕舞う姿にどこか苛立ちの雰囲気を感じさせる。勿論スマホにヒビが入ったことにではない。血塗が苛立っているのは悠仁のことをお巫山戯で話題にしている連中にだ。
    「このままだと……ろくな名前つけてもらえないかもね……悠仁……ん?兄さん?何処に行くの?」
    「買い物。お前達、今日は解散しよう。悠仁のことは後日また話す。鍵はポストに入れておいてくれ」
     いつもなら弟達の意思を尊重する長男はそこにはいなかった。脹相は自分の意見を口にするだけして静かに自宅を出ていってしまった。
    「兄者……」
    「皆、ちょっといい?」

       ※※※

    「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ悠仁は悠仁なんだ悠仁にあんな巫山戯た名前なんか許せない名前とはその子が産まれて初めてもらう愛情だぞそれをあんな何処の馬の骨ともわからん奴らに適当につけられるなんて絶対に嫌だ」
     ぶつぶつとつぶやくと同時にガサガサと何かが擦れる音がする。それは脹相の手に持つ袋が奏でる摩擦音。何かが詰まったそれは近所のとある場所から買い占めた物。
    「認めない絶対に認めない。お前らに」
     自宅のマンションにたどり着きエレベーターに乗る。
    「お前らに悠仁の初めては渡さない」
     ボタンを押す力がいつもより強くなってしまうのは仕方のないこと。
    「お前らに悠仁を愛する資格なんてない」
     指定の階に到着し扉が開いた直後に足を進める。
    「安心しろ悠仁、俺には聞こえたぞ、さっきお前は不安そうに『ちょうそう』と……俺の名前を呼んでくれていた。待っていてくれ、必ずお前の名前を『悠仁』にしてやる!」
     部屋の前に辿り着き鍵をさす。そこで違和感に気づいた。
    「……鍵が開いている?」
     閉めるように頼んだはずの鍵が開いている。不思議に思いつつ万一不審者が中にいても余程の相手でない限り返り討ちにできる、なんなら今身体中でタップダンスを踊る怒りをそいつにぶつけてやろうと思いきり扉を開いて中へ進んだ。
    「おかえり兄さん、遅かったね。後に出た私の方が早く帰ってこれたよ」
    「壊相?帰ってきたとは……あ」
     脹相は部屋の異変にすぐに気づいた。先程まで机に置かれていた沢山の飲み物は片付けられ代わりに白い紙束がいくつも置かれている。その白い紙は次々に黒いボールペンで文字が刻まれていっている。
    「兄者〜早く手伝ってくれよぉ〜!皆で沢山書いて悠仁の名前を『悠仁』にするぞぉ!!」
    「あ、血塗。もし良かったらこのペンも使って。ジンクスだけど紫色のペン使うとご利益あるらしいよ。気分転換にもなるし」
    「壊相兄者ありがとなぁ〜!」
     一人暮らしには十分すぎる机は現在フル活動で使用されている。八人の弟達が葉書にひたすら『悠仁』と名前を記入しているからだ。
    「兄さん、買ってきた葉書も出して」
    「壊相……」
    「私はね、悠仁のことはまだ良く知らない。一度闘っただけだからね。だから、これから知りたいの。悠仁のこと沢山知りたいの。弟として接したいの。『悠仁』て名前を呼んでね」
    「……」
    「何処ぞの馬の骨ともわからない連中に、巫山戯た名前なんてつけさせないよ。兄さん、腱鞘炎覚悟してね。悠仁への最初の愛は、私達が渡すよ!!ほらペン持って!同票扱いされないように筆跡はこまめに変えるように!書き終わるまで眠れないと思って!」
    「俺は……素晴らしい弟達を『そういうの良いから!確実に勝利するためには数が必要なの!敵を物量で押し潰すしかないの!死んじゃ駄目だけど死ぬ気でやるよ!!』あぁ!やるぞ!九相図兄弟ー!」
    「「「「「「「「ファイヤー!!」」」」」」」」
     
    「まずいぞ壊相、なぜか『悠仁』って漢字が書けない!これがゲシュタルト崩壊というやつか!お兄ちゃん初めて経験したぞ!」
    「スマホで検索しながら書いて!」
    「兄者〜ボールペンのインクが切れたから俺買ってくるなぁ」
    「待て血塗!これでおやつも買ってきなさい!好きなもの買っていいから!あとできればエナジードリンクも頼む!」
    「わかった!」
    「サラダとパックもお願い!徹夜は肌の大敵!」
    「壊相、少しは仮眠をしてくれ!」
    「負けられない闘いがあるのに!締切があるのに寝ていられるわけないでしょ!」

     九相図兄弟の夜は全ての葉書を消費するまで明けることはない。

       ※※※

     長い時間、兄弟達は闘った。腕の痛みとゲシュタルト崩壊と眠気に死ぬ気で闘った。
    「終わった……!ありがとう弟達よ……!これだけ書けば、勝てる……!ありが……」
     三日目の早朝、全ての葉書の消費を終えた。一番沢山葉書を消費した男は最後まで言葉を口にすることなく机に突っ伏してそのまま意識を失う。一人、また一人、バタバタと意識を失い最後に残った男が一人いた。
    「兄さん達、お疲れ様。これ、僕がポストに出してくるね」
     この部屋にいる兄弟達の中で一番小柄な人物。名を『焼相』。悠仁が現われるまで末弟の位置に存在していた男。
    「ふふ……僕もお兄ちゃんかぁ……また今度、皆で逢いに行くからね。僕も脹相兄さんに負けないくらい大きな声で君の名前を呼ぶからね。楽しみだなぁ……!」
     パタン、と玄関扉の閉まる音それと同時に机に突っ伏した男から汚い音が発せられた。
    「ズビッ……!焼相……!お兄ちゃんは!お兄ちゃんはぁ……!お前の兄でいられて幸せだ……!でも一番大きな声は……ズビッ!お兄ちゃんだ!まげない……!」
     汚い音を聞くことが出来たのは本人だけである。

     某日、テレビの前に再び集結する九相図兄弟がいた。理由は勿論先日の努力の結果を確認するためである。
    「大丈夫だ、俺達の愛に勝るものなどあるものか」
     先日名前募集のお知らせを放送した番組が引き続き結果発表もおこなう。自信あり気に装っているが不安が完全には拭えないのだろう、視線は常にテレビ画面に向ける脹相。
    「始まった!」
    『さぁ!皆さん!先日のお知らせから一週間!話題の可愛い虎の赤ちゃんの名前候補がこんなに届きましたー!』
     テレビの中でキャスターの女性が箱を抱えて現れた。
    「?少ないなぁ?」
     自分達が応募した数より相当少ない量に疑問符を浮かべる血塗。
    「多分あれはほんの一部だよ」
     冷静に状況を判断する壊相。
    「早くしろ女!結果を出せ!」
     届くはずのない文句を口にする脹相。各々が行動をしている間にも番組は進んでいく。
    『想像以上に沢山葉書が来たんだよね?僕のごんたろうまる選ばれるかなぁ』
     選ばれたらここにいる兄弟達に殺される未来が確定されるので選ばれない方が良いことはキャスターの男が知ることはない。
    『どうでしょうね〜。では!結果発表〜!』

    ドコドコドコドコドコドコドコドコ♪

    『ジャーン!赤毛の虎の赤ちゃんの名前は『悠仁』です!圧倒的票数で決まりました!投票した皆さんおめでとうございます〜!!』

    ブツッ!

     必要な結果のみを聞いてあとは用無しとばかりに番組は消された。余計な騒音は必要ないのだ。
    「やっっっったぞぉぉぉぉぉ!!悠仁!お前は!悠仁だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
    「やった!やった!やったよ兄さん!」

    パーン!パーン!

     雄叫びをあげて喜ぶ男、涙ぐんで喜ぶ男、実は用意されていたクラッカーを鳴らして喜ぶ男。ここは普通のマンション。きっと後日騒音の苦情がくるだろう。しかしそんなことは今この瞬間気にする者はいない。
    「はぁ……!今すぐ会いに行きたい!!」
    「あ、それは駄目だよ兄さん」
    「え?」
    「兄者忘れたのかぁ……兄者は半年間動物園出禁だぞ……」
    「……あ」
     この後、皆で『絶対にバレない変装術』を調べることになった。

       ※※※

     気づいた時にはガラス張りの部屋にいた。不便ではないけれど楽しくもない。毎日お世話をしてくれる人達はいるけれど精神年齢ピー歳にはなかなかキツい。
     アイツは何処にいるんだろう?今何をしているのだろう?この幼い身体、人とはかけ離れた身体では探しに行くことも出来やしない。仕方のないことだけど、ほんの少し寂しいな。嘘だ、凄く寂しい。あんなに一緒にいたのに、当たり前のように隣にいたのに。今はいないアイツを考えると泣きそうになる。……この身体って泣けるのかな?
     毎日毎日知らない人達に見られている。落ち着かない。できればほっといて欲しい。俺が欲しい視線はこんなものじゃない。俺が欲しいのは……。

    「ゆうぅぅぅぅぅぅぅじぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃみぃぃぃつけとぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

     あぁ、なんで。いつもいつも、お前は俺の欲しいものをくれるのだろう。ガラスにへばりつくその姿は格好いいとはとても言えない、どっちかというと最高に格好悪い姿なのに俺には輝いて見える。
    「お客様!赤ちゃんがびっくりしますのでお静かに!ちょ、離れない!この人ガラスにビッタリくっついて離れない!誰か!誰か警備員呼んでー!」
     びっくりはしたけどいいんだ。スタッフさん、そいつを連れて行かないで。やっと会えた大切な人を奪わないで。
    「悠仁!」
     五人の警備員に連れて行かれるアイツがこっちに向かって叫んでる。
    「待ってろ!すまん!もう少しだけ待ってろ!必ず!迎えに行く!!待ってろ!」
     ……言うだけ言って、俺の返事は聞くことなく連れて行かれてしまった。流石のアイツも複数人相手じゃこうなるか。
     本当に、迎えに来てくれる?お前今は赤血操術使えないだろ?普通の人なんだろ?以前のお前なら五人相手でも一般人に負けるはずない。今は負けちゃうくらいには普通の人として生きてるんだろ?
     本当の本当に、迎えに来てくれる?

     数日後、俺は飼育員の人に抱きかかえられてテレビの取材を受けている。話している内容は勿論俺のこと。なんでも俺の名前を公募で決めるらしい。
     どうでもいいと思う、でもきっと、アイツはそうは思わない。きっと何かしてくるはずだ。その手段が良いことか悪いことかはわからないけれど何かはする。だってアイツはそういう奴だから。……うん、やはり素直になろう。こんな時まで強がっていなくても良いはずだ。
    「……がぅがう……(……脹相……)」
     お前には『悠仁』って呼んで欲しい。名前を呼んで抱き締めて欲しいから、早く迎えに来て。

       ※※※

     結果発表後の深夜、脹相は一人になった部屋で電話をかける為スマホをタップしている。
    「……もしもし、俺だ。簡潔に言う。金と権力が必要になった、協力しろ。そうすればかつてお前の身体がしたことを水に流す。……私のしたことではない?確かにな、中身が、『脳』が違った以上お前の責任ではないかもしれない。だが、お前は多少は気にしているだろう?自己満足に罪滅ぼしをするチャンスをくれてやると言っているんだ。お前は俺にお前の『最強の親友』を見つけてやった恩もあるはずだ。断ることなんて出来ないだろう……わかればいい。ん?なに、簡単なことだ、とある施設をまるまる手に入れたい。建物の建つ土地からそこに住まう動物まで全てだ。手段は問わん。詳細は今度また話す。じゃあな」
     通話が終わる。
    「手段は問わない。悠仁をあんなケースの中に閉じ込める奴等なんかどうなろうとも構わない、悠仁、見ていろ、お兄ちゃん、動物園を乗っ取ります」
     脹相は闘いはこれからも続く。
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    ☺☺💖💖💖☺
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    空気な草

    DONE【脹虎】
    転生ネタ。いちゃいちゃとかはありません。
    ※原作に登場しないキャラが少し喋ります。※
    ※色々ご都合なので何でも許せる方向け。※
    最初の愛は私達から かつて呪霊と人間の混血として産まれた男がいた。九人の弟の兄として産まれた男がいた。友のような存在であった女性に『人として生きろ』と言われた男がいた。そしてその言葉通り、多くの闘いを経験した後、愛する末弟と残りの人生を過ごし数十年後に肉体の限界を迎えて死んだ男がいた。
    「いい天気だ、弟達よ!しっかり楽しみつつ、悠仁を見つけるぞ!」
    「「「「「「「「おー!」」」」」」」」
     そんな波乱万丈な人生を駆け抜けた男は今、八人の弟達と共に動物園にいる。何処かで生きているであろう末弟を見つけ出すために。

     脹相は十歳の誕生日を迎えた日にかつての記憶、俗に言う前世の記憶を取り戻した。丁度ケーキに灯った蝋燭の火を吹き消す瞬間だった。『フーッ!』と勢いよく全ての蝋燭の火を吹き消すつもりが、数十年分の記憶、特に色んな意味で愛する末弟悠仁との記憶が蘇ったことにより『ゆうじー!!』と今世の両親からしたら全く身に覚えのない人名を叫びながらの吹き消しとなった。火だけではなく十本の蝋燭本体とケーキの上に飾られていた苺が全て吹き飛んだ。勿論全て残すことなく脹相は食べた。食べ物を粗末にしてはいけないと今世では両親に、前世では悠仁に言われたからである。
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