「蘇枋、手貸せ」
窓を開けても大した風は入ってこない。もう9月も終わろうとしているのに一週間のほとんどが暑いくらいで、最近になってやっと朝と夜に肌寒いと感じることが増えたくらいだ。そんなどちらかと言えば暑い今日。少しでも涼しい場所を求めて空いた窓の近くの席を陣取った桜はうだるような暑さに顔を顰めながら自分の前の席に座って机を挟んで話をしていた蘇枋に向かって先ほどのセリフを言い放った。
「ん?手?はい、どうぞ」
何の躊躇いもなく、蘇枋は自分の片手を桜に向かって差し出す。桜はきたきた、とばかりにその手を取ると自分の頬にくっつけってスリと擦り寄る。その行動はさながら猫のようで思いがけない桜の行動に動揺した蘇枋の喉がヒュッと音を立てた。
「んっ・・・やっぱお前の手きもちぃ・・・」
「あ、のさぁ・・・・・」
目を閉じて蘇枋の自分よりは低い手の温度を堪能している桜を余所に、蘇枋は内心気が気じゃない。桜に触れる手は桜の自分より幾分も高い体温のせいで熱をもって仕方がない。それに何より、好きな子にそんな可愛らしい行動をされてたまったもんじゃない。言いたいことを全て飲み込んでいつもの冷静さを取り繕うと蘇枋はただ一言だけ桜に向かって言った。
「冬になったら覚えててね」