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    ame0609Futta

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    ame0609Futta

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    フロマティがイチャイチャとお茶会を楽しむお話です。甘々健全モノです。可愛いとスイーツをテーマに書きました。

    フロマティがお茶会する話 子どもの頃から食べることには無頓着であった。好きな食べ物は?と聞かれても上手く答えることができなかったし、アフタヌーンティーのおやつも、パーティーのご馳走も、あまり喜ばなかった記憶がある。必要最低限生きるために空腹を満たせればなんでもよかったし、食べる時間よりも眠る時間の方が安らぎを覚えることが多かった。悪夢を見ないで寝られた日の幸福感ほど私を満たすものはない。
     そう言う私に反して、フロリアンはこれでもかと言うほどいろんなものを食べた。朝食に出る焼きたてのロールパンや目玉焼き、昼食のベーコンレタスサンドイッチにカルボナーラ、おやつの時間に出るバタースコッチやジャムサンドクッキー、夕食で振る舞われる分厚いソースステーキ……。苦手なものは特にないらしく、彼は食事の席で何が出ても嬉しそうに顔を綻ばせて口に運んだ。甘いものからしょっぱいもの、辛いものもスパイシーなものもなんでも食べる。彼は私とは違い、食べることが好きなようだった。
     フロリアンは私があまり食事を摂らないことを心配していた。朝食にヨーグルトをひとカップだけ食べたと言ったら「それだけ!?」と驚かれたものだ。「もっと食べて」とも言った。以来、私はフロリアンに食事の席に積極的に顔を出すように勧められ、よく連れて行かれるようになった。
     現在時刻は午後15時。この時間の荘園ではちょうどおやつが振る舞われる。この時間を楽しみにしている招待客は多いらしく、ナワーブのように堂々と摘みに来る者もいれば、人目を憚るようにしてこっそりとおやつタイムを楽しみに来るアンドルーのような者もいる。ハンターのロビーでさえこの時間には遊戯を中断して食堂に現れるし、甘味を求めて訪れる魔トカゲや隠者の姿も見られる。ともあれ、多くの招待客にとっておやつの時間とは至福のひと時らしい。私にとってはどうでもいい時間なのだが。

    「マティアス、おやつの時間だよ!」

     フロリアンは私の部屋の扉を開けてそう言った。開けていいと言った記憶はないが、彼に至ってはもはや指摘する気も起きない。

    「……いらないよ」

    「そんなこと言わないで!今日は豪華なおやつが出るみたいだよ。一緒にお茶会しよう!」

    「他の人と食べてくればいいだろう……私は食べる気が起きないんだ」

    「そう言わずに!ルイくんも一緒に行こう、ね?」

     部屋の隅に座り込んでいたルイは急に顔を上げて「オヤツ?ワーイ!」と歓声を上げた。勝手に動くな、と睨みつけたが、ルイは既にひょこひょこと跳ねてフロリアンの足元をうろうろしている。

    「お前はおやつなんか食べられないだろう」

    「ヤダー!オヤツ食べたい!」

    「せっかくのおやつなのにルイくんだけお留守番は可哀想でしょ?ね、一緒に食べよう!ほら、マティアスも!」

    「わ、ちょっと待って……!」

     フロリアンは私の手を引き、引き摺り出すようにして部屋を後にした。慌てて施錠だけする私を急かすように背中を押し、食堂の方へと促される。その後ろをルイがひょこ、ひょこ、と軽快な足取りでついてくる。
     フロリアンは私の隣に並び、手を引いたままにこにこしていた。随分と機嫌が良さそうである。

    「そんなにおやつが楽しみ?」

    「ん?いや」

     彼は私をちら、と見ると、頬を掻いて照れ臭そうに「マティアスと一緒にいられて嬉しいなぁって」と言った。私は目をぱち、と瞬かせ、思わず「ふは、何それ……」と笑ってしまった。

    「あ、笑った」

    「……何?」

    「ふふ、マティアス笑うと可愛いよね」

    「何言ってるんだ……」

     食堂の扉を開くと、ルイが先導してすいすいとテーブルに着いた。「ワァ!オヤツオヤツ!」とはしゃいでいる。私はルイの肩を押さえつけて座らせ、その隣に腰掛けた。フロリアンも私の隣に座り、「いい匂いだね」と言った。
     テーブルには確かにいつもより豪華な軽食やスイーツの類が並べられていた。艶々としたイチゴが盛られたベリータルトが中央に置かれ、その周りには宝石みたいにきらきらと輝くアイシングクッキーが並べられている。陶器製のポットからはふんわりとしたローズヒップティーの香りが漂っており、薔薇の花園の中央に立っているような錯覚さえ覚える。
     色とりどりのアイシングクッキーを見て、フロリアンは「綺麗だなぁ」とにこにこしていた。

    「ほら、これ。なんかマティアスみたい」

     そう言ってクッキーを一つ摘んでぷらぷらさせた。猫の形に型抜かれたそれはアイシングで顔が描かれており、右目はボタンの形になっているが、左目がバッテン模様のように潰されていた。私の縫い合わせられた左目を彷彿とさせていて気味が悪い。不機嫌そうな下がり眉まで私そっくりであった。私はうげ、と顔を顰めたが、フロリアンはしげしげとクッキーを眺めて「可愛いから食べるのがもったいないな」などと呟いている。

    「ア、コレフロリアンそっくり!」

     ルイがクッキーの皿から一つを手に取った。「ホラ、マティアス見て!」と私に差し出す。手のひらに乗せられたそれは狐の形に型抜かれていて、ヒマワリが咲いたみたいな明るい笑顔がアイシングで描かれており、口元には2本の鋭い犬歯が生えていた。言われてみると確かにフロリアンに似ているかもしれない、と思って、私はふっと笑った。

    「なになに、僕にそっくりだって?」

     フロリアンが手元を覗き込んできたが、私は素早くクッキーを口元に運び、パキリと齧り付いてしまった。

    「あー!なんで食べちゃうの!」

    「君が誘ったんだろ。ほら、君も食べるといい」

    「うー、マティアスの意地悪」

     フロリアンはむぅ、と唇を尖らせつつも、手元の“マティアスそっくりな”クッキーに大口で食らいついた。ガリ、と音が鳴ってクッキーが齧り取られ、もぐもぐと咀嚼される。「君も遠慮がないじゃないか」と言うと、フロリアンはもごもごさせたまま「美味しいよ」と言った。
     アイシングクッキーなど食べたのはいつぶりだろう。アイシング部分がシャリシャリしていて、土台のクッキーは小麦粉の香ばしい匂いがする。少し硬めのクッキーだが歯触りが良く、ほんのり蜂蜜の匂いもする。軽い甘さに思わずもう一枚と手が伸びてしまいそうだった。
     指についた砂糖をぺろりと舐め取り、ナプキンで拭き取る。横を見ると、フロリアンは二枚目のクッキーをもぐもぐやっているところだった。

    「イイナー。僕も食べたい」

     ルイがクッキーの皿をつつきながら足をパタパタさせた。あくまで人形である彼には食事はできないが、元々食事の楽しみも知らないので口調は極めて退屈そうであった。「デモお留守番してるよりはマシ」と言って椅子の上で頬杖をついた。

    「マティアス、紅茶飲む?」

     フロリアンがポットを手に取ってカップソーサーを引き寄せた。彼はポットを軽く揺らした後、トポトポと中身を注いだ。透き通った紅色の液体がカップに注がれ、辺りが薔薇のいい香りで満たされる。意外にもフロリアンの手つきは丁寧で、紅茶を注ぎ慣れているように見えた。部屋でも自分で飲んだりするのだろうか。
     目の前に出された紅茶を手に取り、匂いを嗅いだ。甘酸っぱいローズヒップの香りが胸いっぱいに広がり、口の中に残っていた甘さがすっきりと攫われていくような感じがする。唇でそっとカップに触れて啜ると、薔薇の香りがいっそう強くなった。隣ではフロリアンがソーサーを片手に添えてカップを傾けている。紅茶を飲む仕草が妙に様になっていたので、やはり飲み慣れていそうだと思った。

    「ん……美味しい。荘園の食べ物や飲み物ってすごく美味しいよね。きっと本来だったら僕じゃ手を出せないくらい高いものなのかも」

    「命懸けのゲームをやらされてるんだから、これくらいは妥当だろう」

    「あはは、そうだね」

     フロリアンが「ほら、これも美味しそうだよ」とベリータルトを一切れ取り分けた。その皿を私の目の前に置き、差し出してくる。

    「も、もうお腹いっぱいだよ……」

    「まだクッキー一枚しか食べてないじゃないか。もっと食べないと損だよ」

    「私は元々そんなに食べないって言っただろう……」

    「せめてこれだけでも食べよう、ね?」

     フロリアンは私にフォークを握らせ、しきりに皿を勧めた。これを食べないと部屋には帰さないぞ、という意思を感じる。仕方なく溜め息を吐き、皿に向き直った。

    「ネーネーフロリアン、この赤いのナァニ?」

    「これはね、イチゴって言うんだよ。甘酸っぱくて美味しいフルーツさ」

    「イチゴ!キラキラで可愛いネ!宝石ミタイ!」

     身を乗り出してキャッキャとはしゃぐルイを元通りに座らせ、ベリータルトにフォークを差し込んだ。タルト生地がほろりと崩れ、イチゴの果汁が染み出す。一口大に崩したタルトを口に運ぶと、甘くてしゅわしゅわと酸っぱいイチゴの味が広がった。イチゴを艶々とコーティングしていたゼリーが口の中で弾ける。タルト生地はほろほろとしていて、イチゴの味を邪魔しない程度に甘い。土台の下に隠されていたカスタードもまったりと甘く、思わず頬が落ちてしまいそうだった。
     私が咀嚼しながら気分を良くしていると、隣から「ふふ」と笑う声が聞こえた。見ると、フロリアンが優しく目を細めながらこちらを見つめている。

    「美味しい?」

     私はどうやら無意識に幸せそうな顔をしていたらしい。フロリアンは「よかったね」と満足げに微笑んでいる。私は急に恥ずかしくなって、フォークをそっと置いた。

    「おや、もう食べないの?」

    「も、もういいや……」

    「もっと食べなよ。あ、僕が食べさせてあげようか?」

    「……やめてくれ」

     私はフロリアンに見守られながらちまちまとベリータルトを食べ進めた。甘い上品な味が口の中に広がるたびに頬が緩みそうになるが、フロリアンに見つめられていて油断ができない。フロリアンは時折ローズヒップティーを啜りながら、ずっと私がベリータルトを食べる様子を見つめていた。そんなものを眺めて何が楽しいのかイマイチよくわからないが、フロリアンは私がイチゴを口に含むたびに目を細めて「ふふ」と笑うのであった。

    「……何?」

    「何が?」

    「いや、私が食べる様子がそんなに面白い?」

     フロリアンはカップをカチャ、と置き、「マティアスが可愛いからずっと見ていられる」と言った。

    「可愛いマティアスが、可愛いイチゴを食べている姿が、ものすごく可愛い」

    「はぁ……?」

    「いや、あのね、マティアスの小さい口が、イチゴをはむって食べるたびに、その……」

     フロリアンはちら、と私を見た。正確には、私の口元を見たようだった。

    「……なんかこう、言い表せない気持ちになる」

    「君は時々よくわからないね」

    「うん、まぁ……」

     私が皿を綺麗に片付けると、腹はすっかり膨れてしまった。「もういいの?」とフロリアンは言っているが、今度こそ本当にお腹いっぱいである。
     紅茶の中身も空にし、いつの間にか隣でうたた寝しているルイを抱え上げた。

    「たまにはお茶会もいいかもね」

    「本当?誘った甲斐があったね」

    「……それじゃ、また」

    「マティアス」

     私は足を止めて振り向いた。フロリアンは私に一歩近づき、肩を引き寄せた。え、と思っている私の頬にちゅ、と口付けられる。

    「……へ?」

    「またお茶会しようね」

     フロリアンは手をひらひらさせながら笑顔で去っていった。残された私は呆然と頬を押さえた。
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