タイトル未定②プシュッと軽快な音を立ててビール缶のプルタブを開ける。兄貴と被る久々の非番だ。
夕飯を食べつつ酒を開ける。脹相もビールを一缶開けていつかみたいに目を閉じて笑った。
「これも毒にも薬にもならんな」
脹相の血液はアルコールですら自在に分解出来るらしい。俺も元々の体質と取り込んでいる九相図の影響で酩酊までいかない。とはいえ、法律的にも人前で酒が許される年齢になったので雰囲気だけでも楽しみたいのだ。
「味を楽しむんだよ」
「なら俺は日本酒がいいな、米の味がする」
脹相はダイニングの椅子から立ち上がり備蓄棚に仕舞ってあった酒を出してくる。体質故か、家入先生や京都の庵先生に面白がられ、よく酒に付き合わされる。彼女らに勧められるまま買いためている酒だった。
何時か買ったお揃いのお猪口は脹相ばかりが使う。ちびちび酒を煽る彼の姿は風情があって好きだ。
「俺はビールがいいな〜」
せっかくだからあれもこれも味見してみよう、と酒瓶だらけになったテーブルで愉しそうに酒を飲む脹相を眺めふ、と笑みが溢れる。
そんな俺の様子に、酔ったのか?と心配されるが、これは酔った「フリ」である。可笑しくてクスクス笑っていると脹相がお兄ちゃんらしく頭を撫でてくる。くすぐったい。
「もう寝るか?」
「え、寝ちゃう?」
「……あー……」
あの時、脹相を誘ったのは俺だ。あの静かな街で二人きり。何かが壊れていたのだと思う。脹相も、兄を名乗りながらも多分何処かが壊れていた。
その思い出だけは切り取れる。何故ならあれが今に繋がっているから。
俺が再びクスクスと思い出し笑いをするのに脹相が首を傾げた。
「いや、初めての時、思い出してさ。俺全然余裕なかったなって」
「ああ、可愛かったな」
「可愛いかないよ、かっこ悪かった、フライングしただろ」
「それが可愛かった、俺で良いんだと分かったし、俺はあの時の悠仁も好きだ」
「今とどっちがいい?」
「う〜ん悩ましいところだ」
「ええ〜」
いつも思う。脹相という二極化されない存在。真人という呪いを宿儺という呪いを殺してやると目の前が真っ赤になったあの日。
それでも愛と呪いは同時に存在すると教えてくれた脹相。
いつもひたむきで、お前の為ならって、死にに行くようなやつで。
でもさお前、お前は呪術師として呪霊として呪霊を祓って平気なんかなって。
俺は椅子から立ち上がると脹相の手を引いてそのまま横抱きに抱き上げた。慌てて俺の首に掴まりつつ下ろせと身を捩る。が、いつの間にか追い越した膂力の差かビクともしない。
「自分で歩ける!寝室だろう」
「流石だな、これからナニするか分かったん」
「久々に一緒の休みだ、他に思いつかん」
「だよな、まあ今日はすんげー大事にしたい気分なんで、かっこ悪い俺を忘れるくらい大事に大事に抱きます」
「生憎と忘れたくないんだが……まあ試されてやるか」
愛しい兄貴は腕の中で大人しくなり、ニヤリと笑って俺に身を預けた。
続