ぬくもり「あけましておめでとうございます」
突然声をかけられた宗雲は大袈裟に肩を震わせて、瞬きを繰り返した。声をかけた雨竜は、申し訳なさそうに肩を竦めて、苦笑する。少し呼吸が乱れていて、駆けてきたのが分かる。
「突然すみません、姿が見えたので…」
「あけましておめでとう。会えて良かった」
初詣客で賑わう神社の中で、まさか声をかけてくれるとは思わず、そう紡ぐ。え?と聞き返されて、初めて心の声が漏れていた事に気がついた。どうにか取り繕おうとしたが、後ろから流れてきた人混みに押され、歩き出さずには居られなかった。
人に揉まれない様に、雨竜の背に腕を回して抱き寄せる。そのまま人の流れに逆らわぬように人が少ない所まで歩いた。人のざわめきで、小さな声で話しかけられたら聞こえなさそうだ。何か話していないかと、雨竜の表情を盗み見る。
雨竜はどこか気恥ずかしそうに、頬を緩ませて。それを隠すように指先で唇を撫でた。視線に気がついたのか、目があうと恥ずかしそうに頬を染めるものだから。雨竜が何処かに逃げ出してしまわないように、宗雲は一層強く抱き寄せてそのまま人が少ない所まで移動した。
「すまない……何処か行くところがあったんだろう」
何を話そうかと、考えながら。そういえば勝手に連れてきてしまったと、宗雲は小さく頭を下げた。けれど、雨竜は勢い良く首を横へ振る。相変わらず頬は少し赤く染まっていたが、もしかしたら寒さのせいかも知れないとふと思う。
「いえ!…お参りも終わった所で…帰るだけだったので……全然…お話できて嬉しかったです」
ふわりと頬を緩ませて、柔らかい表情で話す。愛しい気持ちが膨らみ、何かもっと喜ばせてやりたいと思う。
「……お年玉、とか用意しておけば良かったな。袋が無くても気にしないなら…」
そう言って、財布に手をかけると雨竜はすぐに近づいてきてその手を静止した。
「大丈夫、です!…僕、もう働いていますし、お金に困ったりとかそういうのも無いですし……それに、その兄からも断ったので…」
「……そうか」
断られた事を残念に思いながら、他に何かと考える。すると静止する為に触れてきた手がひどく冷えていた事に気がついた。温めるように握りしめ、周りを見渡すと、出店に列が出来ているのが見える。
「雨竜…今日、仕事は…?まだ時間は有るか?」
「…え、…まだ仕事は、休みで……他に予定も無いですが…」
「なら、少し付き合ってくれ」
そう言って、雨竜の冷えた手を握って歩き出す。
「あの、どこへ…」
「甘酒がある。飲んだら少し温まるだろう?」
握った手を引き寄せて包んで撫でる。そうされて、雨竜は自分の手が随分と冷えていた事に気がついた。ずっと照れて身体が熱くて気が付かなかった。出店の列は長いように見えたが、その列はどんどんと進んでいく。これを買って、飲み終わってしまったらもう離れなくては行けないのかと。この手を離さないといけないのかと雨竜は少し残念に。寒くても良いからもう少しこのままで居たいと想った。