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    69asuna18

    ドカメン:宗雨
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    69asuna18

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    ご都合カオスワールドの話

    一緒に帰ろう「走尸行肉。高塔にとって、もう必要のない人間です」

    戴天の口から放たれた言葉が、雨竜の胸を抉った。





    今日はずっと前から楽しみにしていた休日。雨竜が習い事も入れずに丸一日開けていたのは宗雲と出かけるためだった。下ろしたてのシャツにお気に入りのズボン。自分でも子供の様にはしゃいでいるのが、よく分かる。それを察してか。兄、高塔戴天も嬉しそうに声をかけた。「楽しそうですね。今日の予定は?」と。
    雨竜は一瞬躊躇った。気を悪くしないだろうかと。けれど、疚しい事をしている訳ではない。隠し事はしたくない。だから、嘘偽りなく「宗雲さんと出かけるんです」と、答えた。
    するとみるみるうちに彼の表情は曇り、頭を抱えて険しい顔で口を開いたのだ。彼は、必要の無い人だと。楽しかった気分は台無しだ。こんな事なら適当に返事をすれば良かったと自分を責めた。
    そんな雨竜の雰囲気を察してか、戴天も「会うな、とは…言いませんが」と取り繕う様に言葉を発する。けれど、その言葉の続きなど雨竜の耳には届いていなかった。

    「僕の、交友関係をとやかく言われる筋合いはありません。必要かどうかは僕が判断します」

    ピシャリと言い切ると雨竜は、眉を顰めたまま外へと飛び出していった。




    戴天にエージェントから連絡が入ったのは、雨竜が飛び出していってしばらく経った頃だった。近くでカオスストーンの反応がある。もし向かえそうで有ればお願いしたいとの事。
    ちょうど仕事も一段落した所なのに加え。朝の雨竜とのやり取りと、その彼が居るであろう場所が、宗雲の元だという事を思い出すと、僅かに苛立ちが過る。気持ちを発散するのに丁度良いだろうと、エージェントからの連絡に「了解」と短く返事をした。



    指定された場所に広がるカオスワールド。お決まりの輝く扉の中へと進むとそこにはどこか懐かしい日本庭園が広がっていた。最近カオスワールドに入ると無機物が馴れ馴れしく話しかけてくるのが定石だったが今回はどうも違うらしい。洋服も入った時と変わらない、いつものスーツ姿だった。

    「……まぁ、兎に角。この世界を開いた人を探しましょうか」

    広い庭を歩いていると小さく蹲っている子供を見つけた。良い生地の着物を着ている。この家の子だろうか。

    「どうしたのですか?」

    声をかけた戴天は、振り向いたその子の顔を見て息を呑んだ。

    「…雨竜、くん…!?」

    昔、何度か会った事のある、小さな姿。けれど今と変わらぬ若草色の瞳に葡萄の色の髪。

    「だぁれ?」

    立ち上がった身長は、腰の高さよりも低い。

    「僕の事、知ってるんですか?」

    首を傾げる雨竜の視線にあわせるように、膝をつく。

    「戴天、と言います。…貴方のお兄さんの知り合いです」と告げる。いつの頃の記憶があるのか分からないと、慎重に言葉を選ぶ。それに、ここでの記憶が後に残る可能性もある。なんと返事が帰ってくるのだろうと待っていたが、なかなか返事は返ってこない。それどころか彼は俯き小さく震えだした。

    「どうしたのですか?」

    痺れを切らし言葉を促す。すると小さな雨竜は、うわぁんと声を上げて泣き出してしまった。
    何故?と、まるで魅上才悟の様に頭に疑問符が浮かぶ。何もしていないのになぜ泣き出すのか。困り果て黙っているとその泣き声の中に「兄さんが」と言うのが聞こえた。

    「…お兄さんがどうかしたのですか?」

    「…っ…居なくなっちゃったの……ッ、も、……兄さんって、呼んだら…だめって…ッ!」

    着物の裾でごしごしと顔を擦るが、大きな瞳からは次々と涙が溢れてくる。戴天はポケットからハンカチを取り出して、頬を伝う涙を拭きながら小さな背中を撫でた。
    色んな時代の記憶が混じり合い、混乱しているのかもしれない。もしかしたら今朝の言い合いからカオスワールドが開いてしまったのかもしれないと、罪悪感が生まれる。思う所は色々あるものの、まずはここから出なければ。

    「君のお兄さんはそんな事言いませんよ。私と一緒に探しに行きましょう」

    自分の手の半分もないその小さな手を包むように握って立ち上がる。

    「本当…?」

    「えぇ」

    小さな雨竜をこれ以上悲しませてはカオスワールドが完成してしまうかもしれない。そう考えた戴天は雨竜と共に歩き出す。涙は止まった様だが、未だに不安そうな表情は変わらない。ついて歩いてきてくれるだけ良しとしましょうか。小さくため息を漏らしながら歩き続けて居たが、怪しく輝く扉の前で、雨竜の足はピタリと止まってしまった。

    「どうしたのですか?」

    「……ここから、出たら駄目なんです」

    「…そんな事ありませんよ、さぁ」

    小さな背中を優しく押すも、雨竜はするりと逃げて。今まで歩いて来た道を、トットッと駆け始める。

    「雨竜君っ!」

    追い掛けるも、その瞳が恐怖と不安で揺らいでいるのが見えて、戴天はすぐに足を止めた。自分では駄目なのだろうか。心が、全身が。、冷え切っていくのが分かる。高塔の事、宗雲の事。頭に浮かぶ事は山のようにあるが今は兎に角彼を此処から出さなければ。戴天は意を決して。一度この世界から出る決断をした。




    「…戴天」

    カオスワールドから抜け出るとそこには宗雲が駆けつけていた。元々、雨竜と会う予定になっていたのだから、近くにいてもなにも不思議な事はない。よほど慌てて居たのか肩で息をしているのが見えたが、戴天は宗雲と目を合わす事ができなかった。

    「……私では役不足だったようで。代わりに行ってもらえますか」

    ライダーとしても、兄としても、負けた様な気がした。が、このカオスワールドを閉じるのには彼の力が必要だった。戴天が苦しそうに吐き捨てるようにそんな事を言ったのが意外だったのだろう。
    宗雲は心配そうに「どうしたんだ」の問うが、彼はその言葉に被せるように「このカオスワールドは、雨竜くんが」と吐き捨てた。





    中へ入ると見覚えのある庭に、宗雲は息を呑む。少し違うような気もするが、幼少期を過ごした家の庭によく似ていたのだ。戴天に雨竜が作ったカオスワールドだと言われ一度は疑ったが。これを見たら信じる他ない。だとしたら雨竜は自分の部屋にでも居るのだろうか。庭先に見える家に足を向け、広い庭を眺めながら歩いていると、庭の桜の木の下に小さく蹲る影を見つけた。
    てっきりいつもの姿の雨竜が居るものだと思っていた宗雲はその体の小ささに再び息を呑む。砂利を踏む音に気がついたのか、小さな雨竜が顔を上げた。何度も目を擦ったのだろう、目元は真っ赤に腫れているのが分かる。
    視線があうとふいと、すぐに視線が逃げた。自分の事が分からないのか、敢えて避けているのか。小さな彼の元へ近寄って、腰を下ろす。抱えた膝の隙間から、若草色の瞳がこちらを伺っていた。
    ちょんと恐る恐る頭に触れる。指先で髪を撫でると少し嬉しそうに瞳が弧を描いた。

    「貴方は誰ですか?」

    「宗雲だ」

    返事をすると、その小さな容姿からは想像しにくい苦笑が聞こえる。姿は子供だがどうやら精神は元の雨竜と変わらないようだ。

    「兄さんが…居なくなったんです」

    幼い声色で言われると胸が痛む。

    「……戴天は、外で心配そうに待っていたぞ」

    ごそごそと体が動いて。膝を抱える力が強くなったのが分かる。受け入れたくないのだろう。少しだけ見えていた瞳も隠れてしまった。もう少しだけ近くへ寄って、背中に腕を回すと、自分の腕の中にすっぽりと収まってしまい、その小ささに驚いた。こんなにも小さかっただろうか。そう想いながら抱き寄せると甘えているのか、雨竜がぽすんと頭を寄せてきた。

    「………兄さんが、あなたの事、必要ないっていうんです」

    ぐずっと鼻を啜る音がする。

    「あぁ」

    あくまでも聞いていると伝えるために。小さく頷く。

    「もう、兄でなくても、…僕の大事な人なのに」

    「あぁ、知っている」

    「もう、兄さんの事なんて知らないと思っていたらここに」

    小さな手の中には高級そうな布で作られたハンカチが握りしめられていた。沈黙を誤魔化すように宗雲が回した手で背中をなでて。じっと見つめていると、雨竜がじわりの浮かんだ涙をそっとそのハンカチで拭った。それを見て宗雲は愛しそうに笑う。

    「そんなに大事に握っているんだ。早く帰らなければ行けないと思っているんだろう」

    顔を少しだけ覗き込むと、唇をツンと尖らせて。そっぽを向かれてしまった。小さな手をハンカチごと包んで、体も包むように抱きしめた。

    「皆、譲れないものが有るんだ。……戴天もお前を取られたくないんだろう」

    ふふふ、と笑うと雨竜の視線を感じる。

    「兄さんも。と言うことは宗雲さんもですか」

    いつもより大きな瞳は曇りなく。その瞳はじっと宗雲を見つめていた。

    「意地悪な質問をするな」

    真っ白な額に口付けを落として、宗雲は苦笑する。

    「そろそろ出れそうか?……あまり長居をするとカフェが閉まってしまう」

    一緒に行く約束だっただろう。と、立ち上がりズボンを払う。雨竜が立ち上がるのを手伝おうと手を伸ばすと、すぐにその手は握られた。だが、思っていたよりもその手が大きい。と、いうよりもいつもと同じ触れ慣れたものになっていて。振り向くと、そこにはいつもと変わらない姿の雨竜が立っていた。

    「………兄さん、怒りますかね」

    「何故だ?」

    「入ってきた時の記憶が曖昧で。きっと酷いことを言いました」

    「……そうか、それを返したら、きっと大丈夫だろう」

    握っていたハンカチは、涙で濡れたままで。小さくなっていたのが事実だと告げる。大事に握っていたせいでシワもしっかりとついていた。心細くてもこれが有るから大丈夫だと思えたのを思い出して、頬が緩む。

    「……………カフェ、一緒に誘っても良いですか…?」

    「俺が居たほうが怒るだろう。また二人で行くといい」

    自分が二人の時間を邪魔されたくない気持ちもあったけれど、それはそっと胸の奥に閉まって。
    宗雲は雨竜の手を取って、元の世界の扉を開けた。

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