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    道端の‪🌱‬

    @miti_no_hashi_

    自分の性癖にしか配慮してないのでよろしくお願いします。

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    道端の‪🌱‬

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    投稿する予定のバレンタインデー小説だったのですが、特定のCPが決められず没になったので供養させてください!途中までです。
    気持ち的には🌳愛されです

    はっぴ〜ばれんたい〜ん!事前準備とは何かと大切だ。竜狩りにおいても、依頼においても。そして───今から始める、チョコ作りにおいても。

    「(………よし)」

    各材料の分量を測る。教示を乞うたシロネン曰く、お菓子作りは分量が大事らしい。適当にやって作れる菓子もあるそうだが、今から作るのは適当にやって作れるものではない。
    粉類も事前にふるいにかけておく。しなくても出来なくはないらしいが、舌触りや焼きに関係してくるらしい。菓子作りなどした事なかったので、こういうひと手間のおかげで美味しくなっているのだと知れるのは良いことだと思う。

    「(チョコを刻む……その間に、)」

    シロネンに教えてもらったレシピ通りに作業していく。チョコを細かく刻んでいる間に生クリームを鍋で温めていく。この際、温め過ぎには要注意とメモしてあった。
    教えてもらった温まりの合図を確認し、火を止める。鍋に刻んだチョコを入れて、混ぜていけば第一段階は終わりだ。たぶん上手くできた事に安堵しつつ、それを別に移して平らにし、埃などが入らないようにして寒い暗所に移しておく。

    『キィニチってば器用だし、もうちょい凝ったのとか作らない?』
    『凝ったの?』
    『んーとね………こういうレシピなんだけど』

    シロネンとの会話を思い出す。
    本当はこの段階で終わりにしようと思っていたのだが、キィニチの器用さを改めて感じたシロネンに更に上を目指してみないかと提案されたのだ。彼女のキッチンに置かれていたレシピ集の、紹介されたページを見る。キィニチは自身の料理スキルを過信している訳ではないが、如何せん菓子作りをした事がないので不安に見舞われていた。本当にこれを作れるのだろうか。

    『器材がないなら旅人に相談しようよ。なんならウチん家貸すよ』
    『……でも作れるのか?本当に?』
    『そこ心配してたんだ………大丈夫だって。キィニチなら出来るよ』

    レシピ通りにすればね、という幻聴が聞こえてくる。たしかに、料理の失敗の原因は大抵レシピ通りに作らないからだと聞いたことがある。アレンジは料理に慣れてから、と母に口酸っぱく言われた事を思い出した。

    『分かった。旅人に聞いてみる』
    『そうこなくっちゃ。ダメだったら家貸すから』
    『………ありがとう、シロネン』

    お礼を伝えると、彼女は目を見開いて、それから嬉しそうに微笑んで『いーよ』と言った。

    「……ふぁ、ぁ、」

    過去のやり取りを思い出しているうちにうたた寝していたらしい。そろそろ固まっただろうか、と確認がてら表面に軽く触れれば、チョコは手につかなかった。そのままそこに放置し、次の工程に取り掛かる。
    オーブンを余熱しておき、その間に刻んだチョコとバターを湯煎で溶かす。湯煎にかけすぎも良くないらしいので、ある程度溶けたら湯煎から外してよく混ぜておく。

    「(たまご、砂糖………こんな感じだった、はず)」

    別の容器で卵と砂糖を混ぜ、そこに先程の溶かしたチョコを少しずつ入れていく。よく混ざったら薄力粉を加えて、用意した型に注ぐ。

    「(チョコ……チョコ……こうか?)」

    生チョコを入れて、覆うように残りの生地を注いでいく。とんとん、と少し空気を抜いて余熱し終わったオーブンへと入れていく。時間を指定して、焼き終わるまで待つ。上手くいけばこれで出来上がる……はずだ。
    焼き始めてまだ数秒でそわそわし始める。お菓子作りなんて初めてで、シロネンに教わったとはいえひとりでやるには心許ないと思っていた。オーブンの前で右往左往していて、傍から見ればさぞや無様に見えるだろう。

    「やっほー、キィニチ」
    「!、旅人」
    「良い匂いだね。順調?」
    「た、たぶん」

    旅人に声をかけられ、振り返る。旅人の疑問にオーブンを指させば、「おぉ」と感嘆の声が返ってきた。様々な料理を作ってきた旅人に、これは順調なのかと尋ねれば「良い感じ!」と笑顔で花丸を貰えた。

    「キィニチは普段料理するんだよね?ムアラニとカチーナも、君の料理は美味しいって言ってたし。そんなに心配しなくても大丈夫じゃない?」
    「たしかに自炊はするが……菓子類は作ったことがないんだ。あってもちび竜ビスケットぐらいで」
    「……アイシングするの?」
    「あいしんぐ?」

    「ほら、焼けたビスケットに絵を描くあれ……」と伝えれば、納得したように頷く。仔竜たちの絵を描いて初めて出来上がったと言える料理なので、アイシングの名称は初めて聞いたようだった。かという旅人も、菓子類の技法の名称はナヴィアに教わったものばかりだが。

    「旅人は物知りだな」
    「キィニチにそう言ってもらえるならそうかも」

    旅人の言葉と同時に、オーブンが焼き終わりの音を鳴らす。一旦外に出て、竹串で刺して焼き具合を見た。中の生チョコが溶けたのだけが竹串についてきたので、生地は焼けているらしい。

    「……よかった、完成だ」

    ほっ、と安堵の息をつく。焦げたり、生焼けだったりしたらどうしようかと思っていたがその心配も杞憂だったらしい。

    「よかったら、どうだ?」
    「え、いいの?」
    「あぁ」
    「わぁ、ありがとう!今度お礼渡しに行くね」

    焼きたてのを旅人と、パイモンの分も渡す。パイモンは本日不在のようだったが、彼女の分だけないというのは不公平だろう。
    旅人はキィニチからもらったチョコ────フォンダンショコラを一口食べる。

    「美味しい!」
    「ならよかった」

    表面は程よくカリッとしていて、しかして中はふんわりしている。焼きたてだからなのか、中の生チョコは溶けていてそれらも含めて、とにかく美味しいのだ。冷ましたのだってきっと美味しいに違いない。この場で全て食べてしまうのが惜しいくらいだ。

    「もっとほしい」
    「ははは。お気に召してもらえたんなら嬉しいが……悪いな」
    「うぅ」

    本気で残念がる旅人を見遣りながら、完成品に少し自信が出る。数多の料理に舌鼓してきた旅人がこれだけ賞賛してくれるなら、きっと大丈夫だろう。
    旅人の口端についたチョコを親指の腹で拭いながら、キィニチはそっと微笑んだのだった。

    ◆❖◇◇❖◆

    軽く梱包して、渡す予定の数を確認する。旅人とパイモンにはもう渡したのでそれらは除いて、二度ほど数え直してみたが問題はなさそうだった。

    「あ、キィニチ!こっちこっち!」
    「キィニチお兄さーん!」

    チョコの入った袋に保冷剤も突っ込み、待ち合わせ場所に向かえば既に二人はいた。キィニチは駆け足で彼女たちに駆け寄り「すまない、待たせたか?」と尋ねる。

    「そんな事ないよ!あたしたちもさっき着いたとこ!」
    「だから大丈夫だよ、キィニチお兄さん」

    二人の言葉に「なら良かった。ありがとう」と返して、袋の中からチョコを取り出す。それぞれに渡せば「わぁ!」と歓声が返ってきた。ムアラニは色々な角度から眺めてから「これ手作り!?」と驚いている。

    「あ、あぁ」
    「やったー!キィニチの手作りなら絶対美味しいよ!」
    「キィニチお兄さんの作る料理はどれも美味しいから……すごく楽しみ!」

    改めてお礼を言われ、少し心がほっこりとする。ここまで喜んでくれたのなら作ったかいがあったというものだ。
    それから、ムアラニとカチーナからそれぞれチョコを貰う。ムアラニのはカラフルなチョコなどで彩られたカップケーキで、カチーナのはカラフルな形取り取りのキャンディーだった。どちらも美味しそうで、今から食べるのが楽しみになる。

    「この後聖火競技場に行くんだよね?よかったら一緒に行こうよ!」
    「あぁ、いいぞ」
    「私はこの後用事があるから……二人とも、気をつけてね。いってらっしゃい!」

    カチーナに見送られながら、ムアラニとキィニチは聖火競技場へと向かったのだった。

    ◆❖◇◇❖◆

    「人気なのも辛いね!」
    「そっくりそのまま返すぞ」

    聖火競技場に着いた瞬間、ムアラニとキィニチはあっという間に人々に囲まれた。あれよこれよという間に持っていた紙袋に色々と詰め込まれ、キィニチの性格を知っているファンたちは早々に風のように去っていく。ムアラニは都度笑顔でお礼を言い、小包を渡していたが、キィニチはお礼を言うまもなく去られてしまったので呆然と立っていたばかりであった。そうして、群がれていたのが嘘かのように静かになった時、冒頭のムアラニの言葉に繋がるのである。

    「貰ったものにどう報いるべきだと思う?」
    「そんなの簡単だよ!軽く作れるの作って、競技場の目立つところに置いておくの!今日チョコくれた方へ〜って書いておけばいいと思うよ」
    「それでくれた人に渡るだろうか?」
    「それは分からないけど……顔とか覚えてるなら個別で渡すのもアリじゃない?」
    「……」
    「記憶する間もなくみんな行っちゃったもんね。あはは、流石の団結力!」

    ムアラニの言う通り、記憶する間もなく人々は去っていった。チョコを渡す順番もキィニチの性格も熟知しているようだった。
    とりあえずムアラニの提案通りにする事を決め、請け負った依頼を頭の中で整理しながら予定を組む。

    「あ、チャスカだ!」
    「お前たちか」
    「ハッピーバレンタイン!はいこれ」
    「俺からも、これ」

    二人してチャスカにチョコを渡す。チャスカはぱちりと瞬きしてから、ふっと笑って「ありがとう」と受け取った。

    「私からはこれを」
    「ドーナツだ!」
    「いいのか?」
    「私だけ貰ってお前たちに何もないのは不公平じゃないか?」

    チャスカの言葉にも一理あるが、しかし彼女は己たちの到来を予見していたのだろうか。チャスカから手渡されたドーナツは明らかな手作りだ。キィニチはドーナツを受け取りながらも、チャスカを見上げる。視線に気づいたチャスカはふっ、と笑った。

    「聖火競技場に来れば、誰かには会えると思ってな。お前達にも会えれば上々だと思っていたんだ」
    「その為にわざわざ用意してくれたのか?」
    「手間ではなかったさ。こういう時でないと、特にキィニチには渡せないからな」

    首を傾げれば、チャスカはくすくすと可笑しそうに笑った。ムアラニはチャスカの言いたいことが分かったのか「わかる〜!」と頷いている。ちょっとの疎外感。む、と自然に眉に出る。

    「お前たちだって私と同じ考えだろう?」
    「うん!聖火競技場に来れば誰かしらに会えるかもって。会えなくても個別に渡しに行けばいいしね」
    「ムアラニの言う通りだな。それに、聖火競技場には炎神様がいらっしゃるのだから、運が良ければ会えると思ったんだ」

    誰かにチョコを渡すこの日は、聖火競技場がいつも以上に賑わう。それこそ、帰火聖夜の巡礼と並ぶぐらいには人で溢れ、その殆どは炎神マーヴィカにチョコを渡すために訪れる。しかしこんな日でもマーヴィカは仕事に追われている為、運が良ければ本人に渡すことは出来るが────その殆どは談義室の前に置かれた箱の中に入れていく事が多い。
    キィニチたちもそうで、こんな日でなければマーヴィカに贈り物をするチャンスなどそうそうこない。

    「炎神様は今お忙しいみたいだ。直接渡したいなら、もう少し様子を見た方がいいだろう」
    「そっか……あ、なら他の人探してみよっか」
    「あぁ」
    「じゃあチャスカ、またね!」
    「また」
    「あぁ。またな」

    そうして、ムアラニとキィニチはチャスカと別れたのだった。

    ◆❖◇◇❖◆

    「イアンサー!」
    「ムアラニとキィニチじゃないか。奇遇だな!」

    聖火競技場内を少し歩くと、豊穣の邦から人を少し連れて指示を出していたイアンサを見つけた。名を呼んで手を振れば、イアンサは驚いたように目を見開いてから、その顔に笑みを浮かべる。

    「はいこれ!」
    「どうぞ」
    「これ……チョコか?はは、ありがとう!」

    「アタシからもあるぜ」と、少し離れた場所にあったカバンから小包を二つ持ってくる。それぞれを渡しながら、「ハッピーバレンタインってやつだな!」と笑った。

    「マフィンだ。この日に因んでチョコ味にしてみたんだ!」
    「イアンサってパンも作れるの!?すごーい!」
    「袋越しでも分かる良い匂いだな」
    「アタシが弟子たちの食事も管理してるからな!これぐらい朝飯前さ。それに、この日のために節制もしたし、明日からのメニューも考案済みだ!」

    「だからみんなのチョコ、大事に食べるな!」と笑うイアンサに「私も〜!」とムアラニが返す。キィニチとしてはそこまで大事にならなくてもいいとは思うのだが、口に出すのは野暮というものだろう。

    「あ、みんな」
    「オロルンじゃないか」
    「良いところに!オロルンにもあげる!」

    遠くからやってきたオロルンが三人に声をかける。ムアラニがすかさずオロルンにチョコを渡した。それに倣うようにイアンサとキィニチもオロルンにそれぞれ手渡す。

    「みんなもくれるの?ありがとう」
    「も?」
    「ばあちゃんや謎煙の主のみんなから毎年この時期に貰うんだ。お返しを考えるのは大変だけど……どれも嬉しいし美味しいんだよ」

    「はい、みんなにも」と、オロルンはどこからか個包装の飴が入った小包を取り出し、それぞれに手渡す。てっきり野菜が出てくると思っていた面々は何度かオロルンと小包を交互に見た。

    「キャラメル味のキャンディーなんだ。じいちゃんにも渡したけど、美味しいって言ってくれたよ」

    にこにこと笑うオロルンの言葉を解釈すれば、どうやらこのキャンディーは彼の手作りらしい。

    「今年は初めて手作りにしてみたんだ。ばあちゃんにも味見してもらったから大丈夫だと思う」
    「シトラリおば様に?」
    「うん。まぁいいんじゃない?ってお墨付き」

    だから安心して、と言いたいのかもしれない。普段料理しているならまだしも、菓子系を作らないキィニチとしてはオロルンの感じている心配がわかる。
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