月田の同棲生活(仮)「ゴミの分別ぐらいいい加減覚えてくださいよ」
「分かってるって包装のビニールはこっちで……」
「それシールの部分はこっちだって言いましたよね」
「このシール剥がれないからいいだろ別に」
「後で言われるの誰か分かってるんですか」
「分かってるよ俺だろ」
「なら頑張ってゴミ分別してなら頑張ってゴミ分別ぐらいしてくださいね」
ため息と共に言葉にムッとしながら、田中さんはゴミの分別をし始めた。
こんなガサツな人を好きになった時点で、僕の人生ではありえないコースを辿っているのに。好きなだけで終わらず、結局付き合うことになり、同居まで許してしまった。
こうなるだろうとは想像していたけど、想像以上すぎてため息しか出てこない。僕のため息を聞くのが嫌なのか、田中さんは早々にゴミの分別をおわらせると、途中だった料理に取り掛かった。
小さな二人がけのダイニングテーブルに腰掛け、携帯を見ながらチラッと田中さんの背中を見ると、肩を怒らせながらフライパンを振っている。
田中さんもイラついてるのは分かる。僕は全く悪くないけど言いすぎた気がするし、本来ドラマや小説の中では背後から抱きしめて、歯の浮くようなセリフを吐きながら謝るんだろうけど、僕はそんなことはしない。
「飯、出来たぞ」
荒々しくテーブルに置かれた皿には大盛りの回鍋肉。田中さんの家が食堂を経営していて、家から送られてきた特製のソースで作られた回鍋肉は、いい匂いをさせている。
「準備ぐらい手伝ってくれよ」
声は怒っているわけじゃなく、むしろ早くご飯を食べたくて仕方ない感じの言い方に、なにも言わず立ち上がった。
「ご飯は大盛りですか?」
「ああ、頼む。月島、みそ汁はいつもの量でいいのか」
「はい」
いつもの大盛りご飯をよそってテーブルに置くと、田中さんがよそってくれた味噌汁が置かれていた。晩御飯は回鍋肉と味噌汁だけ。お互い仕事をしているから、品数に文句はない。
お互い手を合わせ「いただきます」の声がハモる。箸を手に取り回鍋肉に手を伸ばすと、田中さんと目線があう。
「うまそうだろ」
さっきまでの険悪ムードはどこへやらの田中さんに、微かに笑い返し、
「田中さんが作るものは全部美味しいですよね」
素直に感想を言った。
「お、おま! 急に何言って!」
田中さんは単純な言葉で喜ぶから、ドラマや小説のような歯が浮くようなセリフは、僕には必要ない。