疾風と成りて朝6時、私は日課の鍛錬のために、CAGEに備え付けられている道場風の訓練場に来ていた。
神棚に礼を行い雑巾がけを行うと、訓練場の真ん中で正座をして目を閉じる。
視覚からの情報を完全にシャットアウトし、余計な思考を捨てる。
感覚が研ぎ澄まされ、外で鳴く鳥の鳴き声や訓練場に使用されている木材の香りが、鮮明に感じ取れる。
数分、その状態で集中力を練り上げてから私は鍛錬に臨む。
「………………」
道場内では、木刀を振るう音と自分の足運びの音だけが響く。
定めた素振りの回数を終えると、木刀を元の場所に戻し、自分の荷物をまとめていた場所から、刀を手に取る。
技術班のカッコウさんに、作って貰った特別製の武器。
名前は私のコードネームに、因んで付けられた『疾鳥の刀』と言う名前らしい。
私は未だに、その刀の名前は気に入らない。
「ふぅ……」
軽く息を整えると、柄に手を当てて集中する。
素振りのときとは違い、微かに自分の息遣いが聞こえる程度に静まり返った道場で、私は構えを取り刀を抜く。
「もう少し早くできるはず」
自分の抜刀のスピードに納得がいかなかったが、時計を見ると既に時刻は7時30分頃を指していた。
「あの人……。はぁ、三日坊主」
私は脳内にペア相手の事を思い出すと、悪態をついてしまう。
しかし、そんなことを考えている暇はないので、すぐに後片付けに入った。
後片付けを終え、神棚に終わりの礼をすると私は訓練場を後にした。
時刻は8時前。
もう既に多くのスタッフが出勤し、仕事に従事していた。
自室に帰ってくると、すぐにシャワー室に駆け込む。
「はぁぁぁ、生き返る……」
我ながら情けない声を上げているが、自室のシャワー室のため、全く気にしない。
そうしてシャワーを浴びると、普段着ているCAGEから支給されていた服に着替える。
確かスタイル?という名前。
私にはただの服にしか見えないけど、カッコウさんのこだわりがあるらしい。
時刻は8時30分を過ぎていた。
朝食を食べに食堂に来たはいいが、一緒に朝食を摂る予定の、ペア相手の姿が見当たらない。
「本当に最悪」
私は食堂を離れると、ペア相手の部屋へと向かう。
念のためにと持たされた部屋の鍵を使い、部屋を開ける。
カーテンは完全に閉め切られており、ベッドには部屋の主が、下着姿でぐっすりと眠っている。
「三日坊主さん、起きてもらっていいですか?」
「んんっ……」
声を掛けるが少し反応があるだけで、起きる素振りはない。
「あなたが私の朝の鍛錬に、付き合いたいと言ったんですよね。本当にあれから3日で、このザマ。三日坊主を体現してのけた人は、初めて見ましたよ」
私は鐺(鞘の先端部分)で、彼女を小突く。
反応はしているが、全然起きない彼女に、イライラしながら私は最後のカードを切った。
「だから、そんなお腹周りになるんですよ」
「ちょっと!まだそこまで酷くなってないでしょ!辞めて、刀でお腹を小突かないで!」
私がお腹をふにふにと鐺で小突きながら、お腹周りについて言及すると、彼女はガバっと勢いよく起き上がった。
「今何時だと思ってるんですか、クジャク」
「えっと、8時くらいかな?」
「はぁ……。お腹空いたので、早く準備してください。外で待ってます」
「はーい、すぐに準備いたします!」
これはツバメやタカ、モズと言ったメンバーが、トリとして目覚めて間もない頃の、監査班に所属している『ハヤブサ』と『クジャク』というペアのお話。