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    fujidanaa

    主にワンドロ提出小話を置いておきます。デュエスメイン

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    fujidanaa

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    ワンドロ提出小話。私の耳は貝の耳

     サマーホリデーの間、一日海に行かないか。そう持ちかけたのは意外にもデュースの方だった。いつもならそういった遊びのお誘いを仕掛けるのはエースなので、一体どういうつもりなのか興味を持つ。

    「デュースから声かけるなんて珍しいじゃん。どうしたの」
    「先日の授業で水面歩行の魔法を習っただろう。覚えている内に身につけておきたいと思ったんだ」
    「復習かよ!お前本当にマジメくんだな!じゃあ、監督生とグリムにも声かけて……」
    「そ、それに」

    ……せっかくだし、お前と二人だけで行きたいんだ。

     目元と耳を真っ赤に染めて呟く彼に、エースまで顔が熱くなってしまった。デュース本人は全く自覚していないが、ここまで持ち込めれば彼の一人勝ちだった。


     互いに都合の良い日にちをすり合わせた結果、決行日はホリデーのちょうど中日となった。待ち合わせ場所は、二人の実家から中間地点にある海水浴場だ。真っ昼間からだと暑くて堪らない、と駄々をこねたエースの一存で、日が落ちてからの合流となった。水面歩行の魔法が失敗しても問題ないように、Tシャツとハーフパンツという軽装で目的地を目指すエースは、すぐに同じような格好をした相棒の姿を捉える。遅い時間のせいか、彼ら以外の客はほぼ見当たらなかった。

    「デュース!もう来てたのか〜早いな!」
    「いや、今来たところだ。今日はありがとう」

     夕日で燃えるような空の下、はにかむように笑う男の青い瞳に吸い込まれそうだ。

    「と、とにかく始めようぜ」

     離せなくなる視線を何とか逸らすと、エースはサンダルを脱いで波打ち際へ向かった。デュースも靴から足を抜きながら彼の後を追う。ポケットからマジカルペンを取り出し、軽く振りながら魔法の詠唱を始める。高さの違う、二つの声が波の音に混ざっていく。

     イグニスファチュアス!呪文の最後を締めくくる一言を唱えると、どこからともなく青白い火の玉が現れ、二人の足首の周りを漂いはじめた。デュースが恐る恐る水面に足を乗せると、沈むことなくそのまま数歩進む。

    「おぉ……で、できた!」
    「やるじゃん!よっしオレも!」

     エースも勇んで波間に踏み込む。暑さに火照った足が、海水で冷やされて気持ちが良かった。魔法が成功した喜びも手伝い、ふわふわした気分のままデュースの隣に立つ。すると手を握られた。少し汗ばんだ大きな手のひらが、しゅるりとエースの手を包む。

    「エース、このまま少し歩かないか?」
    「良いよ。魔法の効果が切れるまでね」

     手を繋いだまま、二人並んで穏やかに波立つ海面に歩を進める。揺れる火の玉が足元を優しく照らした。いつもなら肩の辺りまで塩水に浸かるほどの距離を進んでも、今は足の裏以外に水気を感じない。いつもと違う視線の高さに浮足立ってしまう。

     こいつと一緒に、このままどこまでも行けそうだ。夢みたいな思いが唐突にデュースの胸を過ぎる。と、ほぼ同じタイミングでエースがくちを開いた。

    「オレ、今ならお前とどこまでも行けるって思う」

     弾けるように傍らを振り向くと、ガーネットの瞳がまっすぐにデュースを見つめていた。西日はとっくに落ち、青黒く染まる世界の中、輝く二つの赫だけが水平線に落ちてきた星のようだった。

     繋いだ手を脊髄反射で引き、倒れ込んでくる薄い胴体を力いっぱい抱きしめる。Tシャツ越しに密着した体が一気に熱を帯び、汗と潮の香りが二人を包んだ。

    「……僕も今、同じことを思った」
    「変なところでシンクロするよな、オレたち……」

     可愛くない文句は照れ隠しだと分かっているから、黒髪の小さな丸い頭を抱きしめる力が強くなっても含み笑いしか出てこない。
     吐露した想いがいつまでも互いを繋ぎ、時に背中を押してくれる原動力となること、そして魔法の効果時間が切れ、二人が海に落ちてずぶ濡れになってしまうことは、波間だけが知っている。
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    fujidanaa

    DONEワンドロ提出小話。マーキングの話 匂いは注意しないと周りに迷惑だ、とデュースは考える。誰かがうっかり整髪料でも使いすぎたのか、無人の廊下に匂いが残っている日は朝から憂鬱だ。そういえばミドル時代につるんでいた悪い先輩たちの中には、香水の匂いが強くてあまり近づきたくなかった人がいたのを思い出す。
     だから、デュースは香水の類が苦手だった。その意識が変わったのは、エースと付き合い始めてからだ。

            ※

     授業が終わって教室を出たとき、デュースは隣を歩くエースの、ほのかな甘い匂いに気付いた。彼は香水の使い方がとても上手い。側にいても不快にならない、むしろもっと近づきたくなる。そんなことを思うのはこいつだけだと、少し前に知った。

    「今日のエースはレモンの匂いがする」
    「わかる? 新しいの開けたんだ、どう?」
    「良いと思う。……お前はいつも違う香水を使ってるな」
    「ちっちゃいサイズを買うようにして、色々試したいんだよね。もしかしたら、もっとオレに合うやつが見つかるかもしれないし」

     なるほど、自分のシンボルとして香りをつけることがあるのか。デュースが得た新たな知識は、爽やかな柑橘の匂いがした。

     温室に用が 1581

    fujidanaa

    DONEワンドロ提出小話。どどめ色片想い 休日最終日の夕方、エースはデュースが運転するマジカルホイールの後ろに乗せられ、病院への道を走っていた。振り落とされないよう、ハンドルを握るデュースの腹の前で交差されている腕は微かに震えている。大丈夫だから、とかけられた声と腕に置かれた温かい手に、エースは小さく頷いた。

            ※

    「……うん、分かった。許可もらってすぐにそっち行く。じゃあまた後で」

     シャワールームから自室に戻ったデュースが見つけたのは、彼のベッドの縁に腰掛けたまま電話をしているエースの姿だった。いつもの悪戯っ子な笑みをすっかり消し、青を通り越して真っ白な顔で相槌を打っている。通話が終わったのを確認し、恐る恐る声をかけた。

    「エース、どうした。何かあったのか」
    「……兄貴からの電話だったんだけど、ついさっき父さんが事故にあって、病院に担ぎ込まれたんだって。今から寮長に外出許可もらって病院行ってくる」
    「えっ!?……病院って、薔薇の王国のだよな。場所は分かるか?」
    「うん、今聞いたから……って何で聞くの」
    「僕も一緒に行く。今からだと交通機関は乗り換えで時間がかかる。マジホイを出すから乗っていけ」

      1676

    fujidanaa

    DONEワンドロ提出小話。二人きりのダンスはロマン 意識が浮上してエースは目を覚ました。枕元の時計は、彼が就寝してから二時間も経過していないことを示している。普段なら一度寝入ってしまうと朝まで起きないのだが、珍しく気分が高揚しているようだ。星送りの儀をあんな間近で見たのだから仕方ないか、と一人納得する。
     毎年恒例の星送り。今回はスターゲイザーとしてデュースとトレイが選出されたので、身内の応援とからかいを兼ねて会場を訪れたエースだったが、予想以上に美しい舞、そして天から降りしきる星の雨に見入ってしまった。あんなにたくさん星が落ちた儀式、今まで無かっただろう。目が冴えてしまったエースは、そっとベッドを抜け出すと部屋を後にした。

     夜も更けた寮内は人の気配はもちろん、物音一つない。エースは、昼間とは真逆の様相となった談話室の窓際に佇んでいた。漆黒の空を、流星の青白い尾が飾る。その色合いに、何故か昨日の主役が頭に浮かんだ。
     愚直に懸命に、自分のできる精一杯をこなし、そして仲間たちと奇跡を呼び込んだ男。汗を散らして特別な舞を奉納する姿は、悔しいが同性から見ても本当に美しく、彼が踊っている間は、星なんて意識にも無かったほど視線をくぎ付けにさ 1529

    fujidanaa

    DONEワンドロ提出小話。マブ……いっぱい食べていっぱい笑ってください エースとデュースが監督生からお茶に呼ばれたのは、残暑厳しい昼下りの休日だった。正確には貰い物でおやつを作るから一緒に食べよう、という提案だったのだが、監督生が故郷で食べていた味と聞き、美味しいものと楽しく騒ぐことが大好きな二人は一もニもなく飛びついたのだった。

    「もう疲れたんだけど……」
    「口じゃなくて手を動かせ、いつまで経っても終わらないぞ」
     真っ赤な果肉にスプーンを突き刺しながらぼやくエースをデュースがたしなめる。監督生の貰い物とは、クロウリー学園長からのお裾分けだという一抱えもあろう大きなスイカだった。酷暑の中オンボロ寮に到着した二人は、出迎えた監督生にいきなりだけど、とスイカの下準備を任せられたのである。お菓子作りは本当に重労働だ、副寮長のがっしりした腕を思い出す。
     三十分ほど格闘した結果、スイカは外側を残してきれいにくり抜かれていた。果肉はひとくち大に丸く整えられ、まるで赤いビー玉を積み上げたようだ。

    「一つくらい食ってもバレねえって!」
    「い、良いのか、監督生に怒られないか?」

     エースは取り上げた真っ赤な球体にかじりついた。さりさりした塊がつぶれ、さっぱりした 1661

    fujidanaa

    DONEひら赤提出小話。踊る指先「おいデュース、耳の後ろどうしたの?」

     エースが自分の前の席で必死にノートをまとめる男に声をかけたのは、連続する魔法史の授業の合間休憩だった。ならば昼寝をして時間をつぶそう、と机の上に腕を組み、枕代わりにしたところで、前席のデュースの後頭部、正確には赤く染まった耳が見えたのだ。手を伸ばして耳の縁に触れた瞬間、イッテェ! と大声が教室内に響き渡った。デュースが目を吊り上げて振り返る。

    「何するんだ! 触るな!」
    「でかい声出すなよ! こっちがびっくりしたっての……あ、もしかして日焼け?」
    「そうだ。まさかこんな場所も焼けるなんて」

     デュースは自分の耳を守るように手でそっと覆った。一昨日開催された陸上部の記録会に参加した際、うっかり日焼け止めを塗り忘れたのだとぼやく。確かにその日は朝から一日中晴天が続いていた。そんな日に日焼け止めをつけないなんて考えられない、と嘆息するエースである。
    そもそもそんな日に外で運動なんかするなよ、熱中症になったらどうすんの。なんて心配は、彼にとって杞憂だろうから口に出さなかった。

    「だから耳に限らず全身こんがりしてんのね」
    「シャワーも痛く感じるか 1501

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