Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    fujidanaa

    主にワンドロ提出小話を置いておきます。デュエスメイン

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 8

    fujidanaa

    ☆quiet follow

    ワンドロ提出小話。eat me

     エースの目の前に差し出された、美しい橙色の一片。彼の流し目をするりと受け、デュースは静かに見つめ返した。

    「どうした、いらないのか?」
    「……」

     エースは小さく笑うと顔を近づけ、ぱくりとひとくちで飲みこんだ。勢い余ってデュースの指まで口に含んでしまう。柔らかな果肉と彼の舌の間、指先だけが熱く、固い。
     エースの口内が果汁で満たされたことが分かる。甘酸っぱい香りが数日前の記憶を蘇らせ、デュースは小さく口角を上げた。
     
            ※

    「この時間になると真っ暗だね」
    「ああ。まだまだ日が落ちるのが早いな」
    「腹減ったー」
    「学食……は、まだ開いてないか」

     オンボロ寮で監督生、グリムと遊んだエースとデュースが自室に戻ったのは、日がとっぷりと暮れた頃だった。辺りは暗いが、学食がディナーを提供する時間にはまだ早い。空腹を覚えたエースは、監督生から持たされた土産を思い出した。

    「そうだ、みかん! 監督生がくれたやつ!」
    「今から食べるのか? 夕飯が入らなくなるぞ」

     そう言いながらも、デュースはバッグから小さな柑橘を掴み出した。二人の間に爽やかな香りが広がる。
     エースは早速一つを取り、するすると皮をむいた。オレンジ色の一房を口に放り込む。それを見て、デュースもみかんを手に取った。

    「甘い! この時期のが一番美味いって思わない?」
    「みかんの時期なんて考えたことなかったな」

     デュースはみかんの皮をむくと、白い筋を取り除きはじめた。彼が丁寧に処理をしている間に、エースは一つを食べきり、手持ち無沙汰になってしまう。デュースの大きな手、その中に収まる小さなみかんは、まるで太陽の光が固まった宝石のようだった。

    「……デュース」
    「ん?……何してるんだ」

     呼びかけに振り向いたデュースの前に、ぱかりと口を開けたエースがいた。彼の真意が掴めず、思わず首をかしげてしまう。数秒後、エースが口をとがらせた。

    「……わかんない? ひとくちちょうだいって言ってるの」
    「え、す、すまない……って、お前何も言ってないだろう」

     そもそもさっき食べてたじゃないか、と困惑するデュースに、エースは美しく笑った。

    「お前のむいたキレイなみかんが食べたいの。ね、一つだけ」

     照明を点けず、薄暗い部屋の中。赤く輝く瞳に魅了されたかのように、デュースは小さな一房をエースの口元に近づけた。
     もう一度開いた口が、みかんごとデュースの指に吸いつく。数瞬後、橙色のかけらは見えなくなる。彼の指は温かな口内から開放された。

    「……ん、ありがと。やっぱりみかんは甘いのが一番だよね」
    「そうか……」

     蠱惑的な笑みを浮かべる男から視線が外せない。デュースはエースを抱き寄せた。みかんの残りが彼の手から転がり落ちたが、二人とも気にも止めなかった。食べてももう味を感じられないと、互いに分かっていた。

            ※

     自室の机に盛られた果実は、実家がみかん農家だというクラスメイトからの差し入れだ。先日の監督生からの土産と言いみかんづいてるな、とデュースは独りごつ。新たな一房をエースの口元に持っていくと、彼は子どものように無防備に咀嚼し、飲みこんだ。
     ひとしきり満足したのだろう、エースが自身の上唇を舐めた。陶然の光を目の中に宿し、そのままデュースに体を寄せてくる。口付けはあの日と同じ味がするだろう。デュースは静かにエースに覆い被さった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    fujidanaa

    DONEワンドロ提出小話。マーキングの話 匂いは注意しないと周りに迷惑だ、とデュースは考える。誰かがうっかり整髪料でも使いすぎたのか、無人の廊下に匂いが残っている日は朝から憂鬱だ。そういえばミドル時代につるんでいた悪い先輩たちの中には、香水の匂いが強くてあまり近づきたくなかった人がいたのを思い出す。
     だから、デュースは香水の類が苦手だった。その意識が変わったのは、エースと付き合い始めてからだ。

            ※

     授業が終わって教室を出たとき、デュースは隣を歩くエースの、ほのかな甘い匂いに気付いた。彼は香水の使い方がとても上手い。側にいても不快にならない、むしろもっと近づきたくなる。そんなことを思うのはこいつだけだと、少し前に知った。

    「今日のエースはレモンの匂いがする」
    「わかる? 新しいの開けたんだ、どう?」
    「良いと思う。……お前はいつも違う香水を使ってるな」
    「ちっちゃいサイズを買うようにして、色々試したいんだよね。もしかしたら、もっとオレに合うやつが見つかるかもしれないし」

     なるほど、自分のシンボルとして香りをつけることがあるのか。デュースが得た新たな知識は、爽やかな柑橘の匂いがした。

     温室に用が 1581

    fujidanaa

    DONEワンドロ提出小話。どどめ色片想い 休日最終日の夕方、エースはデュースが運転するマジカルホイールの後ろに乗せられ、病院への道を走っていた。振り落とされないよう、ハンドルを握るデュースの腹の前で交差されている腕は微かに震えている。大丈夫だから、とかけられた声と腕に置かれた温かい手に、エースは小さく頷いた。

            ※

    「……うん、分かった。許可もらってすぐにそっち行く。じゃあまた後で」

     シャワールームから自室に戻ったデュースが見つけたのは、彼のベッドの縁に腰掛けたまま電話をしているエースの姿だった。いつもの悪戯っ子な笑みをすっかり消し、青を通り越して真っ白な顔で相槌を打っている。通話が終わったのを確認し、恐る恐る声をかけた。

    「エース、どうした。何かあったのか」
    「……兄貴からの電話だったんだけど、ついさっき父さんが事故にあって、病院に担ぎ込まれたんだって。今から寮長に外出許可もらって病院行ってくる」
    「えっ!?……病院って、薔薇の王国のだよな。場所は分かるか?」
    「うん、今聞いたから……って何で聞くの」
    「僕も一緒に行く。今からだと交通機関は乗り換えで時間がかかる。マジホイを出すから乗っていけ」

      1676

    fujidanaa

    DONEワンドロ提出小話。二人きりのダンスはロマン 意識が浮上してエースは目を覚ました。枕元の時計は、彼が就寝してから二時間も経過していないことを示している。普段なら一度寝入ってしまうと朝まで起きないのだが、珍しく気分が高揚しているようだ。星送りの儀をあんな間近で見たのだから仕方ないか、と一人納得する。
     毎年恒例の星送り。今回はスターゲイザーとしてデュースとトレイが選出されたので、身内の応援とからかいを兼ねて会場を訪れたエースだったが、予想以上に美しい舞、そして天から降りしきる星の雨に見入ってしまった。あんなにたくさん星が落ちた儀式、今まで無かっただろう。目が冴えてしまったエースは、そっとベッドを抜け出すと部屋を後にした。

     夜も更けた寮内は人の気配はもちろん、物音一つない。エースは、昼間とは真逆の様相となった談話室の窓際に佇んでいた。漆黒の空を、流星の青白い尾が飾る。その色合いに、何故か昨日の主役が頭に浮かんだ。
     愚直に懸命に、自分のできる精一杯をこなし、そして仲間たちと奇跡を呼び込んだ男。汗を散らして特別な舞を奉納する姿は、悔しいが同性から見ても本当に美しく、彼が踊っている間は、星なんて意識にも無かったほど視線をくぎ付けにさ 1529

    fujidanaa

    DONEワンドロ提出小話。マブ……いっぱい食べていっぱい笑ってください エースとデュースが監督生からお茶に呼ばれたのは、残暑厳しい昼下りの休日だった。正確には貰い物でおやつを作るから一緒に食べよう、という提案だったのだが、監督生が故郷で食べていた味と聞き、美味しいものと楽しく騒ぐことが大好きな二人は一もニもなく飛びついたのだった。

    「もう疲れたんだけど……」
    「口じゃなくて手を動かせ、いつまで経っても終わらないぞ」
     真っ赤な果肉にスプーンを突き刺しながらぼやくエースをデュースがたしなめる。監督生の貰い物とは、クロウリー学園長からのお裾分けだという一抱えもあろう大きなスイカだった。酷暑の中オンボロ寮に到着した二人は、出迎えた監督生にいきなりだけど、とスイカの下準備を任せられたのである。お菓子作りは本当に重労働だ、副寮長のがっしりした腕を思い出す。
     三十分ほど格闘した結果、スイカは外側を残してきれいにくり抜かれていた。果肉はひとくち大に丸く整えられ、まるで赤いビー玉を積み上げたようだ。

    「一つくらい食ってもバレねえって!」
    「い、良いのか、監督生に怒られないか?」

     エースは取り上げた真っ赤な球体にかじりついた。さりさりした塊がつぶれ、さっぱりした 1661

    fujidanaa

    DONEひら赤提出小話。踊る指先「おいデュース、耳の後ろどうしたの?」

     エースが自分の前の席で必死にノートをまとめる男に声をかけたのは、連続する魔法史の授業の合間休憩だった。ならば昼寝をして時間をつぶそう、と机の上に腕を組み、枕代わりにしたところで、前席のデュースの後頭部、正確には赤く染まった耳が見えたのだ。手を伸ばして耳の縁に触れた瞬間、イッテェ! と大声が教室内に響き渡った。デュースが目を吊り上げて振り返る。

    「何するんだ! 触るな!」
    「でかい声出すなよ! こっちがびっくりしたっての……あ、もしかして日焼け?」
    「そうだ。まさかこんな場所も焼けるなんて」

     デュースは自分の耳を守るように手でそっと覆った。一昨日開催された陸上部の記録会に参加した際、うっかり日焼け止めを塗り忘れたのだとぼやく。確かにその日は朝から一日中晴天が続いていた。そんな日に日焼け止めをつけないなんて考えられない、と嘆息するエースである。
    そもそもそんな日に外で運動なんかするなよ、熱中症になったらどうすんの。なんて心配は、彼にとって杞憂だろうから口に出さなかった。

    「だから耳に限らず全身こんがりしてんのね」
    「シャワーも痛く感じるか 1501

    recommended works