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    drsakosako

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    ガイアアルベリヒ誕生日おめでとう
    義兄弟のおはなし カプ要素なし

    #ガイア・アルベリヒ生誕祭2020

    思い起こす事も億劫になる程の、昔話。
     普段こそ静寂の色が濃い屋敷だったが、屋敷の主、そしてその家族だけでなく、使用人の誰かが誕生日の時には、決まって宴会を催したものだ。幼い未成年の子がいるからという理由で、卓の上に並ぶのは、芳醇な酒と旨味のある肴ではなく、甘い果実水と花を模した砂糖菓子が乗ったとろけるような菓子だけ。それでも大人達は皆笑顔で楽しそうにしていたし、また、自分の口に運ぶ果実水や菓子の甘さに、自らも、そして彼も、顔をほころばせていた事を覚えている。
     懐古するほど昔の話ではないはずなのに、その思い出達には昏い夕日のような色がかかっているような気がした。
    「……」
     ディルックの視線が、店内――エンジェルズシェアのテーブルの隅々を辿る。本日も盛況、樽のような杯に並々を酒を注ぎ豪快に飲み干す者もいれば、透き通ったワイングラスに数口程度注がれた酒の香りを楽しむ者、はたまたシンプルながらも洗練された肴に舌鼓を打つ者まで様々だ。
     グラスを一つ磨いては戻し、ワインの在庫を確認する。仕込みを終え提供されるのを待つ肴や食材の数々の余りもついでに確認して、客入りを見つつ残りの営業時間を思案した。問題なく今日という一日を終われそうだ。時折バーテンダーとして客層の様子を探るディルックが一つ安堵の吐息を吐いたのに合わせ、戸口のベルが涼やかにちりん、と鳴る。
    「やあ、ディルックの旦那。今日も客入りが良さそうで、何よりだな」
     ――戸口をくぐり、ディルックにふにゃりと笑いかけたのは、ガイアだった。
     ゆったりとしたマイペースさを崩さず、日頃から街中にて老若男女と朗らかに談笑し、時には流麗な太刀筋を空に煌めかせる男。それが今やどうだ、深く酒が入り込み、すっかり酩酊しきっているように見えた。無防備な笑顔を携えてほのかに朱に染まった頬を晒して歩けば、娘の一人や二人、優に篭絡できるに違いない。
    「酔いすぎじゃないのか」
    「はは、確かにそうかもしれん。ただもう少し飲みたくてな」
     着席するまでの数歩すら、ふらふらと覚束ない。泥酔したガイアの様子を見かねたディルックは、注文を訊くよりも先に、水で満たされたグラスをガイアの目の前に一つ置いた。それを瞠目して見やったガイアは、一拍置いてから不満げな表情を露わにする。
    「水に見えるが」
    「水だが」
    「酒をくれ。そうだなあ、葡萄酒がいい。我が家の逸品が飲みたい」
     にこにこと純朴な笑顔でこちらを見られると、どうにも無下にし難い。ディルックの眉根が僅かに寄った。
    「ノンアルコールなら出せる」
    「仕事してくれよ、バーテンダー」
    「……酔いどれはこれでも飲んでろ」
     ディルックが水のグラスに次いでカウンターに置いたのは、しゅわしゅわと泡立つ黄金色の果実水だった。折り重なった氷が、かろん、と音を立てる度に炭酸は楽し気に跳ね、ぱちぱちと弾けた炭酸の泡からはふわりと林檎の甘い香りが匂い立つ。酒類を多く取り扱うエンジェルズシェアの中でも、ソフトドリンクとして屈指の人気を誇る果実水。だが、ガイアはあからさまに不満の表情を浮かべる。
    「バーテンダー、オーダーミスだ。アップルサイダーは酒じゃない」
    「そうだな、だがへべれけにはいい刺激になるだろう」
    「……」
     ディルックは、にべもなくガイアの不満そうな声を退けた。普段ならいざ知らず、今の自分では口も上手く回らない自覚があるのか、ガイアはそのまま閉口し大人しくグラスに口を付ける。
    「……まあ、久しぶりに飲むのも悪くないか」
     ガイアの酩酊した目元が、僅かにすう、と細められる。酒を飲むか、変哲もない水や紅茶を口にするのが常のガイアの口には、アップルサイダーの甘みが殊更に強く感じられたのか。或いは、最後に寄り付いたのはいつかも思い出せないような家にでも郷愁の思いを抱いたのか。ディルックには判然としなかった。
    「……肴はサービスだ」
    「……なんだ? これ」
     ディルックがガイアの目の前に置いたのは、人差し指と親指でつまめてしまう程度の大きさの、三、四個の砂糖菓子が乗った小皿だった。よくよく見てみれば、砂糖菓子は愛らしい小さな白い花びら数枚で形作られた林檎の花のように見える。ガイアはそれを一つ摘み上げて、すん、と鼻を立てた。僅かにだが、林檎の甘酸っぱい匂いがした。
    「随分と可愛いものを作るな。昼間はスイーツの店にでもする気か?」
    「悪くない発想だ。実現したら、是非君にも宣伝をお願いしよう」
     つまんだ林檎の花びら達を、ガイアはころん、と口に転がした。ガイアが思ったよりも軽く、甘みも爽やかなそれは、口内でしゅわりと溶け、ほのかな林檎の香りとさらりとした甘みを残して消えていく。
    「……美味いな」
    「それはどうも」
     ガイアの素直な感想を聞いたディルックの声音は、砂糖菓子の甘みの様にやわらかかった。もう一粒の花びら達を口に含んだガイアは、ディルックに問いかける。
    「新しいお通しか何かか?」
    「こんな面倒なもの、特別な時にしか作らない」
    「…………ふうん」
     ディルックはそう何気なく答えながら、洗ったグラスに一つの曇りも残さないように気を遣いながら水気を拭う。
     曖昧な相槌を打ったガイアは、数秒じっとディルックの穏やかな赤の瞳を見つめてから、もう一つ砂糖菓子をつまんで口に放り込む。ガイアの脳裏に過ぎるのは、収穫の時期が訪れた農園にひしめく芳香、木箱に山と積まれた果実の甘い匂い。それから、祝い事の度に卓に並べられる洗練された色とりどりの菓子。祝い事、例えば、誰かの誕生日だとか。
    「酔いは醒めたか」
     少しだけ悪戯っぽい表情を浮かべたディルックが、揶揄う様にガイアに話しかける。
    「ん、……まあ、少しは」
     そんなディルックとは真逆に、店に入る前、少しだけ顔を強めに擦ってわざと頬を赤くしたガイアが気まずそうにアップルサイダーに口を付ける。
    「わざわざ酔った振りなどしなくても、祝いの言葉とささやかなプレゼントくらい用意する」
    「……何で……バレたんだ」
    「毎年同じ事をされればな。……誕生日、おめでとう。ガイア」
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    drsakosako

    TRAININGガイアアルベリヒ誕生日おめでとう
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     普段こそ静寂の色が濃い屋敷だったが、屋敷の主、そしてその家族だけでなく、使用人の誰かが誕生日の時には、決まって宴会を催したものだ。幼い未成年の子がいるからという理由で、卓の上に並ぶのは、芳醇な酒と旨味のある肴ではなく、甘い果実水と花を模した砂糖菓子が乗ったとろけるような菓子だけ。それでも大人達は皆笑顔で楽しそうにしていたし、また、自分の口に運ぶ果実水や菓子の甘さに、自らも、そして彼も、顔をほころばせていた事を覚えている。
     懐古するほど昔の話ではないはずなのに、その思い出達には昏い夕日のような色がかかっているような気がした。
    「……」
     ディルックの視線が、店内――エンジェルズシェアのテーブルの隅々を辿る。本日も盛況、樽のような杯に並々を酒を注ぎ豪快に飲み干す者もいれば、透き通ったワイングラスに数口程度注がれた酒の香りを楽しむ者、はたまたシンプルながらも洗練された肴に舌鼓を打つ者まで様々だ。
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