Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    とらのめ

    版権二次創作/相手固定左右固定

    pixiv→https://www.pixiv.net/users/12941637
    マシュマロ→https://marshmallow-qa.com/t0fwsssemd29ii6?t=NihBOp&utm_medium=url_text&utm_source=promotion

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🌸 🍎 💒 🍭
    POIPOI 25

    とらのめ

    ☆quiet follow

    ハルスグSS
    ハルト君の留学期間終了後、遠距離恋愛をしているハルスグの話。

    想いは伝えてこそ アカデミーの中間テストも終わり、開放感で校内全体が活気づく時期のある朝。着信を知らせるスマホロトムの呼び出し音で、ハルトはいつもより早めに目を覚ました。
     画面には、ブルーベリー学園にいるゼイユの名前が表示されている。タップして通話を開始すると、開口一番、なにやら焦ったゼイユの声がハルトの耳に飛び込んできた。 
    「ハルト、あんた今週末ヒマでしょ? ヒマよね?」
     ヒマだよという返事以外を許さない圧力を感じる。幸い、今週末の予定は空いているので、ハルトは「うん」と頷いて返事をした。ゼイユは明らかにホッとした様子だ。
    「最近スグがそわそわしてて、見てるこっちも落ち着かないから、たまには顔見せに来なさいよ。気の利くあたしが飛行機のチケット送っておいてあげたわよ」
     そう言うゼイユこそなんだかそわそわしてて様子が変だけど……?とハルトが指摘する前に、「いい? 絶対来なさいよ!」と念押しされて、通話は切れてしまった。
     何かあったのかな。首を傾げつつ、ハルトはロトムをねぎらって、ベッドから降りる。先週届いたスグリの手紙には、こっちはみんな変わりなく元気ですって書いてあったけど。
     手紙の返事は昨日投函したばかり。けれどハルトとしても、スグリやブルーベリー学園のみんなと久しぶりに会いたい。今週末なら、残り日数もそう多くはない。ハルトはとりあえず顔を洗って、今のうちに、荷造りを始めておくことにした。



     後日、ゼイユが言っていた通り、指定席のチケットが入った封筒が無事、ハルトのもとへ届けられた。一応ブルーベリー学園へ電話を入れてみたところ、ゼイユがあらかじめブライア先生経由で話を通してくれていたらしく、入校の許可もあっさりと下りた。
     そして、約束の週末。ハルトはそらとぶタクシーに乗って、すっかり通い慣れたパルデアの空港へ再び降り立つ。予約された席に乗り込んで、一路、イッシュ地方へ飛んだ。
     もう肩書きは元留学生なので、学園の最寄り駅付近のホテルに一泊二日で部屋をとる。ハルトも手持ちのポケモンたちも、弾丸旅行には慣れっこだ。必要以上に大きな手荷物は持たず、身軽な格好で、今度は海底を走る電車に乗って、海の中に浮かぶ学園にようやく到着した。
     時刻はまだ昼前で、週末のイッシュ本土へ羽を伸ばしに行っている生徒も多いのか、海上のエントランスにいる生徒たちの姿はまばらだ。太陽の下、どこまでも続く青い空と海の景色は記憶の中のものと寸分変わらず、波間を渡る爽やかな潮風が、キャモメたちの無邪気な声を乗せて気持ちよく吹き抜けていく。
     留学生だった頃から顔見知りの受付スタッフに通行証をもらってゲートをくぐり、学園内へ入ったハルトは、ひとまずゼイユに電話をかけてみた。……が、一向に繋がらない。メッセージを送ってみても、既読すらつかなかった。
    「取り込み中なのかな……?」
     スグリの所在も分からないので、とりあえずリーグ部の部室へ向かってみることにする。するとその道中で運良く、知っている顔に出会うことができた。
    「タロちゃん! 久しぶり!」
    「えっ、ハルトさん!?」
     廊下に設置してある自販機横のベンチに座ってスマホで何か見ていたタロは、弾かれるように顔を上げて、かなりびっくりしている。その声で、彼女の足元で寝ていたグランブルが目を覚まし、寝起きの両目を不思議そうにパチパチとさせた。この驚きようを見るに、ゼイユはハルトを招待することを周囲に話してはいなかったらしい。
    「どうしてここに? いつ着いたんです?」
    「ついさっきだよ。ゼイユが飛行機のチケットを送ってくれたから、遊びに来ちゃった」
    「なるほど……てっきり、またシアノ先生たちになにか無茶振りされちゃったのかと思いました」
     先生たち、今でもまだ何かあればハルトさんを頼る気満々なんですよと、タロは困った顔をしている。
     パルデアの大空洞の調査や、テラパゴスの件――無茶振りといえばそうなのかもしれないと、言われてみてハルトは今更思い至った。あの時はハルトたちもただ夢中で戦ったが、もしあのままテラパゴスの暴走を止められなければ、全員、地割れや落盤に巻き込まれていたかもしれない……なんて、今はうっかり口に出さないほうがよさそうな雰囲気だ。
    「ハルトさんも、イヤだと思ったらそう言わないとダメですよ。確かにハルトさんはとっても強いトレーナーですけど……だからって、難しいことをなんでも丸投げは良くないと思います!」
     両手でバツ印をつくるお馴染みのポーズも、なんだか懐かしい。学園の先生たちがトレーナーとしてのハルトの腕を信頼してくれることはもちろん嬉しいのだが、その一方でこうして、あまり無茶をするなとハルトたちの身を案じてくれる人たちがいるのも、また嬉しい話だ。「心配してくれてありがとう」と、ハルトは素直にタロへ感謝の気持ちを伝えた。
    「ところで、タロちゃん。ゼイユとスグリが今どこにいるか知らない? さっき学園に着いたときにゼイユに電話してみたんだけど、繋がらないんだ」
     タロの隣に腰を下ろし、お互いのかわいいポケモンたちを再会させつつ、ハルトは聞きたかったことを訊ねてみる。タロは顎に手を当てて、うーん、と暫し考える仕草をした。
    「ゼイユは今日はお休みのはずですけど、今どこにいるかは、わたしにもちょっと……。スグリくんのクラスは、たしか午前中だけ授業があるはずなので、今は教室にいると思いますよ」
     そこまで言って、タロはさりげなく、周囲をさっと見回した。近くに誰の姿も見当たらないことを確認すると、両手をメガホンの形にして口元に当て、実は、とひそひそ声を出す。
    「……あのふたり、最近またケンカしちゃったみたいで。ケンカといいますか、揉め事というか……なんだか、いつもとちょっと違う感じなんです」
    「え……その話、詳しく教えてくれる?」
     ハルトもつられてひそひそ声で聞き返す。タロが神妙な顔で頷いた。
    「何日か前……今週の初めごろからたまに、ゼイユがそわそわして気まずそうな感じで、スグリくんに話しかけてることがあって。スグリくんのほうも、その頃からちょっと元気がないみたいなんですよね」
     何かあったのかと訊ねても、なんでもない、と二人とも教えてくれず、はぐらかされてしまうのだという。
    「ハルトさんだから言っちゃいますけど、あのふたり、なんでもないって顔をするのがすっごく下手だと思うんです」
    「うん。分かる」
     そこがかわいいところでもあるんだけど。とハルトはつい言いたくなったが、ここは堪えて我慢しておく。
    「ですよね! ハルトさんは、何か心当たりありませんか?」
     タロはおそらく、ゼイユがハルトをわざわざ呼び出した理由と今回の件は関係があると見当をつけているのだろう。どこか確信めいた言い方だった。
    「うーん……まだ分からないことも多いけど、とにかく、ふたりと直接話してみるよ。ありがとう、タロちゃん」
    「いえいえ。じゃあこの件は、ハルトさんにお任せしちゃいますね。スグリくんたちと合流したいなら、受付の人にお願いして、校内放送で呼んでもらうのがいいと思いますよ」
     助言をもらったところでちょうど正午を告げるチャイムが鳴ったので、ハルトはさっそく行動を開始することにした。軽く挨拶をしてタロと別れ、エントランスへ引き返して、先ほど通行証を発行してもらった受付スタッフに事情を説明する。ゼイユとスグリを名指しで呼び出す校内放送を聞きながら、その場で暫し待った。
     ゼイユは現れず、送ったメッセージも未読のままだが、スグリは間もなくやって来た。自分を呼び出した客というのがハルトだと分かると、ぱっと表情を明るくして駆け寄ってくる。先ほどのタロの話を聞いて少し心配していたものの、元気そうな恋人の姿を見ることができて、ハルトもひとまず安堵した。また幾らか背が伸びたようだし、目の下に不健康なクマができている様子もない。 
    「わやじゃ、ハルト……! びっくりした! なんで居んの……!?」
     会いに行くことを手紙で予告しなかったので驚いているけれど、嬉しそうにしてくれている。ただ、ゼイユに呼ばれて来たんだとハルトが話すと、やはり、スグリの表情が少しだけ曇った。
    「えっ……ねーちゃんが……?」
    「うん。でも、着いたよってスマホで連絡しても反応がなくて……スグリ、お昼ご飯まだなら、食べながらちょっと話そうか?」
    「あっ、じゃあ俺の部屋、来る? サン……、ご飯の材料さ、買ってあるんだ」
     ハルトの手持ちの食いしん坊を呼び出しかねない単語を、スグリは慌てて言い換えた。来る?と誘う体で話しているが、そわそわと前髪を弄りながらハルトへ向けてくる眼差しは、期待の色と、ほんの僅かな不安の色で満ちている。来てほしい、という本音が分かりやすくうかがえる態度だ。
     スグリ本人はこう評されることにいまひとつ納得していない様子だけれど、本当に、かわいい。



     ハルトは座ってて、と何故か丁重に断られてハルトは調理に関わらせてもらえなかったが、スグリお手製の甘めのサンドウィッチは、恋人の贔屓目を抜きにしても美味しかった。
     ごちそうさま、とひと息ついてから、椅子を並べて隣に座るスグリへ、ハルトは話を切り出してみる。
    「最近なんだか元気がないって聞いたんだけど。ゼイユとケンカでもしたの?」
    「いや、ケンカってほどじゃ……いつものことだし……」
    「でも、スグリが落ち込んでること、僕もさっき見てわかったよ。いつもならゼイユと言い合いしたって、あんな風にしょんぼりした顔はしてないよね?」
    「うぅぅ……俺、そんな顔してた……?」
     図星を突かれたスグリは、分かりやすく視線を右往左往させている。
    「何があったか、教えてほしいな。スグリの力になりたいんだ」
     ハルトがそう言うと、スグリはハルトの顔を窺うようにちらりと見て、ぽつぽつと事情を話し出した。
    「……俺がハルトと付き合ってること、ねーちゃんにバレたって、手紙に書いたよな……?」
     ハルトはうんと頷く。実はスグリが言う手紙が届く前に、ゼイユからこっそり事実確認の電話が来て、なんで言わないのよ!言いなさいよ!と怒られたこともまだ記憶に新しい。そのときも姉弟間で軽く一悶着あったようだが、普段の気安いやりとりの範疇で丸く収まったと聞いている。もともと、仲の良い姉弟だ。
     スグリの話によると、どうも以前から浮いた話に興味津々だったゼイユは、弟に恋人ができたことを知って以来、時折これをネタに、スグリをからかってくるようになったのだという。今回の件も、それが原因だとかで。
     今から遡ること数日前――スマホロトムを持っていなくても手紙でハルトと頻繁に連絡を取りあい、その日も購買部でいそいそと便箋の束を買い足してきたスグリを見たゼイユが、いつもの調子で、
    「そんなに重いと嫌われるわよー?」
    「……! は、ハルトはそんなんで俺のこと嫌ったりしない……! ……っ、うう……! バカ! ねーちゃんのバカ!!」
     ……という具合で、うっかり弟の不安を煽ってしまったのが、事の発端だそうだ。
     げきりん、というか、ナンジャモがたまに言っている『ライン越え』というやつだろうか。ゼイユもまずいことを言ったと思ったのだろう、フォローしたいけどうまくいかなくて、困って自分を呼んだんだなと、ハルトはすべて合点がいった。ゼイユ風に言うならば、なんとかしなさい、ということだ。
    「ハルト……俺、重い……?」
     迷う様子を見せた末に、スグリがひどく不安そうな声を出した。ハルトを自室に呼んだのも、この質問をしたかったからという理由が大きいのだろう。
    「もし嫌だったら、直す。わがまま言わないようにする……だから……」
     ゼイユに怒ったときも、こんな風に、この世の終わりみたいな顔をしていたんだろうか。身を乗り出して懸命に言葉を重ねる恋人を見て、これは僕の責任でもあるなとハルトは痛感した。スグリも実は気にしていて不安だから、ゼイユの言葉に強く反発したのだろう。
     いま気がつくことができて良かった。自分を学園へ呼び出してくれたゼイユに感謝しつつ、ハルトはそっと、スグリの肩に手を置く。これから言葉に乗せる気持ちが正しく伝わるように正面から目を合わせ、怯えている恋人を怖がらせないよう、少し微笑んでみせた。
    「僕も恋愛するの初めてで、重いかどうかは、よくわからないけど。スグリの恋人になれて、君と手紙をやりとりしてて、嫌だなと思ったことはないよ。だいたい今みたいに、うれしいな、かわいいなぁって思ってることが多いかなぁ。僕、重いの好きなのかも」
     スグリの言動を愛しいと――あるいは時々心配に思うことはあるけれど、疎ましく思ったことなど一度もない。寝起きする場所が遠く離れても、好きな人が自分を想ってくれていて、その気持ちを一生懸命伝えてきてくれる幸せを、ハルトはずっと、毎日噛みしめている。
    「もし嫌なことがあったらそう言うし、僕は今のままのスグリが好き。スグリが言ったこと、ちゃんと合ってるから大丈夫だよ」
    「……うん」
     涙の粒をためた目尻にキスをして、大好き、と伝えると、ようやくスグリも洟をすすりながら「にへへ」と柔らかく笑ってくれた。
    「……ねーちゃんはからかっただけだって、最初から分かってたんだ。ねーちゃんも、あとになって、悪かったって謝ってくれたし……でも、本当にハルトの負担になってたらどうしようって……そう思ったら、怖くなって……。俺、ハルトに手紙送るの、我慢しようとしてた。けど……つらかった」
    「スグリの手紙が来ないと僕が寂しいから、我慢するのはやめてほしいな。スグリが伝えたいこと、たくさん手紙に書いて送って。僕もそうするから」
    「うん……! ……にへへ。ハルト、ありがとな!」
    「えへへ。どういたしまして!」
     やっぱり、スグリのこの笑顔が大好きだ。もっと堪能していたいけれど、今は彼の柔らかいほっぺを指でそっと撫でるだけにとどめた。恋人との逢瀬を楽しむより先に、ハルトにはひとつ、やっておかなければならないことがある。
     じゃあ、と立ち上がって、ハルトはスグリに向けて手を差し出した。
    「僕と一緒にゼイユを探して、話をしに行こう」
     ゼイユはきっと、スグリが元気を取り戻すまで、どこかに隠れているつもりなのだろう。
     僕を学園へ呼んでくれたお礼も言いたいし、スグリもゼイユのこと安心させてあげたいでしょ?……そんな風に誘うと、スグリはちょっとだけためらったものの頷いて、ハルトが差し出した手を握ってくれた。
     そうして、ふたりで手を繋いで、並んで歩き出す。「もう少しふたりっきりでいたかったな」と、隣を歩く恋人が小さく呟いたいじらしい願いは、もちろん後程、しっかり叶えることにする。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤💖💖💖💖💘💘💘😊😊😊😊😊😊🙏🙏👏👏👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    とらのめ

    DONE前作『想いは伝えてこそ』から地続きになっている続編です。ハルト君の交換留学期間が終わる直前→終わったあとのお話。前半はスグリ視点、後半はハルト視点。

    雰囲気バトル第二弾。捏造設定およびハルト君への独自解釈が強めに含まれています。
    ハルト君の手持ちはパッチ使用済で、宝食堂の特別メニューも食べているという設定です。
    太陽の裏側「マスカーニャ、行くよ!」

     バトルコートのあちこちに散乱した水飴の位置をハルトがナビゲートして、マスカーニャは水飴に足をとられることなく、華麗に舞うようにそれらをかわして接近してくる。
     カミツオロチが総勢で放つ本気のレーザーも、ギリギリまで引きつけてから頭上へ高くジャンプすることで回避された。
     雲一つない青空へ舞い上がるマスカーニャは、ちょうど中天にある真昼の太陽を背にしていて、見上げた瞳の底まで[[rb:灼 > や]]くような光に、スグリは両目を細める。けれども今日は、闘志が挫ける気がしなかった。
     ハルトがこの学園に来た日と逆で、今ではハルトがチャンピオンの座にいて、スグリのほうが挑戦者の立場だ。身の回りが落ち着いたらもう一度挑みに行くからなと、かつてハルトと約束をした、今日がその日。
    5804

    recommended works