蓄音機には奴の気に入りの音盤がセットされていた。さあ、踊りましょう!と奴本人がいつ言い出さずとも、それが既に物語っていた。
それを見て、諦め半分に肩を竦める。
「どうしておれを誘うんだ」
おまえひとりで舞ったところで、充分きれいだ。
奴はこちらとは反対に肩を怒らせたようだった。しかし直ぐに、こちらよりももっと落としたようだ。
「逆に訊きますけど」
呆れた様子だが、本気で疑問に思ってもいるようだ。
「一人で踊ることのなにが楽しいんですか?」
そんなのおまえ、踊り子に失礼だと思わないか?
思わないんだろうなあ。踊り子は職業だし、見ている観客の心は共に踊るのだろうから。
だから別の切り返しを手渡す。
「絵を描く時はおまえいつも一人で引き篭もってるだろうが。」
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