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    KiryuuAoi

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    サタイサ村☆イサミ生誕祭 第3弾

    恩花サタイサ 「花束」
    菊子さんから頂いたお題です

    ちなみに恩師×花屋で サタが高校生時代のイサの担任だった…と言う設定
    このお話では特に関係ないですが、サタ(複座軸の記憶持ち)×イサ(記憶なし)と言う設定になっています

    #サタイサ

    花束 コーヒーの良い香りをたっぷりと胸いっぱいに吸い込んで小さく息を吐く。
     今日一日働いて疲れた身体に、スプーン一杯程度の砂糖とたっぷりのミルクを入れたコーヒーの甘さが堪らなく心地良い。
     ぱちん、ぱちんと響くはさみの音もまた心地良かった。
     勇が一日の大半を過ごす作業台では、花束を作る為に不要な葉を切り落とす微かな音が静寂の中で響いている。
     だが、今、イサミはそこにはおらず、少し離れた場所でコーヒーを楽しんでいた。
     年に一度、八月三十一日の夜に閉店後の花屋の作業台を占領するのは、店主である勇ではなく勇のかつての恩師であり恋人でもある佐竹の姿だった。
     ぱちん、ぱちんと時折葉を切り落とす音が響くのを聞きながら、作業台の上の様子がぎりぎり見えず、けれど、佐竹の姿は見える場所に腰を降ろして彼が淹れてくれたコーヒーを飲む。
     はさみを入れる度にふわりと立ち上る緑の匂いに目を細めながら、コーヒーを飲む。年に一度だけ訪れるこの穏やかな時間が勇はとても好きだった。
     今夜、閉店間際にやってきた佐竹が買い上げたのは、紫の竜胆と、淡いピンクと白のカーネーション、そしてそれに合わせたカスミソウで、値段はしめて4120円。
     包装用の淡い緑の薄紙と鮮やかな真っ赤なリボンは元々サービスで好きな色を選んで貰っている。
    「……そう言えば、夕飯はどうするんですか?」
    「下拵えして来てるから、これが終わったら直ぐに用意してやるよ」
     毎年の恒例行事だから応えの言葉は想定していたが、それでも問い掛ければ想像通りの応えが返って来る。
    「今日は何を作ってくれるんですか?」
    「秘密。出来上がるまで楽しみにしてろ」
     かさ、と薄紙の擦れる音に、作業もそろそろ終わりを迎えるのだと理解して、ちらりとそちらへ視線を向ければ、鮮やかな赤いリボンがふわりと揺らぐのが見えた。
    「よし、出来た」
    「見ても良いですか?」
    「ああ、来い」
     ぱちん、とリボンを切り落とす音がした所で満足気な笑みを佐竹が浮かべるのをじっと見つめていると、言葉と視線の双方に招かれ、やや足早に歩み寄る。
     白い大きな作業机の上には、淡い緑の薄紙に包まれた花束が置かれていた。
     たっぷりの竜胆をぐるりとカスミソウが囲み、竜胆の合間に時折差し込まれるカーネーションがアクセントとなって文字通り花を添えている。
     派手さは無いが、大人びた品の良さがそこにはあった。
    「……本当に巧くなりましたね」
    「こうやって花束を作るのも、これでもう六回目だからな、少しは慣れるさ」
     小さく感嘆の溜息を吐いた勇に何処か誇らしげな笑みを浮かべる佐竹の横顔を見つめながら、勇は一番最初にこの男から貰った花束を思い出していた。
     二十歳の誕生日に、成人の祝いの意味も含めてそうして佐竹が初めて作ってくれた花束は、見た目こそは持ち前の美的センスでどうにかなってはいたが、包む事には慣れていなかったから抱え上げれば途端にばらりと崩れてしまった。
     あれから五年が経過し、積み上げた経験のおかげか、花束はそっと持ち上げても作業台の上に横たわっていた時と何ら変わらぬ綺麗な姿を保っていた。
    「中々良い出来だろう?」
     花屋に花を贈るなんて。
     そんな風に思う人も居るかもしれない。
     だが。こうして毎年佐竹が作ってくれる花束は勇にとって、他の誰がくれるどんなプレゼントよりも特別な意味を持っていた。
    「凄く綺麗です、これならうちの店で花束作り任せても大丈夫そうです」
    「ふうん? なら、定年になったらここでバイトで雇って貰うか」
    「……そうですね。先生なら安心して任せられそうです」
     冗談めかした言葉に返された応えに思わず息を飲む。
     佐竹が定年を迎えるまでにはあと二十年と少し時間が掛かる。
     短い様にも長い様にも思えるが、それだけの時間を、佐竹は当たり前の様に自分と過ごしてくれるつもりなのだ。
    「こら、二人の時にまで先生なんて他人行儀な言い方をするなって言ってるだろ」
    「……あ、済みません、何かやっぱり癖になってて……」
     すいと伸びた手がくしゃりと勇の前髪をかきあげ額に掠める様にキスが落とされる。そのくすぐったい感触に思わず目を細める。
    「……えっと、隆二さん」
    「ん。それで良い」
     じ、と真っ直ぐに見つめてくる佐竹の視線の圧力に負け、少し照れながらも求めるままに佐竹の名を呼べば、満足気に笑った佐竹がもう一度、今度は髪にキスを落として来るのがやはり少しくすぐったかった。
     二十歳の誕生日の夜、少し不格好な花束を渡されたあの夜から、目の前のこの人は勇にとって、特別な存在になった。
     それまでも彼が特別な存在であった事に変わりは無かったが、かつての恩師と言う関係に更にもう一つ、明確に恋人と言う関係が付け足された。
     あれから毎年、誕生日が来る度に佐竹はこうして店に来て花束を作ってくれる。どうしてなのかを聞いた事は無い。
     だが、自分が丹精込めて処理をして店に並べた花を、愛おし気に見つめながら花束を作ってくれる佐竹の真剣な横顔を見るのは好きだったし、そうして佐竹が丁寧に作ってくれた花束が部屋を彩るのを見つめていると酷く幸せな心地を覚えた。
    「さて、じゃあ次は夕飯の支度をするか」
    「手伝います」
    「駄目だ。今日はお前の誕生日なんだ。後は甘やかされてろ」
     花束を両手で包み込む様に抱え、勇が放置したマグカップを片手に居住スペースへと足を向ける佐竹を追えば、やんわりと窘める様な声が投げかけられる。
    「……と言うか、今年もまたこのやり取りをするのか? 良い子だから、大人しくご飯が出来るまでそこで座って待ってろ」
     苦笑交じりの言葉にそう言えば去年もまるきり同じやりとりをしたなと思いつつ、落ち着かない気持ちを誤魔化す様に作って貰ったばかりの花束をベッドサイドの黒いテーブルの上に置いた。
     竜胆もカーネーションも余り香りの強い花では無いから、眠りを妨げる事はないだろうし、むしろ、その姿を眺めながら眠りに落ちるのも悪くはないとそう思った。
     子供の頃から身の回りには必要最低限の物しか置かない性質の勇の部屋はいっそ殺風景な程に飾り気が無く、色とりどりの花に彩られた店舗とはまるきり異なった無機質な風景は何処か寂し気ですらあったが、毎年の様に佐竹が贈ってくれる花がこうして年々柔らかな温もりを広げていく。
     つん、と伸ばした指で竜胆の花に触れる。
     指にしっとりと吸い付く様な瑞々しさに頬を緩めながら、もう一度じっくりと花束を見つめる。
     去年のダリアの花束はピンクや黄色や白やオレンジと言った様々な色を組み合わせた華やかな物だったが、今年は何処か物静かな大人の色気を纏っている。
     佐竹から受け取った花束はこれで六個目になるが、そのどれもが異なった雰囲気を纏っていて、その変化は何時だって勇を楽しませてくれる。
     もう一度つん、と竜胆の花に触れ、さて今年はこの花束をどうしようと思案する。
     去年のダリアはプリザーブドフラワーに加工してテレビ台の下のスペースを飾っているし、一昨年に贈られた小振りな薔薇の花束はポプリになって玄関でほんのりと甘い香りを放っている。
     一番最初の年に貰った花束が枯れてしまった時、酷く物哀しい様な気持ちになってしまったから、佐竹がくれた花を少しでも長く傍に置いておきたくて様々な加工方法を覚えた。
     それらは花屋を営む上でも十分に役立ってくれたから、全くもって佐竹が勇へと与えてくれた物と言うのは本当に抱えきれない程に大きい物だと思う。
     ちらりとキッチンへと視線を向ければ、鼻歌交じりに作業をする佐竹の背中が見えた。
     そのまま手伝いに向かってしまいそうになる足を無理矢理に反対側へと向け、佐竹が持ち込んだペアの座椅子に腰を降ろすと、テーブルの上に運んでくれていたらしい飲みかけのコーヒーのカップの中身をゆっくりと呑み干す。
     ことんと音を立ててカップをテーブルに置くと、不意にふわりと甘い香りが鼻腔を擽る。
     何の匂いだろうと探る様に目を細めると、先程よりもよりはっきりと聞こえる様になった鼻歌に思わず耳を澄ませる。
     それが佐竹と付き合い始めたばかりの頃に彼の車の中で良く聞いた歌だと気付いた時には、思わず勇もその歌を口ずさんでいた。
    「ご機嫌だな」
    「そうですね」
     かたんと小さく音を立てて皿がテーブルに置かれてはじめて勇は佐竹が直ぐ傍らまで来ていた事に気付いた。
     佐竹の言葉の通り、まさしく浮かれていると少し呆れつつ、けれど勇は誕生日くらい浮かれても良いかと開き直る。
    「隆二さんが甘やかしてくれるって言うから、思い切り甘えてみようかと思って」
    「……ああ、存分に甘えろ」
     くしゃりと髪を撫でる大きな手は温かくて優しくて、心地良さに思わず目を細めていると掠める様に額にキスが落とされるのが、やはり堪らなく心地良かった。


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