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    しゃんしゃん

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    しゃんしゃん

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    霊感が強いフリード博士の話。
    博士愛され&ジオフリよりになります。
    なんちゃってホラー。
    なんでも読みたい人向け。

    「「「フリード!!」」」

    プツンと意識が途切れる前。
    リコ、ロイ、ドットの。子供達の切羽詰まった叫び声が聞こえた。

    ***

    ルシアスの六英雄の情報を追い求め、ライジングボルテッカーズのリコ、ロイ、ドットはリーダーであるフリードに連れられてとある町の中を散策していた。

    「今日もいい天気だね!」
    「うん。晴れてよかった」

    他愛のない会話を繰り広げながら途中見つけた不気味な森の中を進んでいくと、何やら古い廃墟を見つけた。洋館だろうか?木造建てでところどころ黒く、焼け焦げたような跡があり、ボロボロで亀裂には植物が生い茂っている。

    ロイがなんだこれ?と不思議そうにその洋館を見つめていると、足元にいるホゲータがその洋館の入口にかけてあった縄に引っかかり、ホンゲ〜!と叫んで勢いよく敷地内へ転けてしまった。

    「わ!?ちょ、ホゲータ大丈夫!?」
    「ホンゲェ……」

    きゅう、と目を回して倒れているホゲータを走って駆けつけたロイが抱き起こしたその時。ぞくりとフリードは強い寒気を感じた。

    「ロイ!ホゲータ!早くそこから離れろ!」
    「え?」
    「ホンゲ?」

    「ロイ!」
    「ホゲータ!!」

    ばん!と勢いよく洋館の扉が開いて、ぶわりとたくさんの人の手のようなものがロイとホゲータを捕まえようと伸びてきた。その手は通常の肌色ではなく黒く塗りつぶされていて、影のようになっていた。

    「ぐ……っ!」
    「フリード!?」

    一番近かったフリードが咄嗟に飛び出して、その手とロイの間に割って入る。黒い手はフリードの足をしっかりと掴むと、ずり、ずり、と強い力で洋館の中へと引き込もうとする。

    「ニャローテ!マジカルリーフ!」
    「クワッス、みずでっぽう!」
    「ニャウ!」
    「クワー!!」

    リコとドットがフリードを助けようと試みるが、ポケモンたちの攻撃は効かない。フリードはもう体の半分をその洋館に飲み込まれていた。ロイがフリードの手を慌てて掴んでホゲータがロイを支えるようにして足にしがみついた。

    「く……っ、ロイ!手を離せ!このままじゃお前まで引きずり込まれちまう!」
    「嫌だ!!フリードも一緒じゃなきゃやだ!!」
    「ホ、ンゲ!」

    ぐっと力を込めてその手を握るロイと、ロイを支えるホゲータを見て、フリードはふっと微笑んだ。

    「俺なら大丈夫、必ずみんなの所へ戻る!こういうことには慣れてるから……お前達は船に戻って、この洋館のことを調べてくれ」
    「やだ……!やだよフリード!」

    リコが声を震わせながらそう言うと、必死になってロイに加担する。ドットはフリードの言葉に少し不思議そうにしていたが、ドットも手伝ってとリコに言われて慌てて助けに加わった。

    だが影の引っ張る力がとても強く、為す術なくこれでは全員この中へと引きずり込まれてしまう。

    そう思ったフリードの判断は早かった。

    自分の体はもう半分以上引きずり込まれている。自分の手を必死になって掴んでいるロイの手が扉にさしかかろうとする一歩手前で、ロイの手を思い切り引き剥がした。

    「みんな、すまないーー」
    「「「フリード!!」」」

    子供たちの切羽詰まった叫び声を聞いて。ばん!と扉が勢いよく閉まる。だんだんと気が遠くなり、フリードはふ、と。意識を手放すのであった。

    ***

    声が聞こえる。幼い子供の声だ。
    リコ、ロイ、ドットと同じくらいか、それよりも少し幼いくらいだろうか?幸せそうな笑い声。この洋館で父と母。大好きな家族に囲まれて、幸せそうにしていた。

    ***

    フリードが目を覚ますと、見慣れた紫色が目に飛び込んできた。それに思わずがばりと飛び起きぱちぱちと瞬きをして、もしかして幽霊ではないかと再度彼を見つめる。敵対組織に所属している彼は相変わらず、涼しい顔をしていた。

    「目が覚めたか」
    「……アメジオ?」

    え、なんでお前ここにいんの?もしかして住んでる?というフリードにアメジオはそんなわけあるかとツッコミを入れつつため息を吐いた。

    「お前と同じでこの辺りを調べていた際黒い手に引きずり込まれた。ここはどこだ?」
    「俺にもさっぱりだ。だが、ここは現実の世界ではなく異空間の可能性が高いな」
    「異空間……?」

    アメジオは何言っているんだこいつといった目でじっとフリードを見つめる。それを見てフリードはあ〜、と苦笑した。これは1から全部説明する必要があると。そして強くずきんと頭が痛む。ふとアメジオを見るといつの間にかアメジオの後ろに、斧を持った人影がいた。

    「なあアメジオ。幽霊とかって信じるか?」
    「……、そういう類のものは実際に目にしないとわからん」
    「お前ならそういうと思った。なら後ろを振り返ってみろ。説明は逃げながらする」
    「は、……?ーーっ!!」

    フリードは思い切りアメジオの腕をぐん、と引っ張って引き寄せると、先程アメジオが居た場所に向かって斧が振り下ろされていた。バキッと床が砕ける音が聞こえ、アメジオは後ろを振り返る。斧を振り下ろしていた人影が目に入るとサア、と血の気が引いていくのを感じた。

    「走れ!!」
    「言われなくても!」

    フリードは脱兎のごとく駆け出した。それにアメジオも続き、共に館内を走り、隠れられそうな場所を探す。追ってこないということは、恐らくそこに縛られて動けない幽霊なのだろうか?フリードはそう考えながら辺りを見渡し、手当り次第開いている部屋へアメジオと共に駆け込んだ。

    人影はじっと逃げ惑う彼らを下から見つめた後、ぼう、と再び姿を消すのであった。

    ***

    「フリード…!」

    フリードが洋館の中へ引きずり込まれた後、扉はすぐに閉まり、辺りは静かになった。

    ロイはそれから何度も中に入ろうと試みたが扉はびくとも動かず、開けることは不可能であった。これでは助けたくても助けられない。外からは開けれないような仕組みにでもなっているのだというのか?そんな扉なんてあるわけがない。

    「リコ、ロイ。ちょっといい?」

    フリードを助けられなかった悔しさからぽたぽたと涙を流すロイと、それを慰めるようにしてロイの背中を摩るリコに、ドットが声をかけた。

    「僕はこれからこの洋館のこと、船に戻ってフリードに言われた通り調べようと思うんだ。何かわかれば、閉じ込められたフリードをきっと助けられるかもしれない」
    「……そうだね。船のみんなにも事情を説明しないと」

    きっとみんなも心配する。ドットの言葉にリコは頷き、リコの言葉にドットも頷いた。だがロイは洋館の玄関先で蹲ったまま、じっと動かない。

    「……、僕はここにいる」
    「ホンゲ〜…」

    フリードが目の前で。自分を庇って得体の知れないものに連れてかれたのが余程ショックだったのだろう。リコはそっと、ロイの前に手を差し伸べた。

    「ロイ、フリードは必ず助ける。だから、一旦船に戻ろう?」
    「でも……っ僕のせいで……!僕がここをみつけたから……!」
    「ロイ、これはロイのせいじゃない。だからそう自分を責めないで。僕らは僕らのやるべきことをやろう」
    「……、うん」

    リコとドットから差し伸べられた手を、ロイはぎゅっと掴んで立ち上がる。そして洋館を見て必ず助けるからと決意をし、子供たちは一旦ブレイブアサギ号へと戻るのであった。

    ***

    「アメジオ……大丈夫か?」
    「問題無い。フリードこそ大丈夫か?酷い顔色をしている」

    逃げ込んだ部屋の扉を閉めて鍵をかけ、フリードはずるずると扉に背を預けしゃがみこむ。
    それにアメジオは思わず駆け寄った。

    どうもこの洋館に立ち込められている邪気にあてられており、フリードは正直のところ、立っているのがやっとの状態であった。

    「ここの空気が、最悪で……気持ち悪い……」
    「そうなのか?俺は別に普通だが……それよりも先程のあれはなんだ」
    「悪霊だよ。言ったろ?幽霊を信じるかってな」
    「俺には霊感等ないはずなのだが……?」
    「きっとここにいるからだな。ここは奴らの巣窟だから。ああ、やっぱりな。スマホロトムも通じない……」

    懐に入れているスマホロトムの画面を見ればNO SIGNALの文字があった。持ってきていたリザードンのモンスターボールも開くことは無い。アメジオも試しにソウブレイズを出そうとしたが、ボタンを押してもボールが大きくなることはなく、出すことは不可能であった。

    仲間との連絡手段も遮断されてしまったこの空間でどうやって生き延びようかとフリードはひたすら頭の中で考えていた。

    「随分とこういうことに慣れているようだが、フリードは日頃からああいうものが見えているのか?」
    「まあな。生まれつき霊感が強くて。色々と巻き込まれてるうちに嫌でも慣れた。見たくないものまで見ちまうから最初の頃はグロッキー状態だったけど」

    首がもげてるやつとか、めんたま飛び出してるやつとか。見せられないモザイク必須なR18Gが日常的に飛び込んでくるのだ。この歳になっても気持ち悪いもんは気持ち悪いしなと言って苦笑するフリードにアメジオは眉を寄せた。

    「ところでアメジオ。お前、見たところホイホイ体質みたいだけど、今までよく無事だったな?」
    「ほいほ…?なんのことだ」
    「こういうの引き寄せやすい体質っていうんだけど……今までにこういう危なっかしい体験はしたことあるか?」
    「……、子供の頃一度だけ行方不明事件があったらしいが、全くもって覚えていない」

    すぐ保護されたとアメジオが言うとフリードはそうかと言いほう、と息を吐く。そしてふと。アメジオが身につけているループタイから、何やら不思議な気配を感じた。あたたかくて、ぽかぽかして。心地いい気が伝わってくる。強力な結界が張られているのがわかった。きっとそれが、アメジオを守ってくれていたのだろう。

    ばん、ばんと扉が突然大きな音を立てた。
    フリードとアメジオはびくりと体を震わせ、慌てて扉から距離をとる。ガチャガチャとドアノブが今にも壊されそうなくらいに動いていた。ここをこじ開けようとしているのだろう。

    「アメジオ。そのループタイ、絶対無くすなよ」
    「は?」
    「お守りみたいなものだからな、肌身離さずもっとけ」
    「……、わかった。扉の前に何かいるようだが…どうする?」
    「とりあえずお前は下がってろ。正面突破する」

    危険だと言うアメジオに向かってふっと微笑み、フリードはぐっと拳を構える。
    その拳からあたたかな光が溢れ、アメジオはぎょっと目を丸くしてフリードを見つめた。

    扉が開かれたその瞬間、黒く塗りつぶされた人影が大きく口を開けて、今にも自分を飲み込もうとしていた。フリードは床を強く蹴って、目の前にいた悪霊に向けて光を放つ。

    「ーーーーー!!!」

    悪霊の断末魔が館内に響き渡る。そしてやがて静かになった。扉の先にいたであろう悪霊の姿はどこにもない。アメジオは暫し固まったまま動かないフリードに声をかけた。

    「フリード、今のは……「場所を移そう。ここは危ない」あ、ああ……」

    アメジオはぱちぱちと瞬きをし、気のせいかと心の中で静かに思う。フリードの美しい金色の瞳が薄暗い洋館の中で一際強く輝いて見えた。

    一旦船に戻ったリコ、ロイ、ドットはフリードが謎の洋館に引きずり込まれた経緯をマードック、オリオ、モリー、ランドウに話した。

    「扉が開いたと思ったら無数の手が伸びてきて、僕とホゲータを庇ってフリードがそれに捕まっちゃったんだ」
    「そうか……大変だったな。とりあえずお前たちだけでも無事でよかった」

    マードックがぽん、とロイの肩に手を置いてそう言うと、ロイはぐじ、と涙目になって横に首を振った。

    「僕があの洋館を見つけなかったら、こんなことにはならなかったのに……」
    「ロイ、さっきも言ったけどロイのせいじゃない。たまたまあの洋館が心霊スポットだった、それだけのことだよ」
    「心霊スポット?」

    ドットがん、とスマホロトムの画面を見えるように見せると、覗き込んだリコはぎょっと目を見開き驚いた。

    「調べたらすぐ出てきた。どうやらこの洋館はオカルト界隈では有明らしい」
    「火事で一家全滅、放火か……」
    「それで館が全体的に黒かったんだね」

    当時まだ幼かった子供も亡くなったらしい。可哀想に、とリコは思った。現場は酷く燃えて、跡形もなく墨となったらしい。現在は跡地となって何も無いそうだ。けれど、自分たちが見たあの洋館は黒かったが綺麗に形が残っていた。あきらかにおかしい。

    「ねえ、オリオ。フリードってさ、もしかして霊感ある?」
    「……、どうしてそう思ったの?」
    「フリードが洋館に飲み込まれる前に言ってたんだ。こういうことには慣れてるからって」
    「そっかぁ……」

    ドットの質問に、オリオは頷いた。
    そして、フリードの苦悩を思い出す。

    「あいつにはね、強い霊感があるんだ。そのせいでいつも悩まされてる」
    「そうなのか?」
    「うん。よく顔真っ青にさせて、ところどころ怪我したりね。大丈夫?って聞いてもなんでもないの一点張り。でもみるみる顔色が悪くなっていくから、絶対に大丈夫じゃないって私が問い詰めて、そういう体質なんだってようやく話してくれたんだよ」

    きっと言っても誰にも信じてもらえなかったんだろうねとオリオは言った。自分は本当のことを話しているだけなのに、信じて貰えないのはつらい。それに嘘つきだと気味悪がられて、フリードはいつもひとりだった。

    「あいつが無事に帰ってきたら、おかえりって言って、抱きしめてやらないとな」
    「うん、そうだね」

    マードックの言葉にモリーは強く頷いた。ランドウも。それにオリオはふっと微笑む。いい仲間を持ったなとオリオは改めて思った。ロイはごしごしと目元を乱暴に擦って、ぐっと顔を上げて真剣な表情をする。

    「僕、フリードが戻ってきたら絶対言うんだ。ひとりじゃないよって」

    フリードのこと助けたい。絶対に。そういうロイに、リコとドットは頷いた。

    「フリードがいなくなったことって昔にもあった?」
    「そうだね、何回かあったよ。けどいつも人知れずに帰ってきてた。だから今回もきっと、ふらっと戻ってくるんじゃないかなって思ってるんだけど……」

    子供たちの話を聞く限り、やばそうな場所だと思う。オリオは内心フリードのことがとても心配であった。

    「こういうことに関して僕たちにできることは、ただひとつ。フリードを信じて待つこと」
    「え、それって……」

    何も出来ない、ってこと!?とロイは叫んだ。ドットはそれにうん、と頷く。

    「無闇矢鱈にネットで調べた除霊方法を試して洋館にいる霊を刺激して、中にいるフリードに何かあったら危険だ」
    「……っ、うん。わかった!」

    ロイは何か言いたげであったが、ドットの言葉に素直に頷いた。もう既に大変な目にあっているフリードが、自分達のせいで更に大変な思いをするのは嫌である。

    「リコ、ロイ、ドット。もう一度現場に戻るなら、救急箱と毛布、水と食料もっていきな」
    「!」

    そう言うモリーにリコ達はハッと顔を上げてみると、モリーはふっと柔らかく微笑んでいた。マードックとランドウ、オリオも皆それぞれ同じ表情をしている。

    「本当は俺達も一緒に行ってやりたいが、船の見張りもあるからな…リーダーを頼んだぞ」
    「フリードのこと、お願いね」

    「これはお守りじゃ。きっと役に立つじゃろう」
    「ありがとう、おじいちゃん!」

    ランドウから小さな巾着袋をもらい、子供たちは顔を見合せて力強く頷いた。万全な装備をして、再びフリードが飲み込まれた洋館へと足を進めるのであった。

    ***

    「フリード、大丈夫か?」
    「……ッ、なん、とかなぁ……」

    安全そうな部屋に身を隠し、アメジオはしんどそうに息を吐くフリードに向かって声をかけた。フリードは顔面蒼白で、褐色の肌でもはっきりとわかるくらいに疲労しきっている。

    「少し横になった方がいい」
    「いや、大丈夫……少し休んだら治るから。それよりも早くここから出ねぇと……」

    ほう、と息を整え、フリードは辺りを見渡した。本棚のようなものがずらりと並んでいる。どうやらここは書斎らしい。だがここにある本はほとんど全て焼け焦げてしまっている。
    脱出の手がかりになるようなものは、この館にはもうほとんど残っていなさそうだ。

    「ーー、ッ、フリード!」
    「!」

    気が付かなかった。フリードはアメジオに声をかけられ前を向くと、そこには幼い少女の幽霊がいた。だが少女は今まで出会った幽霊とは違い黒塗りされておらず、普通に生きているかのようにそこにいた。けれどよく見ると透けていて、足がない。

    『おにいちゃんたち、みかけないかお。どこからきたの?』
    「……、この館の外から来たよ」

    少女の幽霊と会話をしだすフリードを、アメジオは静かに見守る。

    『おそと!いいなぁ、ね、ね!あそんで!』
    「ごめんなぁ。お兄ちゃんたち帰らないといけないんだ。出口教えてくんね?」
    『出口?そんなものここにはないよ?』

    ね!それよりもあそんで〜!とてもとてもたいくつしてたの!そう言って無邪気に笑う少女に、フリードは直感でやばいと感じた。
    だが体が思うように動かない。
    しまった、金縛りだろうか。

    急にぴしりと固まったフリードを、アメジオは怪訝そうに見つめる。

    「フリード?おい、どうし『おにいちゃんのそのおめめきれいね!ね、わたしにちょうだい?』

    アメジオの言葉を渡りずいっと少女が近づいてくる。ガンガンと頭が痛い。酷い寒気がする。寒い、熱い、熱い?
    なぜ自分は熱いと思ったのだろうか?途端、目の前が火に包まれた。何もかも焼けて、赤黒い炎が現れた。辺りに黒煙が充満する。

    「……ッ、ゴホッ」
    「フリード!!」

    少女の手が咳き込むフリードの目元に触れようとしたのを、アメジオは見逃さなかった。
    意を決して少女に向かって拳を繰り出すが当たった感覚はなく、少女は一旦ぼう、と消える。その隙に急いで動けないフリードを何とか抱き上げ力強く床を蹴り猛スピードで駆け抜けた。

    強い寒気を感じながらもアメジオは何とか無事に少女に捕まることなく書斎を後にすることが出来たのだが、この館にはおそらくきっと、安全な場所はない。

    そしてもうひとつ、フリードを抱き抱えた時に気がついたことがある。彼の体はかなり冷えきっていた。ぐったりとしているフリードを休ませたいがゆっくり休める場所もなく、かなり絶望的である。

    くそ、とひとり。アメジオはこの絶体絶命の状況に対し、静かにそう吐き捨てるのであった。

    ***

    先程感じていた寒気が嘘のようにどこかへ消え去って、陽だまりのような温かさにフリードは包まれていた。暖かくて、ほわほわして、心から安心できる。それは酷く心地よかった。

    「げほ、ごほ……ッ、は……?」
    「動くな、じっとしてろ」

    どうやら自分は意識を飛ばしていたらしい。軽く咳き込み目を開くと、近くにアメジオの顔がドアップで視界に入り込んできた。アメジオの美しく整った顔がこうも至近距離にあるのは心臓に悪い。フリードは目を見開き驚いて、思わずきゃあ、と甲高い悲鳴を叫びそうになったのを何とかこらえた。

    「あ、アアア、アメジオ!?」
    「うるさい、騒ぐな。お前の体が随分と冷えきっていたから、体温の共有をしていただけだ」

    フリードはアメジオに抱きしめられていた。細い腕だがその強さは紛れもなく男の力そのもので、とてもしっかりしている。彼のループタイが、きらきらと紫色に輝いていた。心地いい気が込められて結界がうっすらとアメジオ諸共自分も包み込んでいる。この絶望的な場面でも妙に安心できたのはきっとこのループタイとアメジオの意外と高めな体温のおかげだろう。

    「ここは……」
    「どうやら大広間のようだな」

    黒く焦げた肖像画。大きなテーブルだった木の破片。壊れたシャンデリア。どうやらこの肖像画はこの館に住んでいたであろう家族が描かれているようであった。

    父と、母と、娘。先程の少女はこの子できっと間違いないだろう。それと、ここに来る時に夢で見たあの幸せそうな家族は……。

    「フリード、何か知っているのか?」
    「ここに来る時に、夢で見たんだ。幸せそうな家族の夢。大好きな両親に囲まれて、女の子がひとり笑ってた」
    「……それが何らかの事件があって、こんなことになってしまったと」

    その可能性が高いなとフリードはアメジオの言葉に頷く。

    「これは俺の推測だが……恐らくあの少女が、ここで一番強い力を持ってるんだと思う」
    「まだ子供だぞ?そんなこと有り得るのか」
    「十分有り得る話だ。それに……」

    フリードは少女から現れたあの炎を思い出した。あの熱気は本物で、まるで自分が炎に焼かれているかのような感覚に包まれた。

    「追、体験……?」
    「フリード?」

    なぜ少女は自分に死に際の記憶を見せたのだろうか。何らかの意図があるのか、無意識なのかはわからない。

    そしてふと、再びズキンと頭が強く傷んだ。フリードはう、と呻き声を上げ、アメジオを見る。アメジオの背後に先程の少女がぼんやりと写っていた。少女はニヤリと不敵に微笑んで、アメジオのつけてるループタイへ手を伸ばす。

    「アメジオ!」
    「は……ッ!」

    少女が紐を掴むと、ループタイに張られている結界に亀裂が入った。これはまずい。ここでもしこのループタイがちぎられでもしたら、アメジオが危ない。

    『おにいちゃんのこれ、とてもきらきらしててきれー!ね、わたしにちょうだい?』
    「〜〜っ!!」

    ぐん、と強い力で紐が引っ張られ、首が閉まり、呼吸が出来ずアメジオは苦しそうに顔を歪めた。それを見たフリードはぐっと拳を作り、ぽう、とあたたかな光を灯す。そしてその光を少女に向けて光を放つが、少女はそれをひらりと華麗に躱してみせて、更にキラキラと目を輝かせた。少女から開放されたアメジオはその場に蹲り、ごほごほと咳き込む。

    「お嬢さんはとんだほしがりさんだな」
    『おにいちゃんすごいね!おててひかってる!』

    きゃあきゃあとはしゃぐ少女に、フリードはほう、とため息を吐いた。嫌な汗が頬を伝う。少女は微笑みながら、じっとフリードを見つめていた。

    「もしかして…この家に火をつけたのは……」
    『あ、わかっちゃった?』
    「どうして、こんなことをーー」

    幸せそうにしていたじゃないかというフリードの問に、少女は突然すん、と真顔になった。そして顔を俯かせ、ニヤリと不敵に微笑む。びしびしと少女から発せられる強い殺気が、フリードを襲った。

    『パパもママもね、だいすきなの。でもふたりはおしごとばかり。わたし、さみしかったの』
    「……!」
    『だからみんなねてるあいだにひをつけたの。そうすれば、いっしょにいられるでしょ?』
    「……っ」

    なんてことを、とフリードは思った。
    だがフリードは少女を責めるということはしなかった。自分もその気持ちは痛いほどよくわかるから。けれど、少女のしたことは決して、正しいとはいえない。

    「そうか……とても寂しいっていう気持ちが、君をそうさせてしまったんだな……」
    『おにいちゃん?』
    「あのな?君はいけないことをしてしまったんだ。何がなんであろうと、命を奪うということはいけないことなんだよ」

    フリードはそっと少女の前にしゃがみこむ。
    アメジオは何とか息を整えて、その様子を静かに見守っていた。少女の瞳が、一瞬揺らめいた。

    『わたし、まちがってたの?』
    「うん。だから、パパとママにちゃんとごめんなさいしよう」
    『でも、ふたりはわたしにごめんなさいなんてしなかったよ』
    「大丈夫だ。話せばきっとわかってくれる」
    『いけないこと、したのに?』

    ぼろ、と少女の瞳から溢れ出す涙を、フリードはそっと人差し指で拭ってやる。その姿があまりにも綺麗で美しく、アメジオは思わず見惚れていた。

    「親っていうもんはな?子供にはめっぽう甘いものなんだよ」

    すう、と少女の幽霊の後ろから、両親と思われる霊が現れた。斧を持って襲ってきた幽霊と、丸呑みしようとしてきた幽霊。ふたりの正体はこの幼い少女の両親であった。気がつけば黒塗りではなく本来の姿になっていて。斧が手のひらから落ち、カラン、と音が鳴り響く。

    『お前の気持ちに気付いてあげられなかった。私は親失格だな…』
    『ごめんなさい、辛い思いをさせてしまって…ごめん、ごめんね』

    ぎゅう、と両親に抱きしめられ、少女はぼろぼろと涙を流した。そして大きな声でわんわんと泣いて、ごめんなさい、ごめんなさいと少女は何度も何度も両親へ謝る。

    『私たちはもう逝くよ。この子も一緒に連れて。巻き込んでしまってすまなかった』
    『出口はあそこよ。急がないと閉ざされてしまうわ』
    『おにいちゃんたち、ごめんなさい。そしてありがとう』

    ぽう、と光を灯して彼らは消えていく。するとドン、と大きく揺れて、空間に光が差し込んだ。

    「終わった、のか…?」
    「ああ……」
    「フリード?」

    ぐらり、とフリードの体が突然傾いた。アメジオが慌てて地に伏したフリードへ駆け寄る。

    「フリード!!」

    フリードの体はとても冷えきっていて、いつの間にとアメジオは思った。先程自身の体温で温めていたはずだが。フリードが使っていた不思議な力は、とても体に不可がかかるものなのだろうか。出口はすぐそこにあるというのに。

    「……っ、アメジオ、先に、いけ……」
    「こんな状態のお前をひとりになどしておけるものか!」

    アメジオはゆっくりとフリードの体を支えた。
    フリードはほう、と息を吐く。フリードはこの力のせいで体力を消耗しきっており、もう指1本動かせない状態であった。

    「はやく、しない、と。とじちまう、だろうが」
    「うるさい。一緒に」

    アメジオはそっとフリードへ手を伸ばす。フリードは動けない自分が足でまといになると思いその手をとるのを躊躇ったが、真っ直ぐこちらを見つめるアメジオの紫色の瞳に射抜かれ、そっと、その手をとり、歩き出す。

    「「「フリード!!」」」

    光の先からリコ、ロイ、ドットの。子供たちの声が響いた。繋がっている。外の世界へ。

    「フリード、帰ろう」
    「ああーーーー」

    光がだんだんと細くなっていく。完全に閉ざされる前に、ふたりはその光の中へと思い切り飛び込んだ。

    ***

    「ね、ね!ちょっと!じっちゃんからもらったお守り、それ光ってない!?」
    「わ!?ほんとだ!!」
    「一体何がどうなって……!?」

    フリードが謎の洋館に飲み込まれてからおよそ2日たとうとしていた時、リコがランドウから受け取ったお守りが強く光輝いた。

    あれからリコたちは洋館の前にテントをはってフリードが帰ってくるまでずっと待っていたのだ。フリードの相棒であるキャップも船から降りて、こどもたちと一緒にキャンプをして待機している。何も出来ないことが歯がゆかったが、無事にフリードが帰ってきますようにと、みんなでいつも祈っていた。

    「ちょ…!みんな、あれ見て!」
    「わ!?」
    「フリード!!え、アメジオ!?」
    「ピカ!?」

    お守りの光が消えたと思えば、バン!と洋館の玄関が勢いよく開いて、フリードとアメジオが吐き出されるようにして出てきた。一体なぜアメジオまでここにいるのだろうかと本気で疑問に思ったのだが、考え事をしているうちにガラガラと洋館が音を立てて崩れ始めた。このままではふたりは瓦礫の下敷きになってしまう。

    「みんな、急いでふたりをテントへ!」
    「うん!!」
    「わかった!!」

    アメジオは敵対組織に所属しているが、見捨てるほど落ちぶれちゃいない。リコとドットでフリードを、ロイはアメジオを何とか運び、事なきことを得たのであった。

    ***

    「………、ここ、は……」

    目が覚めると、ブレイブアサギ号にある自室のベッドの上であった。フリードはぼんやりと天井を見つめていると、ぬっ、と視界に呆れた顔をしたキャプテンピカチュウが現れた。

    「ピーカチュウ」
    「きゃっぷ……??」

    そっと手をキャップの頬へ持っていくと、キャップは何も言わずにすり、とその手へ擦り寄った。余程心配をかけたみたいだとフリードは思いながら、無事に帰ってこれたことにほう、と息を吐く。

    「あ!フリード起きてる!」
    「大丈夫?」

    リコとドット、ロイが部屋に入ってきた。
    ロイは目に涙を浮かべ、ぼろぼろと大粒の雨を降らしている。

    「ぶ、無事で、よがっだああああああ」

    うわあああああんと泣いて抱きついてくるロイに、フリードは苦笑しながらもぎゅっと小さな体を抱きしめてよしよしと背中を摩ってやる。

    「ごめんなぁ、ロイ。みんなも。心配かけたな」
    「僕こそごめん、ごめん!僕があの場所を見つけなかったら、こんなことにはならなかった…」

    えぐえぐと泣くロイを、フリードはぎゅう、と一際強く抱きしめた。まるでそんなことないぞ、大丈夫だからなと言っているかのように体全体を使ってロイをあやしている。

    「そういやアメジオは?」
    「船に運ぶ前にフリードよりも先に起きて、休んでいけばいいのにって言ったら、問題ないって言ってアーマーガア出して飛んでっちゃった」
    「アメジオから伝言。次会ったらバトルしろってさ」
    「あいつらしいな」

    ていうかなんでアメジオもあの洋館にいたの?あいつも巻き込まれてたんだってよ。え、嘘!?そんな偶然ある??と子供たちに囲まれてわちゃわちゃと話していると、ばん!と扉が勢いよく開いた。マードックがものすごい勢いで駆けつけてきてフリード!!と名前を呼んでぎゅう、とフリードを抱きしめる。

    「目が覚めたってドットから連絡もらってな!!よかった、無事で……!!」
    「ちょ、マードック……くるしい」

    マードックの分厚い胸筋に顔が埋まり、フリードは苦しそうにしながらぽんぽんと腕を叩く。
    しばらくぎゅうぎゅうと抱きしめられて、フリードはされるがままになっていた。

    「俺、何日寝てた?」
    「まるっと3日ってところかな。おかえりフリード」
    「本っ当に!!心配したんだからね!!無事でよかった…!!」

    子供たちの次はぎゅうぎゅうと大人達にもみくちゃにされ、フリードはいたたまれない気持ちになった。やがて開放された後、フリードはみんなに向き直る。

    「すまなかった、心配かけて。それと……俺、みんなに話さなきゃいけないことが……」

    金色の瞳が揺らいでいる。恐らく本人の中で話すか話さないべきかを悩んでいるのだろう。すると今度は、ロイがぎゅっと、フリードを抱きしめた。

    「あのねフリード。フリードは、ひとりじゃないよ」
    「!」

    ロイの言葉を聞いてフリードははっと顔を上げる。この船の中で唯一事情を知るオリオを見ると、彼女はいい笑顔でにっこりと微笑んでいた。

    「そうか……じゃあ、俺の体質のこと、みんな知ってるんだなぁ……」

    気持ち悪いって思わねぇ?と震えた声で不安げに聞くと、みんなはぶんぶんと首を全力で横に振って、ぎゅう、と再びフリードに抱きついた。

    「フリードはフリードだもん!気持ち悪くなんてないよ!」
    「ライジングボルテッカーズのリーダーはフリードしかいない。そうだろう?」
    「……!」

    マードックがニヤリと笑って言うと、ランドウやオリオ、モリー、リコ、ロイ、ドットは力強く頷いた。それにフリードはじんわりと心が暖かくなり、目にうっすらと涙を浮かべる。

    「ありがとう」

    信じてくれる仲間たちのために、自分は一体何ができるだろうか。共に進む際に見つけていけばいい。これからのことを頭の中で考えながら、フリードは大切な仲間たちに囲まれて。静かにふわりと微笑むのであった。




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