フリードの周りは、いつも不思議なことが起きる。
「ねえ!フリードってさ、ひょっとして魔法使いだったりしない!?」
ロイがキラキラと紅の瞳を輝かせて言うものだから、フリードはぱちぱちと瞬きをして目を点にさせた。
「えーと、どうしてそう思ったんだ?」
「僕、この間船から落ちそうになった時ものすごい勢いで引っ張られて助かったんだ。そしたら隣にフリードがいて!だからフリードが助けてくれたんじゃないかって」
「たまたま突風が吹いて助かったんだろ。俺は何もしてないぞ〜」
ていうか何落ちそうになってるんだ、危ないことはするなよと言ってフリードはロイの頭を優しく撫でた。ロイは気持ちよさそうにしながらもごめんなさいと言って謝る。
「そうかな〜。でもはっきり言葉は聞こえなかったけれど、フリードの声がしたから!助けてくれてありがとう!」
無邪気な笑顔で笑うロイにつられてフリードも笑う。落ちそうになったロイを助けたのは紛れもなくフリードだからだ。懐から咄嗟に杖を取り出しアクシオと呪文を唱え、こちら側へ来るように引っ張ったのだ。フリードは正真正銘魔法使いであった。子供の勘は鋭い。ロイに言われた時内心少しびっくりした。けれどこのことは秘密である。誰にも話してはいけない。
「俺じゃなくてちゃんと風さんに感謝しろよ〜」
「うん!あの時の風さんありがとう!」
「ホンゲ〜!」
行くぞホゲータ!特訓だ!
ホッホッゲー!
相棒であるホゲータを抱き抱えて、ロイは元気にバトルフィールドへ駆け抜けていく。そんなロイを、フリードはふわりと微笑みながら静かに見守るのであった。
***
「ねえ!フリードってさ、魔法使いなの?」
今度はリコにそう言われ、フリードはまたもや面をくらいぱちぱちと瞬きを繰り返した。内心なんで?と思い不思議そうにリコを見つめる。
「ええ、と…どうしてそう思うんだ?」
「夜中に目が覚めて……飲み物取りにたまたまフリードの部屋の近くを通った時にね?扉が少し空いてたの。隙間からちらっと本がふよふよ浮いてるのが見えて。最初ポケモンの仕業かなって思ったけどフリードってエスパータイプのポケモン持ってないでしょ?だからもしフリードが魔法使いだったらすごいなって思って思わず……勝手に覗いてごめんなさい!」
「あ〜……」
フリードは頭を抱えた。溜まりに溜まった書類の整理をしようと杖を降って浮遊呪文を唱えたのだ。まさかリコに見られていたとは。ていうか扉うっすら空いてたのか。うっかりやらかしてしまったかもしれない。
「俺は魔法使いじゃないぞ〜。寝ぼけて見間違えたんじゃないか?」
「む!寝ぼけてなんかないもん!でも、夜遅かったから見間違えたのかも…?あのね、本を纏ってた青い光がね?キラキラしててとても綺麗だったの!」
あんなのみたことないよ!と言って青い瞳をきらきらと輝かせるリコに、フリードは苦笑した。これはばっちりと目撃されている。けれど魔法をはっきりと認知しているわけではなさそうだ。無闇に記憶をオブリビエイトしたら可哀想なので、このままにしておこう。
「リコ」
「なあに?」
「歩きながら夢でも見てたんじゃないか?」
「フリードのばか!」
頬を膨らませてぷんぷん怒るリコにフリードはあははと苦笑しながらも、心の中ではきちんと謝る。魔法の存在は、確かにそこにある。けれどもこれは、誰にも知られてはならないのだ。
***
「フリードってさ、一体何者なの」
ドットから呼び出されたかと思えば。またもや先程のリコとロイと似たようなことを言われてしまい、フリードはええ……と声を漏らした。
「えーと…何者と言われても…ポケモン博士?」
「なぜに疑問形」
「そりゃいきなりそんなこと言われたら誰でもそうなるって」
「それもそうか…」
ドットはしばらく考えた後、じゃあ、と言って口を開いた。
「じゃあ質問を変える。フリードはテレポートできるの?」
「………はい?」
ドット曰く、フリードが誰もいないウィングデッキにて瞬時に消えて瞬時に戻ってくる、という所謂テレポートをした所を目撃したと言う。
「見間違いじゃ…「いや、確かにあれは一瞬消えた」oh……」
どうなってるの、どうしてそんなことが出来るのと少し興奮気味に聞いてくるドットに、フリードは更に頭を抱えた。
「姿くらましはやっぱリスクがあるか……いやでも緊急な呼び出しだったし…ダンブルドアめ……」
「なに?」
「いや、なんでもないよ。それよりそろそろ配信の時間じゃないのか」
「あ!今日のところは勘弁してあげるけど絶対話聞かせてもらうから!」
フリードは駆け抜けていくドットの背中を見てそっと杖を出し、オブリビエイトと唱える。すう、とドットの頭から青い筋が現れて、ふわりと消え去った。
「ごめんな」
ふわりと微笑んだ後、フリードは姿を消した。
***
「なんだ、あれは……!」
エクスプローラーズのアメジオとバトル中に、事件は起きた。先程まで晴れていたのに、雲行きが怪しくなった。遥上空にて。マントを覆った黒いものが勢いよくこちらに向かってやってきた。ポケモンだろうか。いや、あんなポケモンは見たことない。
「なん、で……吸魂鬼がここに……!!」
「フリード!?あれを知ってるのか!?」
「くそ、仕方ない……!!」
「アメジオ!俺の側から離れるなよ!!」
フリードはばっとアメジオの前に立つ。そして懐から杖を取り出し、迫り来る吸魂鬼に向かって息を吸って力強く呪文を唱えた。あれは間違いなく化け物だとアメジオは思った。
空気が凍り、ひやりと寒く感じる。
「エクスペクト、パトローナム!!」
「な……っ!!」
フリードが持っている杖の先端から、青白い光が放出された。その光はとても暖かくて、心地いい。
化け物が叫びながら四方八方へ飛び去っていく。その美しい光に近づけないようだった。
やがて空が明るくなり、雲の隙間から太陽の光が差し込んできた。
「………なんでこんなところに吸魂鬼が……?この世界は魔法界とは繋がってないはずなんだ……いったいなにがおきてる……?」
「フリード、今のは……」
「アメジオ、大丈夫か?」
「あ、ああ……」
「そうか、よかった」
「……っ!?」
とん、と静かにアメジオのこめかみに杖をつけオブリビエイトと唱え先程の記憶を抜き取る。
「ごめんな」
「フリ、」
「こちら側に巻き込む訳にはいかないんだ」
「どう、いう……」
そう言って少し悲しそうにフリードは笑うと、ふと、フリードの姿が一瞬で消えた。アメジオはその場に立ち尽くし、先程まで居たフリードの場所をただ見つめることだけしか出来なかった。