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    kamliner

    @kamliner

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    亮シャピ付き合ってる/味方化設定

    亮BD(11/2) 亮シャピ 十一月二日。当たり前の如く、それは年に一度だけ訪れる。シャピロにとって喜ばしくも悩ましい一日だ。

    「………本当に何も無いのか?」
    「無い」

     ひと月ほど前から繰り返している質問に、同じく繰り返し聞いている亮の簡素な返事が返ってくる。シャピロは溜息を吐いた。
     十一月二日というのは亮の誕生日だ。これが曲者だった。
     大概、誕生日というのは当事者にケーキだとか何かしらご馳走を用意して、プレゼントを渡して祝う。少なくともシャピロはそう理解していた。対象が恋人なら尚更そういうものだろう。
     問題は、その司馬亮という男に“欲”が無かったことだ。それはもう潔いほどに、何ひとつ。
     何せ食べ物も質素な物を好む方で、更に甘ったるい物を避けているので豪華なバースデーケーキなど論外。物に至っては、着替えが少しあれば後は身一つで生きていけるような——いや、事実それでしばらく放浪していた人間だ。
     そんなものだから、シャピロが何度「何か欲しい物は無いか?」と訊ねても何も引き出すことが出来なかった。
     そうこうしている内に、誕生日当日になってしまったという訳だ。

    「別に何も要らないし、どうしても渡したけりゃ何でもいいんだが」
    「それでは俺が納得がいかん」

     一応、亮は獣戦機隊の他の連中からプレゼントを受け取っている。
     沙羅からはこれから寒くなるだろうからと、彼女なりに亮に似合う物を選んだセンスの良いマフラーを。雅人からは自分が観て面白かったアクション映画のソフトを。
     忍に至ってはたまたま自動販売機の前に居合わせたので、亮の分も缶コーヒーを買ってよこしたのだと。
     各々がチームメイトを思う気持ちまでは否定しなかったが、シャピロからすれば本人が求めていない物を押し付けるような行動が、あまりにも不毛で理解しがたい。
     その点では、ある意味で自己満足的な行動を容易く遂行する部下たちが羨ましくすら思えた。

    「ならば、何かやりたいことは無いのか」
    「やりたいこと?」
    「俺ができることなら叶えてやってもいい」

     これで無かったら本当に何も無い、とばかりに苦し紛れで訊いた言葉だったが反応は意外なものだった。
     暫し考え込んだ亮の頬に、僅かに赤みが差したのをシャピロは見逃さなかった。

    「どうした? 何かやりたいことがあるんだろう?」
    「いや………何でもない、忘れてくれ」
    「遠慮するな、付き合ってやると言っているんだ」

     この硬骨漢にも、相応に煩悩があるんじゃないか。物珍しいものに触れた愉悦が、自然とシャピロの口元を綻ばせる。
     亮はそれを面白くもなさそうに見ていたが、やがて観念したように溜息を吐いた。

    「……分かったよ。じゃあ、手を出せ」
    「手?」
    「片手でいい」
    「こうか」

     言われるがままに、利き手を差し出す。
     すると同じように亮が片手を伸ばし、それをシャピロの手に重ねた。何のつもりなのかと見守るうちに、指が絡められていく。アームレスリングでも握手でもなく、見た目はちょうど神にでも祈るような形だ。それぞれが別の人間の手であることを除けば。
     こうしてじっくり触れると、こいつの手は自分よりも大きいのだな——などと、普段は考えもしない感想を抱きながら、大人しく亮の指先に手の甲を撫でられていた。

    「……これは?」
    「…恋人同士が外を出歩くとき、こうするものらしいが。実際に外でやると目立つし、それに…」
    「何だ」
    「俺とあんたじゃ似合わん」

     心外だ。自分自身のことはともかく、こっちまで勝手に判定に巻き込むな。言い返したいところではあるが、言外に「あんたもそう思うだろ」と言われている気がして、そうなるとシャピロも確かにそうだと思わざるを得なかった。
     何せ、お互いに手を繋ぐなど子供時代に親とも経験があったか怪しいくらいだ。まして、今となっては並んで歩くだけで時々振り返られるような体格の成人男性ふたり。手を繋いでデートなど、想像しただけで寒すぎる。
     ——そうだ。馬鹿馬鹿しいほどに、似合わなくてあり得ない話だ。

    「………何を笑ってるんだ?」
    「は?」

     亮に言われて我に返る。シャピロとしては珍しく、亮が声をかけるまで全く気が付かなかった。自分が笑みを浮かべていたことに。
     無論、無意識であり亮のことを馬鹿にしたつもりもなかった。そもそも、シャピロにとって自覚しない感情が表情に出るということは、ほとんど無い。
     何故、と己の中に探した理由は至極単純でシンプルなものだった。

     目の前の男の、似つかわしくもない子供じみた欲求の対象が、自分であることが——どうしようもなく嬉しいのだ。
     そんな些細なことに思い起こされるほど、相手の中に自分が居ると思うと何とも言えない気持ちになった。
     そう気付いた瞬間、自分でも驚いたが嫌な心地はしない。むしろ、この男と過ごすうちに生まれた慣れない感情の正体がようやく分かった気がして、腑に落ちるような感覚があった。

    「笑いたきゃ笑えよ。どうせ子供みたいな望みだと思ったんだろ」

     シャピロが一人で思考を巡らせているうちに、完全に拗ねたらしい亮が、シャピロが何か言うよりも早く手を解いてしまう。しかし、シャピロは敢えて誤解を解こうとはしなかった。

    「子供みたいだとは思っていない」
    「そうか?」
    「相変わらず女々しいと思っただけだ」
    「……だから言いたくなかったんだ」

     咄嗟に追撃するような悪態をついてしまう。嫌気が差したような鋭い視線が向けられるが、受け流した。
     代わりに、上手くふたりきりになったら外で手を絡めてやろう。誰にも見られていなければ、それくらい構わないだろう。
     我ながら可愛げがないとは思うが、自分でもたった今気付いたばかりの感情を、そう簡単に知らせてやる気は無い。まだ、今しばらくは———
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