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    ##鬼の本丸

    鬼の本丸 出雲に行く「僕が僕じゃなくなる、ってのは、今のところ想像も及ばない」
    『奇遇だな。俺も生まれてこのかた、考えたことすらない』
     お互い笑った。だから、個というものの救いとして教えなんてものがあるのかもしれないと則宗は何となく思う。まあ、あの朝尊が同じような質問をとっくの昔にしていたとはと少し驚いたが、あの好奇心の塊のような男士だから、真っ先に気になるところだろう。何より、成り立ちがやや自分たちに近いともなれば、余計に質問したくなるのだろう。何せ則宗自身もそうであるのだから。

     バイクは市街地に入り、そこからなんてことのない、普通の駐車場に止まる。ここからどうやってあの社まで行くのか則宗は知らない。鬼は当然ながら分かっているようで、則宗にただついてこいと告げた。大通りを避けて人目に付かないような道を歩いていく。
    「まっすぐ大社へ行くのではないのか」
     則宗の問いかけに鬼の審神者は首を横に振った。
    「そこは人の領域だ」
     神々は基本的に人の領域へと姿を現さない。現すとするならば、それは相当なもの好きか人の世で生まれたものだと鬼の審神者は話した。
    「俺は人から物の怪に成ったものだ。それを土地神などと有難がった人間どもがいただけで、本来ここに来るようなものではない」
     何かしら思いを抱えている様子だが、則宗はこの場での問いかけは控えた。地続きの道を歩いているはずなのに、徐々に何かがずれている感覚がしているからだ。ふと、鬼の審神者が則宗の腕を掴む。にんまりと口の端を吊り上げて鬼は笑った。
    「はぐれてくれるなよ。探すのは骨が折れる」
     見えているのに見えていない。おかしな感覚だ。あるいは、見てはいけないものがこの場には多くあるのかもしれない。ふるると首を横に振り、瞬きをするとそこは薄ぼんやりと灯篭の明かりが立ち並ぶ不可思議な街並みがあった。旅篭町のような、そうではないような。先ほどまで日は高かったはずだが、気付けば黄昏時。行き交うものたちは人ではない。がやがやという賑わいに則宗は目を瞬かせる。
    「則宗、行くぞ」
     やや強めに腕を引かれたかと思うとがっちりと肩を掴まれる。鬼の審神者は先ほどまで則宗よりやや小さい身の丈であったが、どうやらいつの間にかやや大きくなっているようだ。口の端を吊り上げ、目を細めている。笑っているようにも見えるが全く違う。目が全く笑っていない。周囲を威嚇するかのようだった。
    「声を掛けられても答えるなよ」
    「ああ」
     視線を強く感じる。刀の付喪神、その分霊が珍しいのかもしれないが、興味を持たれているのは則宗もひしひしと感じた。だが、則宗の隣にいる鬼の審神者のことは避けているようにも見える。八百万の神々でも鬼は怖いものなのかと則宗は疑問を感じた。
    「ここにいる連中の大半は若い。千年も生きているものは稀でな。お前に興味はあるが、俺のことは恐れている」
     則宗の考えを見透かすかのように鬼の審神者は話す。通力の力でも強まっているのか。則宗は無心でいようと思うのだった。
     一本道の先には大きな鳥居が見える。その先にもぼんやりとした灯りが等間隔で立ち並んでいる。鬼の審神者曰く、あの先に社があるという。ただ、行けるのは手前までで、その先には立ち入れない。立ち入ることが出来るのは本当に上位の神話に出てくるような神々だけであるという。社の方面には行かないようで、恐らく宿に向かっているようだった。ざわめきに耳を傾けそうになる。あの、呼び声のあった橋での怪異のように、答えてはならないものなのだと分かっていても、あの手この手で振り向かせようというのだ。
     ふと、違うことを考えようと、則宗は建物へと目を移す。全く古風な旅籠もあれば、和洋折衷の雰囲気のものまで数多くある。全て見ようとしたら目をまわしそうだ。表通りの煌びやかさは人の世と同じ。だが路地は人の世よりも暗く、昏々と暗い闇が広がっているようにも見えた。
     が、宿と宿の間の暗い路地から丸い光が二つ則宗を見ていた。則宗もそれを見てしまった。目が合った、まずいと思ったときにはすでに遅し。ぐいと髪を掴まれ、則宗は思わず立ち止まる。
    「刀の付喪神だ。初めて見たぞ。あの、偉そうな時の政府だか何だかが訳の分からんことでつくったとかいう」
     則宗は振り向こうとしたが、それを鬼の審神者が遮る。
    「おお、あんたは茨木。まだ消えていないようで何より。それよりこれの何かを分けてくれ。この髪がいい。髪をくれ。金糸のようにきらきらと、真に美しいから気に入った」
    「……俺の物を寄こせというからには、貴様は俺に何を寄こす?」
     則宗は振り返らずとも、鬼の審神者が膨れ上がっていくようなそんな感覚を覚える。明るい喧噪がどよめきに代わり、灯篭に映し出された影は大鬼といって差し支えないほどとなっていた。
    「なんだいけち臭いな、お前はたくさん宝を持っているのだから、俺に少しくらい寄こしてくれてもいいだろう」
    「これは俺の物だ。髪を寄こせというのなら貴様の首を貰う。俺から奪おうとは驕るなよ古狸風情が、我が庭の梅に晒してくれる」
     鬼の審神者が則宗の髪を掴んだままの何者かに襲い掛かろうとした瞬間、ちりんと音がした。則宗の目の前にいつの間にか、蔵の中の怪異の際に訪れていたあの『来客』がいた。あの時とは全く異なるまるで異民族のような装束に身を包んでいた。ただその鈴の音で鬼の審神者の動きは止まり、則宗の髪を掴んでいたなにかも離れた。
    「喧嘩は止しとけ。俺よりおっかないのが出てくるぞ」
     とはいえ則宗に近づいてその後ろを見るや、ああ、と声をだす。
    「……無断で奪ったのか」
     はっとして則宗は髪を触る。髪紐から先が無くなっていた。不可思議な感覚だ。則宗としてはそこにあるように思っていた。重量を感じていたからだ。『来客』は鬼の審神者を小突き、鬼の審神者は大きなため息を吐いたようで、空気が抜けるように元の大きさに戻ったように思えた。
    「お前が邪魔さえしなければこの場で取り返せたものを」
    「ここで血を流すのはご法度だって知っているだろうが。大目玉食らって小鬼にされたくなきゃ、いったんは退くのが吉だぞ」
     則宗はだるさを感じ、その場にしゃがみ込まずにはいられなかった。
    「その、僕の髪といっていたが、本当に髪だけ持って行ったのかい」
    「曲がりなりにも神だからなあ。取り返さない限り、お前の髪は元には戻らないだろうよ」
     手入れでも戻らない、と言外にいっている。つまり力の一部をそのまま持って行ったというわけだ。則宗がいいよと言ったわけでも、鬼の審神者が許したわけでもないのに。
    「とりあえず宿に行け。俺も会議に出るのは飽きたし、あの子狸を捕まえるのを手伝ってやる」
     にかっと『来客』は笑う。白い髪は白蛇のごとくうごめいたように見えた。
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