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    sorbet2812

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    sorbet2812

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    聡実くんお誕生日おめでとう話。
    原作軸のカ!再会直後の誕生日(4318)を軸に、聡実くんを沢山喜ばせたい一心でお話を書きました。
    出来上がっている4419と、まだ出会ったばかりの4319(回想)も出てくる狂聡欲張りセットです。

    ハッピーバースデー【さとみくん
    お誕生日おめでとう】
    四月一日。
    午前十二時ぴったりにLINEに送られてきた聡実宛のメッセージ。
    それはシンプルではあるが、確かに誕生日を祝う言葉であった。
    その事実が俄には信じられず、聡実は小さく自分の頬を抓る。
    「ゆ、夢やない」
    送り主は成田狂児という、つい先日まで三年半もの間音信不通になっていたヤクザの男である。
    生きているのか、死んでいるのか。
    生きているならば、何故連絡の一つも寄越さないのか。
    ソプラノが出んようになった、僕のことはもういらない?
    諦観にも似た疑問と、あの夏を忘却出来ぬ怒りを心の奥底に抱え過ごした高校三年間。
    これで全部仕舞いだと卒業論文を書き上げ、いざ新天地に旅立とうとした日に、その男は再び聡実の前に姿を現した。
    聡実の心を良くも悪くも引っかき回す男からの誕生日祝いだ。
    スマートフォンのロック画面に表示されたポップアップを開こうか、指が迷う。
    だが、もええわいったれと爆弾の起爆スイッチでも押さんばかりにタップをした。
    恐る恐る狂児とのトーク画面をスワイプし、後続のメッセージがないことを確認する。
    ほっと息を吐き出したところでどうしてこんなにも緊張をしているのだと、思わず飛び起きてしまった布団の上で正座をしながら聡実は眉を寄せた。
    【お祝いありがとうございます。
    僕、狂児さんに誕生日がいつか伝えたことありましたか。】
    返信を入力しては消しを数度繰り返した後、ややツンとした物言いに不時着をした。
    たった数日前に再度相まみえた狂児相手に、どう振る舞えばよいのか。
    聡実の感覚はこの三年半の間にどうにも錆びついた部分があるようで、中学三年生の自分がそうしていたような自然体というものが解らなくなっていたのだ。 
    【さとみくん、覚えてへん? 
    カラオケの練習してる時、誕生日の話したやろ】
    【え、いつですか?】
    【曲の間に流れるよう解らん番組
    今日の運勢言うて星座占いしとってそん時やね】
    「あ」
    ヤクザと星座占い。
    中々奇妙な組み合わせの並びを見た瞬間、聡実の奥深くに封じ込められていた記憶が一気に溢れ出した。


    『お、牡牛座の今日のラッキーアイテムは眼鏡やって』
    『僕の方を見ないでください』
    喉への過剰な負担を避けるべく、数曲置きに必ず休憩を入れることをカラオケ練習のルールとしていた。
    ドリンクバーから持ってきた飲み物。お決まりのチャーハンから始まり、ポテトフライにからあげ。
    その上、生クリームたっぷりのパフェまでテーブルの上に揃えば、カラオケというより最早ファミレスの様相である。
    ヤクザと中学生。共通の話題であるカラオケ以外は何もかもが違う二人のため、休憩時には何を話せば良いのか聡実は戸惑う時もある。
    だが、そこは狂児がそれとなく話題を振ってくれるため、会って間もない相手と居ても気詰まりをするようなことはなかった。
    『聡実くんは誕生日いつなん?』
    曲が演奏されない間、カラオケ機器の画面上に自動で流れ出す情報コンテンツは、新譜の発売情報の他にアーティストのインタビュー。その上、今日の運勢まで教えてくれるらしい。
    『ヤクザに個人情報は教えられません』
    『ヤクザやなくて狂児さんに教えたって。ちなみに俺は五月五日の子どもの日。名前に絡めて覚えやすいってよう言われる』
    この人はやはり悪い人なのかもしれない。
    ポテトフライを咀嚼しながら、聡実はそう思った。先に狂児の誕生日を言われてしまえば、素直な中学生である聡実は答えざるをえない気持ちになる。
    口にポテトフライも入っているし、黙秘権を行使しようか。
    指先についた塩をぺろりと舐めつつ一考した末、少しだけ湧いた親近感が黙秘の選択を遠ざけた。
    『僕の誕生日はエイプリルフールです』


    【今、思い出しました。
    今日のラッキーアイテムが狂児さんが眼鏡で、僕が鶴でした】
    【鶴なんて動物園にしかおらへんって、さとみくんめっちゃ怒ってたネ】
    【そんな事までよく覚えてますね】
    【忘れへんよ
    さとみくんが俺に教えてくれたことわ】
    ヒュッ、と聡実の喉から高い音が漏れる。
    やりとりを重ねる間に正座から徐々に足を崩し、果てはごろりと敷布団の上に転がっていた聡実の身体が硬直する。
    (忘れてへんかった)
    忘れてない。
    たったそれだけの事実に直面をしただけで、心の奥から幾つもの感情が噴出し聡実は息の仕方が解らなくなった。
    (この男は、あの夏から何も変わらん)
    この得体の知れない。
    いや、知りたくもない感情の群れをこれ以上溢れ返してなるものかと、ギリギリと聡実は奥歯を噛みしめる。
    (こうやって何度も何度も、もういややと思うほど僕の事を掻き乱す)


    ♢♢♢♢♢


    大人しく白状をすれば、聡実は嬉しくて堪らなかったのだ。
    中学三年生のあの夏の出来事は、見知らぬ世界に迷い込み経験をした一夜限りのお祭り騒ぎ。
    そもそも、成田狂児という男は本当に存在したのだろうか。
    心の何処かでそう考えてしまう程に、聡実の中で狂児は覚束ない存在となっていた。
    なのに、空港で奇跡のような再会を果たし、数日後には誕生日祝いのメッセージすら届いたのである。
    まだ幼かった頃、クリスマスの朝に目が覚めると、枕元にサンタクロースからのプレゼントが用意されている。
    あの朝の高揚を凝縮したような現実の訪れに、聡実の身体中の細胞が歓喜に震えた。
    勿論、嬉しい一辺倒だけではなく名状し難い部分もあったが、その多くは歓びであったことに間違いはない。
    よって、狂字から十九歳の誕生日についてそれとなく希望を聞かれた際、聡実は十八歳の誕生日の事を踏まえこう答えた。
    『狂児さんと一緒に居れたら十分です。その、去年、嬉しかったから』

    去年、狂児さんからサプライズでお祝いのメッセージをもらえて、嬉しくてどうしようかと思いました。
    あの時はどうしたらいいか解らなくなって、返信も出来ず会話をぶった切りましたが、実は翌日もしかしてこれは全部夢……いや、夢やない……とトークルームを見返しました。
    でも、悔しいのでこの事実は墓場まで持っていきます。
    だって、あのときは恋人同士ですらなかったのにそんなにも喜んでいたとか、認識するだけで恥ずかしい。恥ずかしくて死んでしまう。
    しかも、今。たった今、狂児さんから誕生日の話を振られて、あの時の自分の気持ちの有り様を知ったのです。
    こんなの全身全霊で狂児さんが好きって言っているのと同じじゃないですか。
    でも、欲しいものは欲しいので、リクエストはちゃんとします。

    聡実としては、百の事実を一ぐらいに削ぎ落としこれでもかと圧縮した上で、狂児に希望を伝えた。
    そのつもりで居たが伝えた直後に、あ〜、もうこのかわい子ちゃんをどないしよ!!!!狂児、心の声が漏れとるよ。漏れててもかまへん!!聡実くんが可愛すぎる。可愛いとか知らんし、そもそもヤクザがどないするとか怖すぎ。そんなつれない事言わんといて〜!と茶番じみたやりとりを繰り広げたな、と信じられないような現実を前に、あの日の出来事が聡実の脳裏を光の速さで駆け抜けてゆく。
    「聡実くん、お誕生日おめでとう」
    「……うそ」
    「嘘じゃないヨン」
    時はニ◯二十四年四月一日午前十二時ぴったり。
    場所は東京都大田区蒲田にある聡実の小さなお城。
    友達や家族から続々と届くLINEへのメッセージ通知を蹴散らすように鳴り響いたアパートのインターフォン。
    いやまさかそんなと期待と驚愕で縺れる足を叱咤し、慌てて玄関へと走り扉を開ければそこには真っ赤な薔薇の花束を携えた狂児の姿。
    「今、十二時……」
    「サプライズ言うやつや」
    聡実のサンタクロース改め恋人は、真っ赤な服とは真逆の色彩を持ち、何なら三年半もの間聡実を放ったらかしにした前科がある。
    だが、世界中の子どもではなく、この世でただ一人、聡実だけを喜ばせたい一心で深夜に大阪から東京まで駆けつけて来てくれるのだ。
    「ほんまは去年も、直接おめでとうって言いたかったよ。けど、意気地がなくてLINEでおめでとう言うたら、まさかあんなにも喜んでくれてたとは思わんかって」
    「僕の心を勝手に読まんとってください」
    「あんなにも、のところは否定せぇへんの?」
    「せぇへんよ。だって、嬉しいから」
    まだどことなく冬の気配が残る春の夜から、まだ暖かな室内へと聡実は狂児を招き入れる。
    扉を閉め狂児が三和土に立ったところで、我慢出来ずに聡実は狂児に抱き着いた。
    勿論、二人の間には薔薇の花束があるから、いつものように思い切り抱き締めることは出来ない。
    代わりに、少しだけカサついた狂児の唇に吸い寄せられるよう、聡実は己のそれを重ねた。
    性急な仕草で相手の唇を割り開き、濡れた舌が欲しくて口内を弄ったのは、どちらが先かもう解らない。
    深夜のアパートの玄関。花束のセロファンが立てる擦れた音、聡実の喉から溢れ落ちる声、狂児の身体から立ち上る香水の香り、二人の間で乱され馨る大輪の薔薇。
    「っあ……きょう、じ……もっとして、はよ」
    「キスだけでええの?……何が欲しいか言うて」
    肚の奥が疼き一人で立つことも儘ならなくなった聡実の腰を、狂児の大きく厚い掌が支える。腰を掴む力強い服越しの感触にすら感じ入り、聡実は小さなうめき声を落とした。
    「……鶴が……ん、見たい」
    唇を離す間すら惜しくて、音を狂児の口腔に注ぎ込むように応えをする。
    はしたない気もしたが、口づけを止めることなんて到底出来ぬ程に聡実の脳は沸騰をしていた。
    「それやあかん、ちゃんと言い」
    ひどい、と痺れた舌で詰ってやろうか。
    けれど、誕生日の夜に狂児に会えただけでこんなにも喜び溶けた聡実を、一欠片も取り落とさんとばかりにギラギラとした眼で見つめる狂児を前に聡実も狂う。
    「あ、あ、きょうじ、が、……はァ、きょうじがほしいっ……!」
    「ええよ」
    ちゃんと全部貰てね。
    聡実の好きな狂児の深く響く声で、直接鼓膜を撫でられ思わず嬌声を上げる。
    その声が途切れるのを待つ前に、花束ごと聡実の身体を抱え上げた狂児に四畳半で待つ褥へと攫われた。



    昔の狂児は何を考えているのか解らないようなところがあった。
    だから、聡実の心は振り回され時に疲弊し、別離という選択肢を選ぼうと思ったこともある。
    だが、恋人という位置づけになってからの狂児は、聡実からのシグナルを取りこぼさない。
    いや、昔もシグナル自体は受け取っていたのかもしれないが、今はちゃんと受け取った証として狂児からのシグナルも発してくれるようになった。
    「おはよう、聡実くん」
    「……おはようございます」
    目覚めればそこは、朝の陽射しを容易く通す薄いカーテンに覆われた聡実の部屋。
    何も隠す事が出来ないこの四畳半で布団の中で片肘をつき、聡実の寝顔を見ていたのであろう一羽の雄大な鶴。
    いや正確には、その鶴を背負う聡実の最初で最期の男。
    「声、ちょっと掠れてもたね。身体は辛ない?」
    「ん、大丈夫です」
    喉元を擽る優しい指先に誘われ、そっと見上げればそこにあるのは。
    (ほんに嬉しそうな顔しよって)
    昨晩の自分もこういう表情をしていたのかもしれないとぼんやり見つめていれば、寝ぼけているとでも勘違いしたのだろう。
    「眠たい?」
    青を基調とした墨が踊る腕に抱き込まれ、寝かしつけるように優しいキスが額やら瞼やらに降ってくる。
    温もりと幸せに満ちたその空間に、一度は覚醒した聡実の意識もとろとろと綻び始める。
    「でも今日は、」
    「狂児さん特製おたおめプランが待っとるけど、まだ寝てて大丈夫やから」
    なんやそのプラン。めっちゃおもろそう、と再度聡実の意識が浮上しかけたのを察したのか、寝えと狂児にあやされる。
    ぴたりと聡実に寄り添う狂児の体温と素肌に、とくんとくんと一定のリズムで脈打つ心臓の音。
    あかん、気持ちいい。暖かい。幸せ。このまま寝てまう。いやや。
    「きょうじ」
    「聡実」
    「うん」
    「お誕生日おめでとう」
    起きたらもう一度言わせてな。

    頷けたかも定かではないが、聡実の満ち足りた笑みでもって全てを察してくれるだろう。
    そう確信したまま、聡実は幸せな二度寝の時間へと狂児と二人、ダイブするのであった。


    end
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