とある月夜の岩柱と風柱鬼殺を終えて爽籟から次の任務の指令もなく、秋の月夜を見る余裕が実弥にはあった。虫の群れ鳴く中、月影に丈高い薄の穂が風に揺れ、十五夜の満月だ。実弥は風情を感じるような風流など押し殺している。草むらの中に誰も住まなくなった荒れ屋の傍に、萩が大きな黒い塊だった。その景色を行き過ぎる。
道なりに歩いていると、向かいの分かれ道からも歩いてくる気配と足音が分かる。足の速さが鬼殺隊士だった。それに続いて鈴を鳴らすような澄んだ音を連ならせて鎖が鳴っていた。悲鳴嶼だった。実弥は足を止め、悲鳴嶼もこちらに気付いていた。
秋の田舎の道端に行き会い、顔を見合わせる。柱となってからこれまでの功績を一欠けらも誇ることのない男が、淡々とした様子だった。
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