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    SY_052

    基本的には中途半端すぎる進捗共。

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    SY_052

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    #真緒零

    【真緒零】ゆ〜れいの零ちゃん 2 そうだね、まずは彼の話をしようかな。
     彼の名前は【譁主ョョ螳】。かつてこの学校に通っていた生徒のひとり。彼の家は少々特殊で、彼もまた特殊だった。大量の才能を持て余していたとも言える。
     彼はアイドル科の生徒でありながら作曲の才能に秀で、自身の舞台衣装を縫い上げてしまうほど裁縫の腕があり、またデザインセンスも抜群だった。
     まさに神に愛されているようなひとだろう?
     そんな彼がどうして学院の七不思議になっているのか、残念ながらそれはわからない。
     七不思議のニ番目。彷徨う人形師。
     夜、最終下校時刻間近の特別棟に現れる怪異。何かを探しているという噂だけど——彼の探し物が見つかることなんてあるのかな。


       ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


     忘れ物を取りに来ただけだった。
     明日までに提出しないといけない書類を忘れてしまったのだ。様々な部活動見学に行った末、広大な学校で迷子になってしまって、やっと自分の教室に帰って来られた。
    「はぁ……鬱だ……」
     家に帰る頃には何時になっているだろう。そう考えるとまた気分が沈む。
     自分の席、引き出しの中に手を突っ込む。クリアファイルに入った、たったこの一枚の紙のためにどれだけ時間を要したことか。
     さて、帰ろう。
     スマホの懐中電灯機能を頼りに廊下へ出る。この教室から玄関へは比較的簡単に辿り着けるはずだ。早く帰ろう。
     廊下へ出て、やけにひんやりとするなぁと思ったときだった。
    「君」
     声がした。
     心臓が鷲掴みにされたみたいにドキリと跳ねた。
    「ちょっといいかね」
     さっきまで誰もいなかった廊下。
     足音も何も聞こえなかったのに、声が。
    「道を」
     恐る恐る、振り返る。
     スマホの頼りない灯りが、見慣れない青い制服を照らし出す。
    「聞きたいのだけれど」
     その体はツギハギだらけだった。
     真っ黒い糸が体の至る所を縫い合わせている。そして瞳があるはずの場所は、そこだけぼっかりと開いて、真っ黒で。
    「ぎゃああああああああああああああ!!!!!」
     高峯翠、一年生。入学五日目。
     彼は校舎中に響き渡る声を上げ、脇目も振らずに逃げ出した。



     悲鳴の出元を追いかけ階段を駆け上るより先に、ドタバタと激しい足音が真緒の目の前まで降りてきた。
     相手は一年生だろうか。背丈は真緒より高いが制服はまだ新しい。ぶつかりそうになって慌てて立ち止まるが、哀れな下級生は更に悲鳴を上げてすっ転びそうになっている。
    「ひぃやあああああああ!!!」
    「お、落ち着けって。どうした、何があった?!」
     彼の後ろにはぬいぐるみのような、遊園地のマスコットキャラのような、なんとも言えないグロテスクな幽霊たちがわんさかいた。下級生の肩やら脚やらに絡みつき、何が楽しいのかキャラキャラ笑っている。逃げてきたのは彼一人だが、足音が複数人分聞こえた理由はこれらしい。
     どうやら彼は“見える”ひとではないようだ。真緒の姿をじっくりと見て、安心したようにその場にへたり込んでしまった。その頭の上では首が取れかかった少女人形が飛び跳ねているのだが、気づいていないようだ。
    「よ、よかった〜、ひとがいて……。あ、あの、すみません、おっきな声出しちゃって」
    「何があったんだ?」
    「俺、入学早々疲れてるのかな……なんか、お化けみたいなの見ちゃって、それで悲鳴上げちゃったんです。お化けなんているはずないですよね、すみません。普段はホラーものとか怖くないのに……」
    「どこにいた?」
    「え?」
    「そのお化けとやら、どこにいたんだ?」



     彼が言った通り、二階の廊下には幽霊らしき存在がいた。廊下の壁からこっそりと、顔だけ出して覗き込んでみる。
     青いブレザーが特徴的な、夢ノ咲学院の旧制服。そして周りにはたくさんのぬいぐるみ。片耳が引きちぎれたウサギ。腕と足が一本ずつ足りないネコ。頬から綿が飛び出しているクマ。元の色がわからないほど燻んだ有名アニメキャラ……まともなぬいぐるみはひとつもいない。跳ねたり飛んだり、彼の周りを好き勝手に闊歩している。
    「我輩は、反対じゃ」
     身を乗り出した真緒の肩を、零が掴む。いつの間に真緒のすぐ側まで来ていたのだろうか。
    「幽霊なんてのは碌なものじゃない。未練や業があって、死んだくせに現世に留まっておるんじゃ。まともな精神はしておらんと思った方がいい。あの幽霊が衣更くんに……現世を生きる人間に友好的とは限らんのじゃぞ」
    「それでも……」
     幽霊はどこかふらついた足取りだった。彼が一歩踏み出すごとに、ぬいぐるみたちが慌てたように飛び跳ねる。彼の道行きを案ずるように、跳ねて、跳ねて、その道が平気なことを確かめる。そんな風に、見える。
    「困ってる、と思うんです」
     幽霊という存在が、何かしらの未練があって現世に留まっているというのなら。
     その未練を少しでも晴らしてやれないだろうか。
     真緒は零の顔を伺った。体を浮かせ、真緒より高い位置にあるその顔は、珍しく静かな無表情だった。
    「俺、まだれいちゃんのこと、何も進んでないのに、他のことに手をつけるのは筋違いだとはわかってます。でも、俺は」
     肩を掴む零の手を、そっと握る。上からかぶせるように、温めるように。真緒よりずっと冷たいその手を。
    「あのひとのことも、助けられるのなら助けたい」
    「あっ……」
     零が何かを言うより先。
     真緒は幽霊の元へ駆け出した。


     端的に言って。
     幽霊は恐ろしく整った顔立ちをしている、のだと思う。黒いレース状の布が目を覆っているせいで、目鼻立ちはよく見えない。歪な黒い糸が体のあちこちに根を張っている。それでも彼が美しいひとであることはよくわかった。
    「あの、」
     視界を塞ぐ布は飾りではないようだ。真緒の存在に気付いた彼が足を止める。周囲のぬいぐるみ達が威嚇するようにバタバタとその場で飛び跳ね始めた。一部のぬいぐるみは威嚇するかのように真緒を睨め付けている。
     彼の顔がこちらに向く。目は塞がれていて見えないが、真一門に結ばれた唇が彼の不機嫌さを表している気がして妙に緊張した。
    「……」
     声をかけたはいいものの、次の言葉が見当たらなかった。
     相手は死人の象徴である旧制服をまとい、無数の動く人形を周囲に従えている。どう見たって人間ではない。次の言葉がサクッと出てくるほど真緒は人生経験を積んでいない。
    「君」
     相手の唇が動く。調律された楽器のような心地良さを感じる声だった。
    「僕のことが見えるようだね」
    「あ、はい」
    「それならばちょうどいい。時間を取らせるが、僕を手芸部室まで案内してくれたまえ」
    「は、はあ……」
     あまりにもあっさりと言う。まるで貴族や王様のように、命令することに慣れた口調。突然のように差し出された手をどうすればいいのかわからず、真緒はひたすら困惑していた。初めて零と出会ったときだってこんなに驚かなかっただろう。
    「僕はこの通り、視力を失っていてね。肩か手を貸してくれると助かるのだけれど」
    「あっ、はい……それじゃあ失礼します」
     彼の手を取ろうとこちらからも手を伸ばしたとき、零が手首に手刀を叩き落としてきた。痛みに無言で悶絶する真緒に、零は真顔のまま己の肩をトントン、と指で示す。
     確かに、彼との身長差を考えると手を引くより肩に掴まってもらった方がいいだろう。見知らぬ幽霊と仲良く手を繋いで歩くのもおかしいのだし。
     とはいえいきなり手刀は酷いだろう。どういう意味かと問い詰めようと零を見やるが、なぜかそっぽを向いて三歩程離れた位置でふわふわ浮いている。
    「どうしたのかね」
    「いえ、なんでも……ところであの、手芸部室はどこに?」
    「ニ階だよ。ああ失礼、君たちが『旧校舎』と呼ぶ棟の、ニ階だ」
     盲目の幽霊に肩に掴まるよう伝え、真緒は未だ痛みの残る手を軽く振りながら零を見る。怒っているのか拗ねているのか、零はそっぽ向いたままだ。しかしちゃんとついてくるので、とりあえずはまあ、大丈夫、だろう。たぶん。
     妙なことになった。こっそりと吐き出した溜め息は、果たして肩を掴む幽霊に対してか、突然機嫌を悪くした零に対してか。
     ぴょんぴょんと動くグロテスクなぬいぐるみたち。
     旧制服を纏う盲目の幽霊。
     そして記憶を失った、不機嫌な零。
     奇妙な一団は旧校舎へと向かう。


       ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


    「すまなかったね。時間を取らせた」
    「いえ、大丈夫です」
     誰にも見つかることなく、なんとか手芸部室に辿り着くことができた。
     二年生の真緒でさえ知らなかった手芸部。廃部になっている可能性も考えたのだが、どうやら杞憂だったようだ。部屋はきちんと掃除されており、棚には色とりどりの布が整頓され置かれている。他にも使用目的がわからない、なんだかすごそうな道具が揃えられている。
     件の幽霊が椅子に腰掛けると、ぬいぐるみたちがバタバタと動き出す。身長の何倍も高く跳ね、器用に棚の中のものを出し入れしている様は、そのグロテスクな外見と裏腹になんだか愛らしい。
     と思っている間にも、大きな机にガチャンとティーカップが置かれた。片手のないネコのぬいぐるみが器用に何か注ぎ入れる。紅茶……だろうか。
    「ノン! また君たちは勝手に紅茶を淹れて……! 客人をもてなす気があるのなら、もっときっちりお湯の温度を測ってカップは温め茶葉は均等に……!」
    「ははは……」
     念のため部室の扉は開けっ放しにしている。しかし零が中に入ってくる様子はない。まだご機嫌斜めのようだ。
     ぬいぐるみたちへの小言が止まらない彼相手に、真緒はそーっと声をかける。
    「あの……ちょっと聞きたいことがあるんですけど……」
    「……失礼、恩人の目の前でみっともない姿を見せたね。何かね。僕で答えられることでよければ答えよう」
     コホンと咳払いをしてみせて。目も見えぬであろうに慣れた手つきでティーカップを手に取った幽霊は穏やかに応える。
     グロテスクな外観に合わず話の通じる幽霊のようだ。そこに一安心し、真緒は居住まいを正す。
    「零、っていう幽霊のことを知りませんか」


         ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


     おかしい。
     ツギハギの幽霊と真緒が部室に入っていくのを視界の隅に捉えながら、零は困惑していた。
     真緒はとても親身になってくれている。記憶もない、素性もわからぬ零のために、手がかりもないのに奔走してくれている。
     それが申し訳ないと思うのだが、素直に嬉しくてつい甘えてしまう。
    (おかしい、おかしい、おかしい)
     ふわふわと漂いながら。零は自分の中に巣食う感情を理解できず、ふわふわうろうろと漂い続ける。
     真緒が優しい子だとはわかっている。だから零が死人であることを知っても離れたりせず、むしろ助けてくれたのだろう。
     そう。彼は優しい子だ。だから他の人間にも、幽霊にも手を差し伸べる。周囲に悍ましい怪異を引き連れていようが、その体がツギハギだらけだろうが。
    (わからん……)
     何もおかしいことではない。
     なのにどうしてこんなに、胸がムカムカするんだろう。


         ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


    「……なるほど。それなら僕はお役に立てない。僕はこの学院の七不思議の一人ではあるが、最近はこの通り体がボロボロでね。僕の統治下たる怪異の中にそんな名前の人間の幽霊はいない。他の七不思議に口利きするのがせめてもの礼儀だろうけど、この体では不可能だ」
    「な、七不思議……? 統治下……?」
    「……ああ失礼、僕としたことが名乗りもせず話をしていたね」
     ツギハギだらけの体。塞がれた両目。
     それでもなお高潔さを失わず。
     その唇が歌うように言の葉を紡ぐ。
    「僕の名前は斎宮宗。夢ノ咲学院の七不思議、二番目。『彷徨う人形師』だなんて不名誉な呼び名もあるがね」
     周囲のぬいぐるみたちが手を叩く。布と綿でできたその手から心地よい拍手の音は聞こえないが、彼という主を讃えていることはよくわかる。
    「そうだね……まず基本的なことを教えよう。そういった知識な抜け落ちていないからね」
     居住まいを正し。恐ろしく整った、まるで完成された演劇のような美しさをもって斎宮宗は口を開く。
    「この夢ノ咲学院に蔓延る幽霊は何かしらの『七不思議』の統治下にいる。それ以外の存在はありえない」
    「七不思議……」
    「ああ。君も噂くらいは聞いたことがあるだろう? この学院にある不気味な幽霊の噂。学校の七不思議。かくいう僕もそのニ番として存在する。僕の周りの欠陥品たちも、僕の眷属たる存在だ」
     歌うように。奏でるように。
     受け継がれた台詞を紡ぐように、彼は真実を語る。
    「かつてこの学院には様々な幽霊や怪異と呼ばれる存在がいた。それこそ、手がつけられないくらいにね。人間に害を為す存在が増えすぎたため、僕たち七不思議がすべての霊を監視下におき、従える。いつしかそういう仕組みができあがったのだよ」
    「じゃあ……」
    「君が過去を探しているという幽霊も、どこかの七不思議が掌握しているはずだ。生前のことも、どうして死んだのかも」
     気付けば。
     真緒の手のひらには汗が滲んでいた。
     ようやく掴んだ零の手掛かり。
    「すべての七不思議をあたっていけば、必ず誰かがれいちゃんのことを知っているはず……!」
    「そういうことだね。ああもちろん、僕はその『零』という幽霊のことは知らないよ。記憶が抜け落ちているとはいえ、自分の一部みたいな幽霊のことは忘れられないからね」
    「ありがとうございます! 助かりました!」
     七不思議。
     この学院を束ねる七人の怪異。
     数えきれないほどの小さな霊の噂は追いきれないが、七不思議に関しては真緒にも追う手掛かりはある。かつての新聞部が残した大量の記事の中に、七不思議について書かれたものはいくつもある。
     希望が見えた。零の過去がわかるかもしれない。
     けれどやることはたくさんある。まずは新聞部の記事をもう一度洗い直して、七不思議に関する内容を精査して——。
     今やるべきことが明確に判明した興奮。改めて感謝を伝え立ち去ろうとする真緒に、宗は思い出したように口を開いた。
    「ああ、七不思議について嗅ぎ回るのは構わないが——絶対に、絶対に守って欲しいことがある」
     ひびきわたる。
     宗はそう言った。なんのことか分からず振り返る真緒に、彼はティーカップを持ち上げた。
    「【譌・縲ィケ貂】……ああ、こう言っても伝わらないね。七不思議の一番、『薔薇園の道化師』にだけは、決して近づいてはいけないよ」
     彼は最も危険な七不思議だからね。
     くすくす、くすくす。
     今まで沈黙を守っていたぬいぐるみたちが突如笑い出す。
     あはは、あはははは。

     七不思議の一番。『薔薇園の道化師』。
     愛を失ったかわいそうな子。愛を知った哀れな怪物。
     きゃははは、うふふふふ、あははははははははあああはははは、は。

    「こら、喧しいよ。……お客さまのお帰りだ、校門まで見送って差し上げなさい」
    「……いえ、大丈夫です。ひとりで、帰れますから……」
     体の一部がもげたぬいぐるみたちが、今までより一層不気味に見えた。




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