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    mikutakumitsu

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    mikutakumitsu

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    隊長生存ifだし乱文だしめちゃくちゃだし

    暗闇の中、2人の男の息遣いだけが朧げに響いていた。1人はもう動けないようで、地面に伏して虚な目をしていた。
    「……見事、だ」
    呼吸も細くなっている。もう死ぬ。
    ふと、この男のことを考えた。任務のためだけに生まれ、自由に生きることもないまま、苦しんで死んでいく。本人は、そんな自分の人生に疑問を持つことも、抗うこともしない。そもそも、そのような感情を持つことすらないように設計されている。彼もまた、オオガミの犠牲者の1人なのかもしれない。
    ――途端に、トドメを刺すのが嫌になった。相手に情を持つな、と何度もこの男に言われた。とことん甘いと自覚はしている。彼は戦士として死にたがっている。なのに、まだ助かると判断したら、その身体を抱え上げてしまっていた。力の抜けた男の身体は、疲労が濃く残る手脚には些か堪えた。一歩踏み締めるたび、指に、服に、生暖かいものが滲んでいくのがわかる。なんとか車まで辿り着き、汚れるのも構わず男の身体を詰め込んだ。これ以上怪我をしないように、後部座席ではなく助手席に座らせ、ぐらりと倒れそうになるのをシートベルトで固定する。頭はどうしても安定しないから、自分の肩に凭れかけさせた。
    エンジンを入れ、アクセルを踏む。ライトに照らされている道が、やけに長く、曲がりくねったように思えた。

    車を走らせて駆け込んだのは闇医者だった。金さえ払えばどんな極悪人でも治療する、物好きな連中。小波も何度か世話になった、腕のいい医者だ。
    「何したんだ。こんな派手な怪我、死ぬぞこいつ」
    灰原を一目見て、医者が深く眉を顰めたのが分かった。小波は深くため息をついて続ける。
    「金なら払う」
    漸く、医者は動き始めた。ハサミで濃紺のスーツを躊躇いもなく切り裂いていく。その様子を見て、小波はふと、灰原の鎖骨を見たことがないことに気付いた。いつでも、ネクタイを緩めることなくきっちりと着込んでいた。夏でもそうだ。現場での指揮が多い彼は、外で活動することも少なくなかった。だが、どんなに蒸し暑い熱帯夜でも、彼は決してそのスーツを脱ぐことはなかった。その度に暑くないのか疑問に思ったものだ。
    灰原の身体は、逞しいものだった。だが、肌にうっすらと浮いている肋骨は、小波のものよりは細身だと思わせる。しかし、何発も弾丸を喰らわせても動いていたのは何故なのか…
    皮膚の抉れた腹が露わになる。医者が銃創に指を突っ込んで、弾丸を抜き取らんとする。
    「こりゃすげえ。皮膚の一個下に何かついてる」
    「…なんだ?」
    「薄い鉄のようななにかだ。出血が少ないのはこれのせいか」
    灰原はやはり指揮官向けのアンドロイドなのだと実感した。正面を張って戦うよう作られていない。そのおかげで、白瀬との戦いよりも、幾許か楽だったのだが。
    治療は思ったよりも早く終わった。医者は清潔な包帯で灰原の身体の至る箇所をぐるぐる巻きにして、とっとと小波に引き渡してきた。あとは自然に目覚めるだろうという医者の言葉と、灰原の規則正しい呼吸で、小波はようやく生きた心地がした。

    灰原は、人目のつかない地下の部屋に軟禁することにした。こういうとき、人伝てに部屋を借りられるのはいいところだ。用意がいいことに、ベッドと机、小さな冷蔵庫とバスルームが完備されていた。住むのに不自由はしないだろう。ベッドに丁寧に寝かせ、痛み止めと化膿止めを机に置いた。麻酔が効いているのか、呼吸は未だ深く規則的だった。麻酔が切れると、酷い痛みが彼の身体を蝕むだろう。
    一息ついて彼の眠るベッドの端に腰を下ろした。これからどうしよう。生かしたところで、この男はきっと自死を選ぶ。いや、巻き込んで自爆か、捨て身の覚悟で殺しにかかってくるか、碌なことにならないはずだ。生きてほしいというのは、あの時の一瞬の衝動から成ったエゴである。
    サイボーグたちのただならぬ反応を見る度、どれだけ彼らのいた研究所が酷い場所だったのか、思いを馳せた。その中で灰原は突出して無感情で、欲のない男だった。自分の置かれている環境のせいで狂っていたのかもしれない。
    「…あんたは自由なのに」

    ――自分と瓜二つの顔が、小さな子供をあやしている。知らない子供だ。身体のどこかしこも柔らかそうで、無骨な男の手にはちっとも似合わない。
    「誰だ?」
    「この子か?娘だが」
    顔だけでなく、声も態度もそっくりだった。こちらには目もくれず、ぐずぐず泣いている子供の機嫌をとっている。
    改めて、子供の顔を見た。赤みを帯びた茶髪といい、碧眼といい、血の繋がった娘には見えない。
    「似ていない」
    「そうだ。俺の子ではないからな」
    初めて、男がこちらを見た。鏡を見ているようだった。吸い込まれるような黄金の瞳だけが、自分と違う。
    「抱えてみろ」
    断る間も無く、ふくふくとした赤子が腕に渡る。喃語で何かを訴える小さないのちは、見ているだけで気が緩む。
    「暖かいだろう」
    こちらが言葉を発する前に、目の前の男が言った。なんという、慈愛に満ちた、――間抜けな面なのだろうか。この時ばかりは、自分の顔と同じには見えなかった。
    「落としてしまいそうだ、返す」
    「ああ、そうか。わかった」
    手慣れた手つきで男が赤子を抱きしめた。こちらの手から離れた途端、赤子は更にくずりはじめた。その様子を見て、男は鼻を鳴らす。
    「…困ったな、お前がいいみたいだ。だがもう行け。戻れなくなる」
    「どこに?」
    答えは返ってこなかった。男はだんまりのまま、赤子を片手で持ち上げて、俺の背を押した。ぐわ、と押し寄せてきたのは地面ではなく、闇だった。あっという間にぬばたまの黒に飲み込まれる。転んだが、痛みはなかった。立ち上がって振り向いても、あの男や赤子はいなかった。声を上げて呼ぼうとしたら、喉が渇きに渇いていて、一音すら出せなかった。段々、不快な痛みが闇よりも早く身体を襲った。立っていられない、遂には息もできなくなる。己の無力さを感じながら、痛みや苦しみに喘ぐだけで、半刻過ぎただろうか。ふと、誰もいない真っ暗闇から、どこからともなく声が聞こえてきた。その声を聞いた途端、ぐわ、と身体が持ち上がるような感覚がした。闇から、抜け出せた。

    「――…う、ぐ、」
    翌日の夜、漸く灰原の意識が戻り始めた。しかし、痛みが強いのか、中々覚醒することはない。白いシーツの波が荒くなる。呼吸も危うくなってきたので、起こそうと試みる。
    「隊長」
    小波の呼びかけに、灰原が薄らと目を開けた。彼の眼をこんなに近くで見るのは初めてかもしれない。磨かれた宝石の様に、つるんとした赤だ。その眼が、段々と瞳孔を小さくして、大きく見開かれる。さながら猫の如き鋭利さすら秘めていた。
    「…小波…?」
    「よかった。魘されていましたよ」
    「………」
    どうやら自分の置かれている状況が理解できないようだった。いつもの彼らしくもなく、明らかに動揺している。小波は波風を立てぬよう、慎重に受け答えすることにした。
    「諸事情あってあなたを助けました。ここがどこかは教えられませんが、暫くはここで療養していて下さい」
    灰原の顔から、みるみる表情が消えた。能面のように青白い肌と相まって、ひどく不気味に見える。
    「何故、お前は」
    「あんたはオオガミの被害者でもある。助けたのは、俺の判断だ」
    「被害者?CCRを取り仕切っていたのも俺の意思であり、強制などされていない」
    そう言うと、灰原はその体に力を込めて起きあがろうとしていた。小波が慌てて支えようとするが、その手を払い除けて、
    「触るな」
    と怒気を孕んだ口調で吐き捨てた。案の定、灰原は1人で起き上がることもできなかった。傷、鈍り、貧血と、肉体が散々なことになっているのだから当たり前だ。それでも、灰原は起きあがろうとした。
    この男は非常に頑固なところがある。自身の意見が合っていると思えば、梃子でも動かない。自分の進むべき道を、躊躇いもなく進むのだ。例え、どんな不利な状況に立っていようとも。
    灰原の額に、じわりと汗が滲んでいるのが観て取れた。身体を動かすことが相当な無茶であるらしい。このままだと傷口が開きかねない。小波は軽く肩を押して灰原をベッドに引き戻した。
    「大丈夫、あんたには何もしませんよ。その怪我が治ったら、どこへなりとも行ってくれてかまいません」
    灰原は本気で困惑しているようだった。ベッドに押し倒されたまま、何も言わずに黙り込んでいる。何を喋ればいいのか、悩んでいるのかもしれない。
    やがて、おずおずと灰原が口を開いた。
    「元より、帰る場所はもうない」
    「なら」
    「やめてくれ、もう役目は終わった。だが、自分で刀を握れるようになるまでは、お前の偽善に付き合ってやる」
    それが敗者の罰ならば、と灰原は付け加えた。どこまでも、律儀だ。せっかく拾った命を、すぐ捨てようとする。でも仕方がないと小波は思った。それが彼にとっての自由ならば。止める権利もない。

     かくして、小波と灰原の奇妙な生活が始まった
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    mikutakumitsu

    MAIKING隊長生存ifだし乱文だしめちゃくちゃだし
    暗闇の中、2人の男の息遣いだけが朧げに響いていた。1人はもう動けないようで、地面に伏して虚な目をしていた。
    「……見事、だ」
    呼吸も細くなっている。もう死ぬ。
    ふと、この男のことを考えた。任務のためだけに生まれ、自由に生きることもないまま、苦しんで死んでいく。本人は、そんな自分の人生に疑問を持つことも、抗うこともしない。そもそも、そのような感情を持つことすらないように設計されている。彼もまた、オオガミの犠牲者の1人なのかもしれない。
    ――途端に、トドメを刺すのが嫌になった。相手に情を持つな、と何度もこの男に言われた。とことん甘いと自覚はしている。彼は戦士として死にたがっている。なのに、まだ助かると判断したら、その身体を抱え上げてしまっていた。力の抜けた男の身体は、疲労が濃く残る手脚には些か堪えた。一歩踏み締めるたび、指に、服に、生暖かいものが滲んでいくのがわかる。なんとか車まで辿り着き、汚れるのも構わず男の身体を詰め込んだ。これ以上怪我をしないように、後部座席ではなく助手席に座らせ、ぐらりと倒れそうになるのをシートベルトで固定する。頭はどうしても安定しないから、自分の肩に凭れかけさせた。
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