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    #刀神
    knifeGod

    序章【キッカケは迷子探し】 緋鍔局での会議を終えた酔仙は、待ち合わせ場所に今から向かうと別行動していたバディに連絡を入れる。
     端末から顔を上げると、深緑色の服を着た茶髪の少年が何やら考え込んでいるのが見えた。どうやら困っているらしい。

    「どうかしましたか?」
    「あっ、えぇとその、外に待たせていたバディの姿がなくて…」

     面識はないが、頭に叩き込んでいる人物リストにはしっかりと入っている。
     遍帯智。十八歳の伍段だ。探しているバディは凛威天封鉤爪剣(リンカイテンホウカギヅメノツルギ)。桃色のツインテールと狼の耳と尻尾が特徴だったはず。

    「奇遇ですね。私もこの後バディと合流する予定なんです。折角ですし、一緒に探しませんか?」
    「本当ですかありがとうございます!」
    「私は参段の四月一日(わたぬき)酔仙です」
    「伍段の遍帯智です」

     親睦の握手を交わし、着信。酔仙の端末だ。
     海狸からのメールには『まってるね!』の短い文と写真が添付されている。ついでに彼のバディが映り込んでいたら話が早いんだけどなー、と思いながらファイルを開いて、見間違いかと目を擦った。

     薄茶色のくるくるした髪と、季節にそぐわないマフラーを着けるバディ。それは良い。いつも通り可愛い。珍しくケモ耳状態なのもポイントが高い。だが問題はその隣だ。
     見覚えのない桃色のツインテールのケモ耳少女。仲良さげなツーショットは、とてもとても目の保養だけれども。

    「見つかるまでが早ぁい」

     思わず入れてしまったツッコミは、写真を共有する代わりに忘れて欲しい。



    「えっ、四月一日さん僕のこと知ってたんですか」
    「新人の顔と名前は一通り把握しているだけだよ」

     バディのもとへ向かう道すがら世間話で打ち解けた後、なぜ容姿の説明もなしに写真に映った少女が凛だと分かったのかと聞かれた酔仙は、隠すことでもないと正直に答える。
     新人で、昇段試験に参加し、緋鍔局に最近入ってきた若手の刀遣い。特にここ数年の新人の顔は刀遣いだけに限らず天照職員に至るまで一通り目を通しているから、早くもバディを得て、かつ向上心のある遍のことは良く覚えていた。

    「恩人を師に持ち、試験には落ちても刀神に認められた若手のホープ。負かされた相手に教えを乞える冷静さ。実力はまぁ、若さの観点から見て将来に期待。っていうのが、手元に入ってきた情報かな」

     違っていたら訂正をどうぞ、と小首をかしげる酔仙に、訂正点などないと遍は感嘆の声を漏らす。

    「凄いです!一体どうやってそんな正確な情報を?」
    「顔が広いだけ。大したことじゃないわ」

     他の試験参加者か、試験官か。もしかしたらその両方かもしれない。誰かが聞いて回っていた、なんて噂も聞いたことがないし、何より自分は四月一日と初対面なのだから、関係者に直接聞き出した訳ではないはずだ。
     何より、広大であろう情報網から得られる情報をどうやって精査しているのか、想像もできなかった。

    「さて、カイとの待ち合わせはこの辺りなんだけど…」

     話しているうちに到着したが、見渡してもバディたちの姿が見えない。まさか待ちきれず動いてしまったのかと心配する二人の背後に二つの影が近づき、そして──

    「っわ!」「っわぁ」
    「うわぁっ」「ヴァッ」

     前触れなく飛びついた。

    「えへへ、びっくりした?あるじ」
    「びっくりしたぁ…お待たせ、カイ」
    「んふふ、いーよ!友だちできたから!」
    「初めまして、凛は凛だ!それより遅いぞあるじ!凛は腹が減ったぞ!」
    「わわっ、ごめん…って!そ、その前に退いて!」

     八つ当たり気味にぎゅうと強く抱きつかれ、背中に当たる柔らかい感触に遍は焦って離れようとする。しかしそれを不服に思った凛は更に腕の力を強め、寧ろ自分を追い詰める結果となってしまった。
     側から見れば愉快な構図と言えども、青少年には流石に酷だ。これまた立派な腹の虫を鳴り響かせる小さいバディも「おなかすいた!」と声には出さずとも視線の熱量がすごい。

    「今日の食堂日替わり定食はハンバーグ定食です、食べたい人!」
    「ハンバーグ食べる!食べたいぞ!」
    「ボクカレーがいい!」
    「はいはい。遍くん、それで大丈夫?」
    「は、はい…!ありがとうございます」

     そうと決まれば我先にと駆け出そうとするケモ耳少女たちの襟首を掴み止める。どんなに暴れても一ミリも体幹にブレを生じさせなかった姿は、完全に飼い主のようだったと、後に遍は語った。



     一口大に切り分けたハンバーグ。口に入れた瞬間のデミグラスの深い味わいと、噛む度にじゅわっと溢れる肉汁に、ご飯をかきこまずにはいられない。添えてあるにんじんのグラッセは子どもが嫌う特有のえぐみが一切なく甘みが引き立たされており、サラダによって口内の油分はサッパリできる。

    「やっぱりハンバーグよ。そしてデミグラス。和風ソースもおろしも捨て難いけど、ご飯に合うのはどう考えてもデミグラス」
    「おいしかったらぜんぶ好き!」
    「オレは肉がいい!」
    「飲み物はコーラですよね!」
    「全くもってその通り。美味しいものは若いうちに食べるべき。私は全盛期から焼肉食べ放題で三皿減ったわ。あの時はカルビを多く頼み過ぎた気はするけど」

     それが原因では?というツッコミはさておき。折角参段と話ができるチャンスを逃す手はない。

    「あの、四月一日さん。さっきの会議の話なんですが…」
    「なにかしら?」
    「貴女が議題の一つに挙げていた『天照が保有してる妖魔出現傾向調査記録の強奪を狙っている組織』についてです。大きな問題では無いと仰っていましたが、天照の情報が狙われている事自体は問題なのでは?」

     今回の会議で上がった問題は複数あったが、その中でも最も小さく優先度も低いとされたのがこれだ。
     確かに他と比べれば小さく、後回しにするのも理解できる。だが機密とされている天照の情報を狙う組織への危機感があまりにも低いんじゃ無いかと、遍の視点では思わずにはいられない。

    「重要視されていない理由は二つ。一つは、そもそもこの情報自体の重要性、機密性の低さ。目撃情報や傾向はテレビ局も独自に記録しているし、個人が独自に調べることもできる。ま、それ以上の記録を天照が保管しているのは事実だけれどね」
    「だったら──」
    「もう一つの理由は、私が持ち出す問題は全て小さいものだから。報告を挙げるだけなのは最早通例なのよ」
    「え?」
    「私は一応参段ではいるけれど、対妖魔への実力で言うと下の下。肆段と比べた方がいい勝負が出来る程度しかないの。だから必然的に取り上げる問題は対人関係が多く、かつ小さいものになってしまうから」

     自身の実力が劣っていることを理解しているからこそ、酔仙はチームを組んで取り掛かるべき問題ではなく、どちらかと言えば少人数で、かつ話術による交渉で解決できるものだけを選んで請け負っている。大きな問題を見つけた時は他の信頼できる実力者に任せることが殆どだ。
     特に今回は構成員自体たった十人足らずで、その全員が一般人に毛が生えた程度の武力しか持っていないことも確認している。

    「と言っても、もし十人を一度に相手取らなきゃいけないとなると流石にね……」

     酔仙の視線が遍の方へ向く。長時間視線が交わったことへの戸惑いで視線をずらしかけた時、「手伝ってもらえる?」と願ってもない言葉がかけられた。

    「いっ、いいんですか?僕が参加しても…」
    「寧ろこっちがお願いする立場よ?組織の拠点に侵入して情報収集する予定が一週間後にあるから、もしやる気があれば前日までに連絡してくれれば」
    「いえ、是非ご一緒させてください!」

     考えるそぶりもない食い気味の即答に思わず苦笑が漏れる。助手という立場であるはずなのに、相談もなしに独断で決めて良いのかと返せば、冷静さを取り戻したようでわかりやすく肩を落としていた。

    「まあまあ、だから前日までに連絡をとお願いしたのよ。他に手伝ってくれる人が居れば、連れてきてくれると嬉しいわ」
    「! はい!」

     喜色満面の笑みに微笑みを返し、食事を終えた四人はそれぞれ次の予定に向かった。
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