かわいいヤツ「お前ってさぁ、そんな感じなのにかわいいって言われんの怒らねぇよな」
なんで? と特に答えは期待していないのが丸わかりの調子で疑問を投げかけたディアッカに、アイスワインのグラスを口に運びかけていたイザークが片眉を上げてグラスを元の位置に戻す。
「何だ急に。そんなことそう言われないぞ? というか、そんな感じってどんな感じだ」
「言うじゃん、俺が。そんな感じってのはまあ……ツンツントゲトゲしてる感じっていうか、見た目褒めたらすげぇ睨んで怒鳴ってきそうな感じっていうか」
「社交辞令でも世辞でもないとわかれば、別に睨みも怒鳴りもしない。容姿に関しては両親から受け継いだものだというのもあるが、何かしら褒められることがあればこれまでも簡単な礼くらいは言ってきたぞ」
意外にもちゃんと答えてくれたイザークは改めてワイングラスを手に取って、ほんの少しだけ飲むとまたすぐに元の位置にそれを戻す。
戦争が始まって以降随分長く帰港できていなかったから、今日は久し振りに二人きりで食事ができて嬉しかった。核の発射を国民に知らせなかったことで評議会と軍への批判が高まる中での外食は難しく、食事会場はディセンベル市にあるイザークの官舎になってしまったが、道中色々買い込んできたのは正解だった。フリーズ食品とワインだけで、ちょっとしたフレンチのフルコースが食べられるのはいい。何より、こんなデートみたいな食事内容をイザークが拒否しなかったのがいい。
「……それから、」
「うん?」
どうやら、ディアッカの質問に対するイザークの回答はまだ続いていたらしい。今度はディアッカが、最後の一口を飲んでしまおうと持ち上げたワイングラスを置く番だった。
「確かにお前は偶にかわいいだのと言ってくるが、あれは何となく容姿を指すニュアンスじゃない気がしてる」
「あー……」
「悪い意味で言われているわけではないというのはまあ、わかる。だから、オレ相手に何を言うんだと思ってはいるが、正確な意味を判別できるまで文句は一旦保留にしているところだ」
流石に見た目の話じゃないのはバレていたらしい。容姿がずば抜けて良い相手だからどうせ言われ慣れている言葉だろうと、やたらと連呼していた自分が今更になって恥ずかしい。
だって、他に適切な言葉が思い浮かばないんだから仕方ない。
「好き」の代用なんて。
イザークは軍人らしく食事そのものを片付けるスピードは早いけど、二人で食事をした時の食後のワインだけは極端にゆっくりと飲む。ディアッカが先に飲み終わってしまうと、少しだけ恨めしそうに見てくる。
もしかして一緒に居る時間を引き延ばしたいと思ってくれているのでは、と気づき始めてからは、ちびちびとワインの量を減らしていく様を眺めているのも楽しくなった。
今日は食事が終わっても一緒に居るのに……と思って見ていたら目が合って、少し気まずそうにすぐ逸らされてしまった。
もしかして、朝までずっと一緒だから意識しているとか? この後の時間のことを考えて、気持ちを落ち着けている真っ最中だったりして? 想像するだけでニヤけてしまって、まずい。
「やっぱ、かわいいよ。お前さ」
つい零れてしまった本音に、言われた本人はテーブルの下でこちらの脛を軽く蹴ることで応えてきた。
ほんと、かわいいヤツ。