To My Dear 「…という事があってだな 」
イザークはソファーに腰を掛けながら日中に起きた指輪騒動の顛末を、隣に座る同居人兼恋人であるディアッカに話した。
「ははっ!何?そんなおもしれー事があったの?俺もその場にいればよかったな〜 」
「笑い事ではないわ馬鹿者!…オレは明日からどうシホと顔を合わせればいいんだ… 」
イザークの慌てた姿を想像して思わず吹き出してしまったディアッカに対して、当の本人は頭を抱えて苦悩していた。
戦場ではあんなに頭が切れるのにイザークは変な所で鈍感だよな、と思う。
シホはイザークの事を慕っている。参謀本部勤務に転属してもついてきてくれている事からもそれは誰の目にも明らかだ。
敬愛を通り越してLOVEの方なのでは?とディアッカは訝しみ、一度本人に聞いてみたことがあるが「私はジュール隊長と共に平和を築きたいだけです!勘違いしないで下さい!」とこっぴどく叱られたのはここだけの秘密である。
「まぁまぁ。シホは味方になってくれるって言ってたんだろ?アイツがお前の事嫌いになるわけないんだし、普段通りでいいんじゃねーの 」
尚も思い悩んでいる恋人に、ディアッカはそっと頭を撫でながら諭す。
指通りの良い銀糸を混ぜていると、やめろ馬鹿者と普段より覇気のない声で悪態を付かれた。
「ていうかさ、なんで今回は指輪を落としちまったんだよ?いつも首にかけてるだろ?」
そう、普段イザークは指輪をチェーンに通して首に下げるようにしている。
イザークを良からぬ目でみている者達への牽制も兼ねて常に指に嵌めて欲しい気持ちもあるが、それをエザリア見られる又は彼女の耳に入ったりでもしたら…碌でも無い事になるのは想像に難くない。
なので指につけるのはこの家の中くらいである。
家に帰ってからイザークの指に指輪を嵌めるのはディアッカの役目なのだが、毎回つけた後に数秒間じっと嵌めた指を見つめるイザークのいじらしさにキュンとしてしまうのはこれまたここだけの秘密である。
「あぁ、それはだな…チェーンの留め具が壊れてしまったんだ 」
イザークはズボンのポケットから件のチェーンを取り出して見せてくれた。
銀色のチェーンの先についている引き輪は劣化の為か開きっぱなしとなっていた。
「指輪を買った時からずっと使ってたしな〜。形あるものはいつか壊れるって言うし、仕方ねぇって。明日のデートの時にでも新しいヤツ買いに行こうぜ 」
「買 い 出 し だ!言葉を違えるな馬鹿者!」
先程まで頭を抱えていた癖にこんな時に限って即座に噛みつくのは如何なものか?とディアッカは思った。まぁ、そんな所もイザークらしくて好きなのだが。
「えー?俺はお前と一緒に出かける時はいつもデートだって思ってたんだけど、イザークは違ったの?」
冗談交じりの喋り方になってしまったがこれは本音。
公私混同はしないとお互いに決めているので、仕事中は触れ合えない分オフでイザークと出掛けるのであれば、例えトイレットペーパー1つを買いにいくのだってデートだと胸を張って言える。
「…ッそ、れは…その…」
「イザ―ク?」
イザークの頬は林檎のように真っ赤になっていた。
美味しそうに染まっていて食べてしまいまいと思ってしまったが、イザークの返事が聞きたいのでディアッカは辛抱強く待つことにした。
素直な気持ちを聞かせてほしい。ディアッカはイザークの左手に自分の右手の指を絡めて恋人繋ぎの形をとった。
繋いだお互いの薬指には金色と銀色の対となる指輪がキラリと光る。
甘えるような仕草をする恋人の姿についにイザークが折れた。
「…デートというなら、エスコートはしてくれるんだろうな?」
「勿論。お前の最高の恋人がとびっきりのエスコートをしてやるよ」
明日のデート、楽しもうな。
そう言わんばかりにディアッカはイザークの唇に口づけを贈った。
To My Dear
(愛しき君へ)
(ところで我慢できないからここでイイことしねぇ?)
(…加減するなら許す)