無法の魔界にも、監獄は存在する。魔王によって審判を下されるにしても、大抵はその場で斬首の刑に処されるか、無罪放免となるかのどちらかで、そこに収監されるのは、よっぽどの大罪を犯した悪魔だけ。
そして今現在、その監獄に『暮らしている』のは、次の魔王になるとまで噂された強力な悪魔と、その命を狙っている中級程度の悪魔が数百、そしてそれらを監視する唯一無二の看守。——それだけだった。
大罪人『朔間零』。その名を一度も耳にしたことのない悪魔など、そうは居ないだろう。月の名を持つ悪魔は、それだけ強い力が備わっている。その中でも朔——新月を意味する名は最も数が少なく、零を含めたったの三人だけだ。一人は魔界の何処かでひっそりと暮らし、一人は人間界でふらふらとしているらしい。つまり、当代の魔王に逆らい大罪人の烙印を押されて収監された朔間零以外、誰もその居場所を知らなかった。
1278