風景 四 居間に敷いた布団の中から、くぐもった声で何か言い合っているのが聞こえる。喧嘩はあまりして欲しくはない……が、二人とも眠たそうな声で、その合間には笑い声も混じっている。なんてことはない眠る前のお喋りだ。自分の名前も、時々聞こえる。
「自分も入れてくれ」
声を掛けると、掛け布団の端から漣とタケルが顔を出した。眩しそうに目を細めて、自分を見上げている。
「おせぇ」
「待っててくれたのか?」
ふん、と漣が鼻を鳴らして布団の中にもぞもぞと潜って戻る。
そこは自分の布団だぞ、と声を掛けるともう一度鼻を鳴らしているのが掛け布団の下から聞こえたが、タケルはもちろん漣も少し動いて自分が入る隙間を作ってくれた。そこに足を入れて腰を下ろす。
二人が入っていた自分の布団は温まっていてぽかぽかだ。ということはそこから自分が追い出してしまった二人は冷たいシーツの方に行ってしまったわけだ。そう思うと思わず傍らのタケルを抱き寄せ、膝の上に頭を乗せる。反対側の漣にもと思って手を伸ばしたら、掛け布団の中から腕にしがみついてきて、その釣られた魚のような状態のまま何も言わずとも自分の膝に額を乗せた。
「何の話、してたんだ」
「大したことじゃねぇ。明日の、朝飯のこととか……」
「らーめん屋がさっきから台所でコソコソ準備してんだろ」
「はは、バレてたか。アスランに聞いた新レシピを試そうと思ってな、その仕込みだ。手間はかかるが間違いなく旨いぞ! 明日の朝飯はお楽しみだ」
「明日の朝か……今から腹減った」
「マズいもん出しやがったらショーチしねーからな」
いつもとかわらない、なんてことはない眠る前のお喋りは話題が尽きない。だけど自分を見上げる二人の目は眠たそうだ。膝に伝わるそのぽかぽかの体温が、自分にも眠気を誘ってくる。
「待っててくれてありがとうな」
眠い目を瞬かせるタケルの頬をくすぐると、それを合図にタケルは少し身体を起こしてこちらに額を近づけた。
「おやすみ」
と、キスをする。額にだ。キスを待つために目を閉じていたタケルはもううとうとし始めたようで、自分が唇を離すとどうにか目を開きながら「おやすみ、円城寺さん」と少し恥ずかしそうに呟いて、とけた猫のように布団に身体を沈めていった。
「漣?」
「フン」
呼ぶとまた鼻を鳴らして、自分の膝から逃げていく。いらないのか、と思いきやそのまま隣で仰向けに寝転がって、目と口をきゅっと閉じて無防備に待っている。
……拗ねているらしい。そういえば、遅いと怒られたな。
「漣も、おやすみ」
きゅっと閉じた唇を尖らせた漣の前髪を指でかき分けて、そこにキスをする。こわばった顔が触れた瞬間ぴくっと動いた。
それからようやく自分も二人の間で布団の中に潜り込む。