一番いい場所「しまった。あれを忘れてた」
さあ電気を消して寝ようか、という瞬間に急に思い出して布団を出た。タケルが「え」と呟いた。漣は、「ハァ?」だって。二人ほとんど同時に。
あれ、っていうのはあれだ。大した用事じゃない。しかし寝る前に片付けておかないと、明日朝起きてからだと……。ともかく大したことじゃない。布団を出て、台所に立ってやり残したことをすべて片付けた。ものの十分ぐらいだ。それでも罪悪感をたっぷり抱えて、再び寝室に戻った。
だってさっきの二人の一言、寂しそうだったじゃないか。まあ、一言というか一声、たったそれだけだったし、寂しいったって別にドアを挟んですぐそこにいるんだし、そもそも自分の自惚れが大げさに感じさせているというのは大いに否めないが、あの反応がかわいくてたまらなくて。
そんなわけでいそいそと寝室に戻った。まだ電気は消していない。三つ並んだ布団の真ん中に戻る。自分が起きたときのまま、そこは空席になっている。……はずなんだが、なんだか膨らんでいるな。しかも、二人分ぐらいに。
そっと布団の端に手をかけてめくった。それだけで布団にうつった二人の体温が感じられて、こっちまで暖かくなれた。
「ん。……円城寺さん」
「さみぃ。眩しい!」
既にうとうとしはじめていたらしい二人の目が自分を見上げていた。あっという間に自分は布団を取られてしまっていたようだ。でも……そうして待っていてくれたってことだろう。二人は眠気をこらえるように、瞬きして自分をじっと見る。
「今日、寒いもんなぁ。はは、お前さんたち、猫みたいだ」
「あ……いや、別に寒いからコイツとくっついてたってわけじゃ……」
「このオレ様が一番いい場所を使ってやってただけだ! むしろらーめん屋はオレ様にこの場所を使ってもらえたことを感謝しろ」
「布団、どれも一緒じゃないか?」
「いいや……ここ、円城寺さんの体温が残ってて、あったかかった」
「フン。……待たせやがって」
「すぐ戻るつもりだったんだ。ごめんな」
順番に顔を覗き込んで、頭を撫でる。二人とも頭まで布団をかぶって寝ていたからか、ほかほかにあたたまっている。となるといつまでもこのまま布団をめくってちゃ悪い。自分も早く寝ないと。
しかし……。
「あ、悪い、円城寺さん……。ここ入るか?」
「らーめん屋がどうしてもってオネガイするなら真ん中に入れてやってもいいぜェ」
とは言うけど、入る場所があるようには見えないが……。二人、本当に猫のように身を寄せ合って布団の中で丸まっている。きっと当人たちとしては寒いから仕方がなく、と言うのだろうが。
「ちなみに漣、自分はどうお願いしたら入れてもらえるんだ?」
「アン? ンなの決まって……その……寝る前のォ……」
「円城寺さん、俺もそれが欲しい」
「ああ、そうだ。そういえばそれもまだだったな」
「そういえばァ……?」
ムッと口を尖らせた漣がもぞもぞしてタケルの首元へおでこを押し当てて、赤くなった顔を隠そうとした。それは照れてるのか怒っているのか、どっちだろうな。タケルは「しょうがないな」なんて言って笑ってる。
それにしてもそうくっつかれると、どこにキスしようかも迷うな。いつもはおでこ、なんだが……。