修理の話 ガタンガタンと容赦なく車両が揺れる。昔の物資輸送用の鉄道を再利用しているらしいから、文字通り線路も車両もガタガタだ。そのうちひっくり返るんじゃないかってぐらい。大きく開いた傷口を覗き込むと、中の部品も揺れている。
揺れと一緒にネジの一つや二つ、吹っ飛んでいきそう。
「そんなに心配するな」
「してないよ」
「そうかよ」
なんて相槌を打ちながら、レッドは苦々しく顔を歪めた。
車両の壁に寄っかかって横たわったレッドは、さっきから短い会話と苦い顔しかしていない。傷が痛いってわけじゃないだろう。多分。いつも、このくらいで痛いとかなんとか言うことはないし。この傷はいつもと同じくらいの、大したことのない破損のはず。多分そう。
だけどそれにしても、もう少し安静にできないかな。レッドが悪いんじゃなくて、この列車が悪い。怪我人を運ぶのに向いてない。
「あとどのくらいで着く?」
「五時間……てところだな。もしかしたらこれが駅に着く前に回収班が来るかも知れねえが」
「回収班? レッドアラートのみんなが迎えに来るって? いつの間にそんな信号送ってたの」
「戦闘中でもその程度の余裕はあったさ」
「ふーん。助け呼ぶぐらいだってんなら、やっぱ結構深い傷なんじゃないの」
お腹のとこに開いた大穴を覗き込む。どのくらいヤバいのかは見ただけじゃわかんない。レプリロイドの身体って、人それぞれだし。特にボクは自分自身の身体が他のレプリロイドとはかなり違うから、基準がよくわからないんだよね。メカニックでもないから他の人の身体いじることないし。
「心配はいらない」
「む」
いつの間にかのめり込むようにして傷を見ていたボクの頭をレッドの手が押し返した。……と思ったら、違う。なんか頭、撫でられた。
「ホントにヤバい状態だったらこんな悠長に列車に乗って帰ったりしてねえよ」
「そーかな。うーん、やっぱボクが修理してあげよっか」
「フッ、ハハハッ。怖ぇこと言うなよ」
「笑うところじゃないよ! そりゃ修理とかはやったことないけど、実際やってみると意外といけるかもしれないし」
「やめてくれ、オレも命は惜しいんだ」
「ええー」
「ハッハハッ、笑いすぎて傷に、響く……。ハッハッハッハ」
「ボクは本気で言ってんだけどな! ……まあ、今いきなりってのは無謀かもしれないから、それは諦めてもいいよ。でもあとでメカニックにやり方習っとく」
「お前に細かい仕事なんかできるのかね。心配で気が気じゃねぇな」
「大丈夫大丈夫。やると決めたらちゃんと勉強するし練習するし」
「そしてオレを実験台にするんだろう」
「うん! ていうかレッドの修理の仕方を覚えるためなんだからそこは仕方ないよね」
「身の危険を感じるぜ」
まーた苦い顔をした。でもこれは痛いからでも苦しいからでもないってはっきりわかってるから、いいや。
それにしてもボクの話なんにもおかしいところないよね。二人で行動すること多いんだから、ボクがレッドの修理の仕方わかってた方が絶対お得だし、それを覚えるために当人に多少の犠牲を払ってもらうっていうのは……完璧な理屈だと思うな!