お昼どき こうして見ると、ヒト目を引くデザインだ。だけど同時に、すごく自然で、ごくありふれた姿だとも思える。こんなふうに街中にいても、ハンターベースでの打ち合わせ中でも、荒れ果てた戦場に立っていても。
「あれ?」
すぐにこっちに気付いて小さく手を振った。飾り気のない笑顔を浮かべた。手にしたトレーを慎重に水平に保ちながら、店の中のヒトビトに気を遣って避けてかわしながら、少し急足でこっちに来た。
「珍しいね」
なんて言いながらボクたちのテーブルにトレーを置く。それからハッとして、
「ここ、空いてるかな」
と尋ねた。
「大丈夫だよ、エックス」
「よかった。ありがとう」
そのやり取りを、ぼくの前に座っているゼロが視線だけ動かしてチラリと見る。
別にゼロはエックスのことを無視してなんにも言わなかったわけじゃなくて、ちょうどハンバーガーを食べようとして大口を開いた瞬間だっただけ……だと思う。
「こんなところでアクセルとゼロに会うなんて。よく来るのかい?」
「ボクは常連だよ。ゼロは……」
「普段は来ないだろう?」
「そうらしいね」
「ファーストフードよりエネルギーを直接タンクに流し込む方が更に効率的だって言うもんな」
「まあな」
と、デカい一口目を咀嚼し終えたゼロがうなずいた。普段こういう店に慣れてないから、バーガーの包装紙を剥がしてかぶりつくだけで結構苦労してたらしい。当人の見た目に反して。
「でもそれじゃ味気ないよ」
「ボクもそう思う。どうせ補給するならこんなふうに楽しんでやろうよ」
「アクセルが奢れとうるさいから来ただけだ」
「優しいじゃないか、ゼロ」
「そうでもないって。午前中にやってた賭けにボクが勝ったからさ。それでもゼロは渋々……」
「賭け? 二人とも、午前中の仕事はどうした」
「あ」
しまった。とんでもなく墓穴をほった。ボクとゼロは、無言で視線を交わす。話題を変えよう。うん、そうしよう。
「まあ、オレたちイレギュラーハンターが暇なのは悪いことじゃないが」
「ねー、ていうかエックスこそこういうところ来るのは意外だよ」
「いや……今日のように午前の仕事が長引いたときにはよく来る」
「うわ」
やぶ蛇だった。暇だったお前たちと違って……とまでは言わなかったけど。ゼロなんか全く喋んなくなっちゃったし。いや? またバーガーの包装紙と格闘してるだけか? 気を使ってるの、ボクだけ?
「じゃ、じゃあエックスも常連なんだね。ボクとは時間帯が別なだけで。ねえ、それって新メニュー?」
「ああ。アクセルはもう試したか?」
「ううん、まだ。おいしそうだね」
「二人とも食べてみるかい? 一口ずつなら」
「いいの?」
「俺とアクセルがそれぞれ齧ったらお前の分がなくなるだろう」
「いいさ、注文したはいいけど大きすぎる気がしてたんだ。それに流石にちょっとは残してくれるだろ?」
のほほん、とエックスが答える。よかった、さっきのお叱りモードは治まったみたいだ。
でも、反射的に喜んじゃったけど……こういうの、間接キスになるんじゃないの。
ボクと、エックスと、ゼロと……。
「先にもらうぞ」
「ちょっと待って、ゼロ。さっきから見てたら君は危なっかしいから」
とエックスはバーガーの包装紙を食べやすいように丁寧にはがしている。そんなエックスと、ゼロをボクは交互に見比べた。
「ボクはいいや。次に来たときに注文する」
「そうか?」
相変わらずのほほんと答え、バーガーをゼロに手渡すエックスと、特に疑問も持たずにそれを受け取るゼロ。
なんで部外者のボクだけが気を使ってるんだろ。