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    masasi9991

    @masasi9991

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    現パロハロウィンの久々綾

    ##久々綾

    ぶち壊しハロウィン 出会い頭に言うべき言葉は決まっている。そういう行事だから。
    「食べ物出してください」
    「は?」
     久々知先輩は非常に驚いているようだった。驚く意味がわからない。今日という日――つまりハロウィンという日にドアの前に恋人が現れたとして、やることは一つでは?
    「ちょっと待ってろ」
    「はい」
     玄関先に取り残されて先輩がアパートの中に引っ込むのを孤独に眺めた。ドアを開けっ放しにしてるのも悪いから、追いかけようじゃないか。こんな夜中にドアを開けたまにしてたら虫が入ってくる。先輩の部屋に蛾とかカメムシとかが。それは結構どうでもいい問題だけど、僕は先輩の家におじゃましに来たのだから家におじゃまする以外の選択肢などない。
     実際のところ狭い一人暮らしのアパートは追いかけるというほどの距離もなく、数歩で台所に立つ先輩の背中に追いついた。
    「鍵閉めてくれ」
    「はぁ」
     なんとこのアパートはオートロックが付いていない。かなり古い物件だということを忘れていた。
     別に久々知先輩がお金に困っているということは聞いたことはないが、なんとなくせせこましい節約家だということは実感として知っている。
     ドアまで追い返されて鍵を閉め、改めて振り返る……と今度は先輩が僕を追いかけて、廊下に立っている。まるで追い返されようとしているみたいで不満だ。
    「はい」
    「そういうのじゃないです」
     手渡されそうになったパック入りの豆腐を押し返す。冷蔵庫から出したてで非常に冷たい。それにパックに入っていても柔らかいので絶妙に気を使う。
    「食い物だろ」
    「どこの世界にハロウィンで豆腐を差し出してくる人間がいるんですか」
    「ハロウィン?」
    「ハロウィンですよ、今日。ネットとかテレビとか見ないんですか。どうせ課題ばっかりやってたんでしょう」
    「学生だからな」
     肩をすくめる先輩と豆腐を押し返しつつ、再び部屋に上がる。
    「駅前も学校も学生が仮装して大騒ぎしてましたけどね……。ていうかこれ三個パックのうちの一個じゃないですか。お菓子がないのはいいとしてわざわざそういうことします?」
    「一つはさっき晩飯で食ったんだ」
    「じゃああと一個あるのでは?」
    「人の家の豆腐を根こそぎ持っていこうとするなよ」
    「まあ先輩の家にお菓子がないのは調査済みですが」
     こういうイベントに疎いのはもちろん、普段から家にお菓子を常備しているような人ではないのももちろん知っている。昨日の時点で冷蔵庫他にはそれらしきものもなかったし。だから僕としては久々知先輩の反応に驚きも落胆も特にはない。
     ともかく部屋に押し入る。それが目的だ。押し付けられた豆腐のパックを部屋の真ん中の机の上に置いた。読みかけの参考書が置いてある以外はきれいに片付いている。夕食も食べ終わったと言っていたし、狙った通りいいタイミングだ。ここまでは想定通り。
    「どうしました、ただでさえ大きな目を丸くして」
     先輩が僕と壁とを交互に眺めている。たいへん訝しげな目。壁にカレンダーがかかっている。
    「ハロウィンって食べ物をたかる日じゃないだろ」
    「口に入れば皆同じとも言いますし」
    「そうじゃなくて、その……なんだっけ。決め台詞みたいなのがあるんじゃないか。そもそも喜八郎の格好……」
    「仮想してて欲しかったですか?」
    「そういう日なんじゃないのか。だからピンと来なかったんだ。普通の格好で食べ物を出せなんて普通に言われてもハロウィンだなんて気づかないよ」
    「まあまあ、結果わかってたんで一緒でしょう。先輩はお菓子を持ってないのでいたずらをされるしかないんです。何かと理由をつけて好きな人と甘い夜を過ごすっていう……そういうイベントですよ」
     ところでこの狭いアパートは人間二人がくつろぐとなると、居場所は一つしかない。そう、そこの部屋の隅に置かれているベッドだ。狭くて小さいけど。
    「いつもと何か違う?」
    「しょうがないですね、次回は仮装してきてあげますよ。カボチャをかぶったりとか、カボチャを……カボチャを頭からかぶるやつを一回やってみたいです」
    「カボチャをかぶった喜八郎と甘い夜を過ごせる自信がないけど」
    「でも最終的には全部脱ぎますから」
    「え、今から?」
    「そうですよ」
     何を言ってるんだこの人は。今やベッドまでじりじり追い詰められて押し倒されてるってのに、なんだか冷静ぶって。しかも僕は結構、大胆なことを言ってやったつもりなんだけど。伝わってないか。まあ、そういう人だってわかってる。
    「別にいいけど、その前にそこの豆腐を冷蔵庫に入れてくれ」
    「はい?」
    「出しっぱなしだと痛むから」
     シャツをまくり上げた僕を軽く押しのけて、先輩はベッドの上から机を指差す。さっき僕が置いた一パックの豆腐が、ぽつんと取り残されている。
     伝わってないどころの話じゃないな。
    「今その話します? ぶち壊し、ぶち壊しですよこんなの。この状況で豆腐の心配する人、全世界で久々知先輩だけです」
    「喜八郎の豆腐だぞ」
    「いりませんよ返します」
    「じゃあ冷蔵庫入れといてくれ。食べ物を粗末にするのは間違いだ」
    「……そうですね」
     正論。そういう人だ、知ってる。
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