おはようからおやすみまで 寝てた。一つ飛ばして向こうの布団で寝てるヤツの寝言だかいびきだかで目が覚めた。……起きて待ってるつもりだったのに。
隣の布団はまだ空いてる。少し肌寒いのはそのせいだろうか。部屋ん中はまだ明るいから、寝てたのはほんの一瞬だ。風呂場の方からガタガタ物音がしてる。円成寺さん、シャンプー詰め替える……とか言ってたっけ。俺だったらそんなん明日また風呂入るときにやればいいか思うけど、円城寺さんはマメだ。
円城寺さんを待ってて、ちょっと横になってたんだった。風呂から上がってすぐに布団に入ったせいで寝ちまったんだ。あっちで騒がしく寝てるヤツもそうだろうな。このまま横になってたら、また寝ちまいそうだ。そんでまたアイツの寝言かいびきで起こされるかな。
考えてるうちに、廊下の電気が消えたっぽくて、部屋の中もちょっとだけ薄暗くなった。円城寺さんのアパートはそんなに広くないから、そういうので円城寺さんがどこにいるかすぐわかる。
「二人とも、寝てるか?」
部屋の入り口の方で、円城寺さんが小声で言った。足音を立てずにこっちに歩いてくる。気配もほとんどない。身体の使い方がウマいのは、流石だ。……でも、畳が体重で沈むから、枕元まで来るとわかる。
「起きてる」
俺も小声で答える。あっちで寝てるヤツに気を使ってやった。ホントは一瞬寝てたけど。円城寺さんが部屋の電気を消しながらちょっと笑った気配がした。そんで隣の布団に潜り込む。そこに居るだけであったかくなる。
暗くて円城寺さんの顔は見えない。でもこっち見て笑ってるのはなんとなくわかる。その、笑い方がすげー好きだ。楽しそうっつーか、嬉しそうな笑い方、だと思う。
円城寺さんが俺とかアイツの顔見て嬉しく思ってるっぽい、っつーのは、なんっつーか、そんなのあり得んのかよって未だに思う。でも円城寺さんはマジなんだって、もう何度も思い知らされてる。
「今日はさせてもらえないかと思った」
「何が?」
「おやすみのキスだよ」
そんでこういう甘いこと、言うのが好きだ。俺がじゃなくて円城寺さんが……甘いこと言ったり、するのが好きだ。俺は、そういうの嫌じゃないし、自分から言えたらいい、とは思うけどどうしても恥ずい。
「していいか?」
「ああ」
そう頷くのもまだ恥ずかしい。ガラじゃねーし……じゃ、なくて……そんなのより、やっぱ好きすぎるんだと思う。ソワソワする。
俺、変な顔してねーかな。暗いから円城寺さんからは見えてねーか。と思ったけど、円城寺さんは迷わず俺の顔に手を当ててきた。見えてんのかも。見られてんならもうしょうがねーって開き直って、自分から円城寺さんの方に近づいた。
額に唇が押し当てられる。ちゅーって、ちょっとわざとらしく音を立てながら円城寺さんにキスされる。んで結構長い。でも、そこか……。まあ寝る前だし、あっちでもう寝てるヤツも居るし……。
朝は行ってらっしゃいのキスをするし、寝る前にはおやすみなさいのキスをするし、円城寺さんはなんていうか一日中円城寺さんだ。当たり前だけど……つまり俺は当たり前に一日中円城寺さんのことが好きだ。
当たり前すぎること考えてるな。もう半分ぐらい頭が寝てんのかも知れねえ。
「おやすみ、タケル」
「アイツは?」
「……寝込みを襲うのはいかがなものか。自分の中で理性と欲望が戦闘中だ」
円城寺さんが真面目に悩んでるっぽく言うから、思わず吹き出した。おでこにキスするだけなのに襲うっつーのも、らしい。でも確かにそんぐらいは強烈なキスかもしれない。少なくとも俺は十分ドキドキする。
「そういや円城寺さんが来るまではいびきが聞こえてたけど、さっきから静かだな」
「あれ? もしかして漣も起きてるか? おーい、れーん」
円城寺さんの向こう側の布団にさっきまであった人間サイズの膨らみがねぇ。つーか羽毛布団の下にサッと引っ込んでいったのが見えた。寝返り打ってそっちを見た円城寺さんもそれに気付いただろう。追っかけて、布団の中潜ってった。
「れーん」
布団の中で円城寺さんがアイツを呼んでるのがくぐもって聞こえる。円城寺さんデカいから、布団に潜るっつっても背中とか足とか普通にはみ出てるし、何やってんのかだいたい見てわかるけど。
円城寺さんのデカい膨らみが三つ並んだ布団のアイツのとこまでモゾモゾ移動して、アイツの布団に頭突っ込んで、そんで動きが止まった。
いまアイツもされてるな……多分。