また日の出を一緒にヘブラ山の山頂付近、天候が良い時に訪れるとどの場所よりも輝く星空を見ることができるそこで2人はテントを張り焚き火を囲っていた。
今となっては知らぬ人すらいない英傑リーバルと退魔の騎士リンク。焚き火で沸かしたお茶をカップに注ぎ、2人はひとくち口に含んで白い息を吐き出した。
「あー…温まる…」
「ポカポカの実を入れたからね」
舌をピリッと痺れさせるお茶はリーバルが羽根のないリンクを気遣って作った特別なもので、商人から以前作り方を聞いていたものだ。
「これなら簡単に作れるし、次の遠征の時にも持っていこうかな」
「携帯しやすいからいいと思うよ」
暑くなってきたのかリトの羽飾りを頭から取ったリンクは、汗すらかき始めた額を手のひらで仰ぎながら地平線を眺めた。
「日の出までまだまだか…仮眠する?」
「やめた方がいい。僕はともかく君は絶対に起きないから」
喉を鳴らしながら笑われたリンクは言い返そうとしてやめた、きっと本当に起きられないと自分でもわかっていたから。
焚き火の火に薪を足して棒で突くリーバルを見つめ、リンクはその横顔を懐かしそうに眺めた。
「…そんなに見られたら気になるんだけど」
睨むというほどではないが、鋭い目で見つめ返されたリンクは棒を置いたリーバルの手にそっと自分の手を重ねた。
「出会った時のこと思い出してた」
「戦った時かい?」
「いいやその前。リーバルに救助された時の事」
「ああ…ヘブラの猛吹雪の中、鎧だけで入山して凍え死にかけてた騎士様との出会いね」
今は笑い話にできているが、あの時は本気で死んだと思った。
雪山を舐めてたとしか言いようがない。当時のハイラル兵はポカポカ薬さえあれば大丈夫だろうと身軽で慣れ親しんだ防具を優先して防寒対策をたいしてしていなかった。
つまり、遭難した時なんかを一切想定していなかったのだ。
「ほんと、あの時リーバルがいなかったらどうなっていたか」
記憶を辿り当時を思い返す。
姫付きの騎士のくせにと言われたら耳は痛いが、リンクは雪山に行くのはほぼ初めてだった。
ゼロではない。しかしここまで吹雪いた雪山はおそらく初めてのことだった。
はぐれないように意識はしていたが、気が付けばホワイトアウトしていて周りには誰もおらず、ポカポカ薬の効果もあとわずかとなっており足や指先の感覚はほとんどなくなっていた。
なんとか足を動かすが、凍える寒さにいつしか足は止まり雪が腰まで埋もれさせていた。
新しいポカポカ薬はない。全て荷運びの兵が管理していた。
目の前が真っ白で目も開けていられなくなった時、不意に腰のあたりが何かに捕まれ持ち上げられた。
振り返る力もなく全身の力を抜いていると、バサバサという羽音と共に地面が遠くなるのが見える。
魔物にでも捕まれたのだろうか?
「全く…こんな悪天候の日に入山するなんて馬鹿な奴もいたもんだ」
どうやら魔物ではないらしく悪態をつかれながらリンクは空を舞い、そしてその言葉を最後にリンクの意識は完全に途切れた。
次に目覚めたのは場所までは分からないがパチパチと気が爆ぜる焚き火の前だった。
ぼんやりとした意識の中で周りを見渡すと、岩の影になった場所にいることがわかった。
「目覚めたかい?無謀な騎士さん」
隣には片方の翼を広げて毛布で包み込んだリンクの体を覆ってくれているリトの姿があり、リンクは慌てて飛び起きた。
「っと、まだ動かない方がいいよ。さっきまで震えて死にかけてたんだからさ」
体を起こした瞬間毛布の隙間から冷気が入り込み、リンクは体を震わせて再び焚き火の前に体を横たえた。
「鎧は…?」
「あんなの防寒にならないし邪魔だから脱がせた。全く…重くて仕方なかったよ」
「貴方が助けてくれたのか?」
「僕以外に誰かいる?たまにこうやって遭難する奴がいるから僕ら見回りも忙しいんだ」
本当なら魔物の警戒だけで済むのにさと頬を膨らませる姿は幼さがあり、頬紅があることで気づいてはいたがどうやら助けてくれたのはまだ年若いリト族の青年らしい。
「ありがとう…雪山を舐めてた」
素直に謝ったリンクにリトの青年は目をぱちくりとさせ、やがて不貞腐れながら顔を背けた。
「別に。助けたのは見回りのついでだから感謝はいらない。それより、君1人で入山したの?まさか仲間も遭難してたりしないだろうね」
「分からない。けど他はベテラン騎士だから大丈夫だと思う」
仮にいたとしても探すのは困難だろう。このリトなら不貞腐れながらも探し出してくれそうだが…。
「そういえば、名前を聞いてもいい?俺はハイラル王家に仕えている騎士リンク。リトの村を目指していたんだ」
「…リーバル。村には何の用?…ああやっぱりいいや、どうせ下っぱだろ?機密事項もあるだろうし君の上官に直接聞いてやるよ」
ヘブラ山はたびたび豪雪地帯になる。
吹雪く雪の中でも村はそれなりに暖かく保たれているが、一歩外に出ると嵐が吹き荒れている事もある。