タイトル未設定魔界王ガッシュ・ベルがそれに気付いたのは穏やかな夜のことだった。
成長した魔物は毎日睡眠を取らない。今晩は睡眠を取ることを決めていたこともあり、最愛のパートナーである清麿をベッドに連れ込んだ。
「いつまで経っても子供かお前は……」
呆れと照れと愛情を滲ませた笑顔で、清麿は添い寝を許してくれた。
苦しませないように、でもぎゅうと抱きしめた。
愛するものの匂いと体温と鼓動が傍にある幸福感に包まれて眠っていた、のに。
清麿の呼吸は何の前触れもなく止まってしまった。
「……っ」
規則正しく動くはずの清麿の胸が動いていないことに気付いて、ガッシュは飛び起きる。
(何故だ?いつから)
震えて冷える己の身体を叱咤し、ガッシュは清麿の胸に耳を当てる。
心臓はまだ、動いているし、身体もあたたかい。
「清麿っっ」
「うわっ」
全力で清麿の名を叫ぶと、呆気なく彼は目を覚ました。
「どうしたガッシュ……?」
こちらの心配までして見せて。
滲む視界に映る清麿は異常なほどにいつも通り。安心と不安が綯い交ぜになって息が詰まりそうになるが、先に問いたださなくてはいけない。
「お主、息が止まっておったのだぞ」
「ああ。たまにあったやつ。ここ最近は無かったのに」
淡々と答える清麿の姿に、不安で冷えた身体が怒りで熱される。
「説明をせぬか詳しくであるぞ」
ーーーー清麿曰く、一度止まった身体は止まることを覚えてしまったらしい。
動き続けることが当然、止まれば終わり。
で、あるハズの身体は一度止まってから動き出した。ついでに答えを得る異能まで引っさげて。
止まり続けては身体に不調をきたすから、ほんの少しだけ。止まっては動く、を繰り返す。
「ファウードを倒した後の春休み中は酷かったな。頻度も多いし、酸素が足りなくて不調も起こした」
「知らなんだが……」
清麿がひたすら眠っていた春休み後半。
ガッシュは不安でたまらなくて、あまり清麿の傍を離れなかった。それでも、知らなかった。
清麿は、今の今まで隠し通してしまったのだ。
「デュフォーに相談してある程度は治ったんだ。それからはホントに止まらなくなったんだけど」
「けど?」
続く言葉は言い難いものであるのは清麿の表情から察したが、それを許してやるわけにはいかない。
「今日止まったなぁー……」
「清麿、誤魔化されてはやらぬぞ」
ベッドに向かい合わせに座る清麿は深く俯いた。
「……あのとき、春休みか。生きてるか死んでるかが、わからなくなってた。実は全部夢で、オレはとっくに死んでて。あとはいなくなるだけ、の」
「っ」
「身体が止まって、息が苦しくて目が覚める。苦しいのは生きてる証拠だと、自分に言い聞かせてた」
知らなかった。いや、知ろうとしなかった。
幼い自分は清麿の死が怖くて仕方がなくて、口にすることもできなくて。
「お前が、寝こけてるオレが生きてるかどうかを時々確認してたのを知ってた。から。」
そして清麿はどうしようもなく優しくて、強いから。
「息を殺して耐え続けた」
再度、己を殺すことを選ばせてしまった。
苦しかっただろう。怖かっただろう。
それら全てを尽く、殺させてしまった。