晴天に墜落(銀本)ゼオンは降り立った地面から、顔を上げた。
(ああ、また)
己の魔本の気配を辿って来てみれば、持ち主は民家の屋根程の高さがある塀の上を歩いている。
足元を全く見ていないのに、靴の幅とそう変わらぬ厚みの上を進む姿に躊躇いは微塵も見えない。
(本を持ち歩くようになっただけマシか)
俯くのはもう飽きたと、デュフォーは言った。だからか奴は足元を見ない。危険を見ない。認識してはいるのだろうが、行動を伴わないなら見ていないも同然だ。
だから足を踏み外してバランスを崩す。
(よくもまぁ飽きもせず)
青空に投げ出されるデュフォーの身体。
塀を掴む素振りもなく、助けを求める素振りもなく、本を胸に抱えて落ちていく。
本を持ち歩け、手放すな。という言いつけを守って落ちる。落としはしないが。
「デュフォー、そのまま落ちろ」
落ちるデュフォーを受け止める為にマントを広げる。
「ゼオン」
本を抱えて落ちるデュフォーと目が合う。その瞳に何の感情も見えないのは、いつものことだった。
「お前はいつも落ちる」
マントで受け止めて、地面に下ろした。
文句のような、事実確認のような一言だけが口から出る。
もっと言うべきことが山ほどあるだろうに、唇は全く動かない。
(空にも地にも落とすものか)
まだ、手放すわけにはいかない。
「……帰るぞ、デュフォー」
「ああ」