れめまふが飴を舐める話 「あ! 晨君、その飴どこで買ったの?」
叶黎明はトイレから真経津晨のいるリビングのソファに戻ると、開口一番、真経津の側、テーブルに置かれた飴の袋を指差した。
今日は真経津の家で新しく買ったゲーム大会をするためにいつもの五人で集まった。他のメンバーの獅子神・村雨・天堂はおやつの買い出しに出ている。正式に言うと獅子神・村雨が買い出し、天堂は「スーパーに行く道中にあるドラストに用がある。新作のプチプラコスメを確認したい」とついて行った形である。
叶が指摘した飴は数ヶ月前に販売終了となったものだ。叶が生まれる前どころか親世代からのロングセラー商品。基本的にエナジードリンクばかり飲んでいら叶だが、本業の動画編集作業の合間等に飴やグミや駄菓子も摘む。作業用BGMならぬ作業用おやつのスタメンの一つだった。
「この飴。販売終了となるからってバズって最後に転売ヤーとかに買われまくって最終的にどこ行っても買えなかったんだよなー」
叶はそう言いながら真経津の隣に座る。
「叶さんこの飴好き?」
「嫌いな奴いないっしょ」
黒地に花柄の、レトロだが現代でも十分通ずるキャッチーなデザイン。口に入れるとバターや糖蜜の濃厚な甘さが広がるその飴を、叶は幼少の頃から好いていた。
「確かにこの袋のデザイン、どこがってわけじゃないけど叶さん好きそうだもんね」
真経津はそういいながら、うんうんと頷く。
「カラ銀からちょっと行ったところに、なんかデッカい駄菓子屋なのか菓子問屋なのかよく分かんない店が有るんだけど、二週間前位に行ったらそこに三、四袋残ってたよ」
「えー、まだあっかなー。俺しばらくギャンブル無いんだよなー……唯君に頼んで見といて貰おうかなー……」
叶の言う唯君とは担当行員の昼間唯の事だ。本来の行員【ジャンケット】の業務では無いが、叶と昼間は休日に一緒にゲーセンで遊ぶ程度には仲が良い。味の好みも似ているところがあるから「半分ずつにしよう」と提案すれば業務の合間に行ってくれるだろう。
「ねぇ晨君、俺にも一個ちょうだい!舐めたい舐めたい」
叶はワクワクしながら真経津にねだった。
「勿論良いよー。でもその前に……」
真経津はにこにこしながら、飴の大袋に両手で顔の前に持ち上げた。ちょうど真経津の鼻から下が隠れる位置だ。
「さーて、問題です。今、僕の口の中にある飴は何味でしょーか?」
「……それってマジの賭け?」
叶は問う。仮にも二人は命を懸けて戦ったギャンブラー同士。些細な勝負だとしてもそこには緊張が走る。
「まさか。ただのクイズだよ。正解でも不正解でも叶さんに飴はあげる」
クイズといえどそんなふうに出題されてしまったら叶は負けられない。
真経津は飴の大袋を叶から中身が見えない様、テーブルに置いた。口の動きは最低限で口の中は見えない。叶が席を外している時から複数の飴を舐めているのか、香りもどうやら混ざっていて判断はできない。
「あっ、袋の中を見るのは無し。質問は一つだけして良いよ」
大袋に描かれているが、この飴はバター•コーヒー•ヨーグルトの三種類。単純に三択ではある。当たり前だが飴の個包装の小袋は無い。ちゃんと捨てたか隠してあるのだろう。
「そうだな……」
叶は考える。質問できるのは一度。勿論「今晨君の口の中に入ってるのは何味?」なんて訊いてもおそらく嘘の返答をされるだろう。そもそも正解に直接通ずる質問は答えてくれないだろう。
ならば。
「……晨君がこの三種類で一番好きじゃないのは何味?」
叶は貴重な質問枠で真経津の好みを問うことにした。おそらくこの質問で真経津が嘘をつくことはない。
そしてある程度答えを絞れる。
「んー……。どれも好きだけど強いて言うならヨーグルトかな。ちなみに叶さんは?」
「俺も〜。どれもうまいけどね。やっぱ俺たち味の好み合うよな」
真経津の答えを聞いて、叶はニヤリとする。観測者はその見えない口内を観た。
「わかったぞ!今、晨君の口の中にあるのはヨーグルト味だ」
叶は回答すると、真経津に近寄り、柔らかく甘い唇に自身の唇を合わせる。そのまま自身の舌で少し舐める。
「……んっ」
小さなリップノイズと共に閉じられていた真経津の唇に隙間が開く。そのまま口腔内に舌を捩じ込み、探る。
そして目当てのものを探し当てて舌で絡めとる。
「んっ、…んぐぅ……」
深いキスを終えて真経津から離れると、叶は入手した目当てのものを口の中で噛み砕く。爽やかな乳製品風味とほんのりレモンの香りがする。
ヨーグルト味の飴を。
「正解だよ。叶さん」
そういうと真経津は叶の頬に軽くキスをする。
「へっへー!晨君の事だから、こういうキスされる事を見越してそんなに好きじゃ無い味を口にいれてそうだなって思った」
可愛いことしてくれちゃってー。と叶も真経津のおでこに何度も啄む様なキスをする。
「ねぇ叶さん。このクイズ、買い出し行った三人にも帰ってきたらやらない?」
「いいじゃん!でも工夫しないとな。礼二君は鼻良いから当てちゃいそうだもんなー」
「二人で順番変えて、いくつか舐めとこっか」
「そうだな!あとさー、今みたいに直前にキスしとく?」
「しとこう!でも村雨さん『あなた達、においが混ざっているぞ』とか言いそー」
「絶対言う!」
二人は飴の様に甘い雰囲気の中、楽しげにそんな計画を立て始めた。