れめまふ 家に殴り込みに行く話 「晨君!俺だけど!」
時刻は15時過ぎ。都内某所のタワーマンションのとある一室の前。
叶黎明は近所迷惑をもろともせず彼氏の家のインターホンを連打する。彼氏の真経津晨は絶賛自由業無職。銀行賭博の担当行員や友人の医師と違い、連絡はすぐに返せるはずなのにLINEに既読がつかない。付き合いたての一番ふわふわした楽しい時期なのに。マジ信じらんない!メッセージが100件を超えたのに連絡がつかないので殴り込みに来たのだった。でもそもそも彼氏に会いに行くのに理由なんていらなくね?
「晨君!」ピンポンピンポンとインターホンを押す指に力が入る。
「あんまりこういうことまだしたくなかったけど……使うか」
叶は紫色のチェックのパンツのポケットから鍵を
取り出した。家主には内緒で作った合鍵である。鍵穴に入れて回すと簡単に開いた。
「お邪魔しまーす」
元気に挨拶したから、ヨシ!叶は靴を脱ぎ捨てて、ずんずんとフローリングの廊下を歩く。
「晨君!……あれ?」
リビングに辿り着いたが、そこに家主である彼氏の姿はなかった。一応キッチンの方も見て回ったが誰もいない。
「……」
叶はリビングを出て、さっき歩いてきたフローリングの廊下を戻る。そして一番リビングに近い部屋のドアを静かに開けると、真経津の姿を見付けた。
そこは真経津の寝室であった。1人で寝るどころか体格のいい叶も含めて2人で寝るにも充分な大きさのベッド。その中央に静かに真経津は体を丸め胎児の様に眠っていた。叶がベッドに近付くと、真経津のすぅすぅと寝息が聞こえる。寝る時に邪魔だったのか、いつもつけてる装飾付きのリボンタイは着けていない。ストライプシャツのボタンは2,3外されていた。
寝ているが、楽しい夢でも見ているのか微笑んでいる。
「……そんなかわいー顔されたらさー、怒れねーじゃん」
叶は小さく呟く。真経津の後ろ側に周り、起こさないように静かにベッドに入る。質がいいマットレスなのか全く軋まなかった。
叶はそのまま真経津を後ろから抱きしめながら添い寝する。
(やっぱ男の体だなー)
細くて柔らかい女の子の体と違って、真経津の体は平均的な男性と遜色ない体をしている。特に鍛えてるわけでもないがところどころゴツゴツと硬い。だから今こうしていて、めちゃくちゃ抱き心地がいいかと言われたらそうでもないけど。
(それでもやっぱ晨君とこうやって寝るの……いいかも)
叶は大きく欠伸をした。既読がつかない事に怒ってここまできたが、なんだから力が抜けて眠くなってきた。叶はそのまま目を閉じる。
「おやすみー。晨君」
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「叶さんー。叶さーん。どいてよー。重いよー」
真経津の声がして叶は目覚めた。
気がついたらお互い寝返りを打った様でうつ伏せの叶の下に仰向けの真経津がいる様な状態になっていた。
叶は起き上がりながらも「は?重くないし?それが彼氏に対していう事ですか?」と文句を言う。起きて第一声がそれかよ。
「ってか晨君さー、LINE返してよ。未読100件溜まったから一応来ちゃったよ」
「えー?そうなの?寝てたんだから仕方なくない?」
叶と真経津は2人して起き上がりベッドの上にあぐらをかいた。
「それに僕、夢の中では叶さんと遊んでたもん。楽しかったー。命懸けだった」
真経津は、んーっと伸びをした。銀行賭博の夢でも見たのだろうか。
「晨君の夢の中の俺だろ。それは俺じゃない」
叶は拗ねた。人がやきもきしながらここまで来たのに酷い男だ。
壁掛け時計を見るともうすぐ18時。部屋にも西陽が入り込み眩しい。
「ってか、晨君見たらお腹空いてきた」
「じゃあ獅子神さんちにでも遊びに行く?美味しい夕飯作ってもらお」
「いいねー!俺敬一君ちの合鍵も作ったよ」
「え、なにそれ僕もほしいな」
叶と真経津はベッドから出て、歩き出した。